自宅で手軽にパンを作れる「ホームベーカリー」。憧れるけれど、大きくて置き場所に困り、諦めている人も多いのではないだろうか。
パナソニックが2024年秋に発売した、業界最小サイズのコンパクトベーカリー「SD-CB1」が話題を呼んでいる。
A4サイズのスペースにすっきり収まる無駄のないシンプルなデザイン。そして約0.6斤と少人数世帯にちょうどよい量で、パンを余らせず、毎回焼きたてを味わえるのが特徴だ。
また、コンパクト化を実現するため、パナソニックの独自技術である「イーストの自動投入機能」は搭載しない決断をした。
従来の強みを削り、「置き場所に困る」という弱点にアプローチしたホームベーカリーの開発背景とは――。

ホームベーカリー所有者の4割が「途中で使わなくなる」
パナソニックは1987年、初のホームベーカリーを発売。現在に至るまで、米そのものからパンを作る「GOPAN」の名で知られたライスブレッドクッカー(現在は生産終了)、本格的な生食パンや低糖質パンを作れる「ビストロ」など、さまざまなアイテムを世に送り出してきた。
一方、同社の調査によると、ホームベーカリーの所有率は約17%にとどまっており、うち約40%が途中で使わなくなっていたという。その理由としては「置き場所がない、置くとキッチンが狭くなる」ことだった。
開発にあたった調理機器マーケティング部の中江睦さんは、「調理家電は一度片づけてしまうと、そのうち出すのが面倒になり、使わなくなる傾向があります。日々焼き立てのパンを味わってもらうには、キッチンに常設できる大きさに改良する必要がありました」と語る。
近年は「ファミリー層」と呼ばれる4、5人家族が減り、代わりに夫婦だけの「DINKs」や子どもがいる3人家族など、少人数世帯が増えている。そうした家庭のキッチンはさほど広くなく、調理家電を置くスペースは限られている。
また、従来のホームベーカリーで作れるパンは1〜2斤が主流。しかし、少人数世帯で一度に食べ切るのは難しく、余ったパンを翌日に食べたり、冷凍したりする手間もかかる。
毎日手軽に焼きたてのパンのおいしさと香りを楽しんでもらいたいーー。そんな思いから「省スペース」「食べきりサイズ」を重視した商品開発が始まった。
新プログラムで安定した焼き上がりを実現
2024年9月に発売された「SD-CB1」の従来の製品との大きな違いは、ベーカリー本体、そして焼き上がるパンの大きさが小さくなっていることだ。

本体の大きさは、幅18.8×奥行き28.5×高さ24.3cmと業界最小サイズを実現。幅が狭いカップボードでも、電子レンジと並べて置けるサイズ感にこだわった。
作れるパンのサイズは、5枚切り食パンの3枚分にあたる約0.6斤。予約機能を使えば、朝食の時間に合わせてパンを焼き上げることもできる。
一方、本体の高さを大幅に削るため、同社の独自技術である「イーストの自動投入機能」を取り外すという決断をした。
イーストには、パン生地を発酵させるための炭酸ガスを生む働きがあり、これにより生地は大きく膨らむ。ただ、パン作りの際、初めからイーストを入れてしまうと、イーストが必要以上に活性化する「過発酵」の状態になり、イーストの臭いが強く出たり、焼き上がり後にしぼんでしまったりすることがある。
そのため、従来の製品には、庫内温度と室温を感知し、最適なタイミングで後から自動投入してくれるディスペンサーがついていた。

そこで「SD-CB1」では、このイーストディスペンサーを外す代わりに、新たに開発した「改良ストレート法」というプログラムを搭載。初めから小麦粉とイーストを投入し、最初に短時間の「ねかし」を入れることで発酵を調整しながら粉と水をなじませるものだ。
「本体に搭載したセンサーで室温や庫内温度を測定し、気温に合わせてプログラムを変えることで一年中安定して焼き上げることに成功しました。小型化を実現するにあたり、部材も一から見直し、例えば『練り』の工程で重要なモーターも、従来の速さが自在に変えられるものから、汎用性の高い小型モーターに変えています。このプログラムがあるからこそ、部材を簡易化するという『攻め』の設計ができました」(中江さん)
「SD-CB1」の価格は21,780円(公式通販サイト)。ホームベーカリーの価格帯は3、4万円台だが、初めて使う人でも手に取りやすい価格を目指したという。
実際にパンを焼いてみると…?
「SD-CB1」は限界まで小型化にこだわっているが、基本の「デイリーパン」のほか、高加水パンやガトーショコラ、ピザなどの生地作り、ジャムなど30種類が作れる多彩なメニューを搭載している。
ホームベーカリー初心者の筆者も実際に使ってみた。まずは「デイリーパン」に挑戦。用意するのは、ドライイースト、強力粉、バター、砂糖、塩、スキムミルク、水。イーストなどの材料を計るスプーンと、粉計量カップが付属しており、デジタルスケールではかる手間を省けるのもうれしい。

羽根を取り付けたパンケースに、まずはドライイーストを入れ、次に強力粉を山を作るように重ねる。続いてバターや砂糖などの材料を入れ、最後に水を周囲に回しながら注いでいく。
焼き上がりは大体3時間。焼き色は3段階から選べる。また3〜13時間後まで予約も可能なので、今回は翌日の起床する時間に合わせてセットした。
料理は人並みにできると自負しているが、正確な計量が肝心のお菓子づくりは苦手。パウンドケーキが膨らまなかったり、クッキーがボソボソになったり……これまで幾度となく失敗を重ねてきた。果たして明日の朝、ふっくらと美味しそうなパンは出来上がるのか。不安を覚えながらも、眠りについた。
翌朝7時、ピピピ!という焼き上がり音で目を覚ました。リビングには、焼き立ての香ばしいにおいが充満している。ベーカリーのフタを開けると…そこにはレシピの写真と違わぬコロンとした食パンがあった。

早速、淹れたてのコーヒーと一緒にいただいた。大胆に手で割いてみると、外はカリッと、中はふわふわ…。焼き立ての温かい食パンの美味しさに、作った本人ながら感動した。

好きな具材を入れたアレンジ食パンも作れる
その後、付属のレシピに沿って、チョコチップ入りのチョコ食パンやガトーショコラも作ってみた。

レシピに載っていないものでも、合わせて50g以内ならドライフルーツやオリーブ、ベーコンなどお好みの材料を入れることができる。また、小麦粉の重さの約15%(20g)を目安に、にんじんやカボチャなどの野菜もすりおろしたり、ゆでたりして入れることも可能だ。
「私は余ったカボチャの煮物を入れたり、オリーブと刻んだベーコンを入れてイタリアン風にしたりして楽しんでいます」と中江さん。一日で食べ切れる大きさなので、毎日違ったアレンジパンを焼けるのも魅力だろう。
パナソニックは近年、一人暮らし用のパーソナル食洗機「SOLOTA」や、米と水の計量・投入から炊飯まで自動で行う二合炊きの「自動計量IH炊飯器」など、少人数世帯にアプローチした家電を手掛けている。

「新しい世代においては、たくさん機能が搭載されたハイスペックで高価なものより、必要最低限の機能がしっかり詰まったコンパクトなアイテムが求められています。今回のコンパクトベーカリーのように、値段やスペック、サイズの観点から『ちょうどいい』ところを狙った商品開発を今後も進めていくつもりです」
パナソニックでは、サブスクリプションサービス「foodable(フーダブル)」で小世帯向けのコースも展開中。コンパクトベーカリーを新品で貸し出し、毎月異なるパンミックスを届けるコースもある。気になった人は、サブスクから始めてみるのも一つの手かもしれない。