「いないことにされてきた」者同士の感情が交差する。漫画「半分姉弟」が紡ぐ、「ハーフ」と呼ばれる人たちの物語

「当事者性が薄いことほど、無責任で無神経な発言やコメントをしてしまった経験って実は多くの人にあるのではないでしょうか」(藤見よいこさん)。漫画「半分姉弟」は、それぞれに異なるルーツを持つハーフたちが主人公の群像劇だ。
『半分姉弟』©︎藤見よいこ/トーチweb

めっちゃスポーツできるとか
めっちゃ容姿整っとうとか
めっちゃいいやつ 面白いやつ
嫌な気分に、不安にさせんやつ
俺らは なんか特別群れにとって有用やないと 一員にしてもらえんのやと思う
━「半分姉弟」第1話より

「ハーフ」と呼ばれる人たちの日常を描いたweb漫画「半分姉弟」(トーチweb)の単行本第1巻が、3月28日に発売される。

一般に「ハーフ」は、「外国人」と「日本人」との間に生まれた子どもという意味で使われることが多いものの、曖昧な概念であり、肯定的にも差別的にも使われてきた。

歴史の中で「国際児」「ダブル」「ミックス」といった別の呼び方も生み出されてきたが、「ハーフ」という言葉は依然として日常のあらゆる場面で当事者に影響を与えている。

「半分姉弟」は、それぞれに異なるルーツを持ち、葛藤を抱えるハーフたちが主人公の群像劇だ。日本で「ハーフ」と呼ばれる人たちが日々受ける人種差別やマイクロアグレッション(※1)、ルッキズムなどの実態を突きつけるのと同時に、身近な人との衝突や、「分かり合えなさ」を受け止めながら互いに関係を構築し直そうとする姿が描かれる。

作者は、スペイン人の父と日本人の母がいる「ハーフ」の藤見よいこさん。

「『ハーフ』という言葉が持つ『半分』の意味合いに傷ついてきた当事者がいる一方で、アイデンティティだと感じる人もいる。今後、もしかしたら『クィア』(※2)という言葉と近い歴史をたどるかもしれません。『ハーフ』という呼称を問い直したかった」と語る。

本作品で描きたかったこととは。単行本の発売を前に、藤見さんに聞いた。

(※1)明らかな差別に見えないものの、人種・民族、ジェンダー、性的指向などにおけるマイノリティを対象に、相手が属する集団に対する先入観や偏見をもとに、その人個人をおとしめるメッセージを発する日常のやりとり。悪意の有無は問わない。

(※2)本来は「奇妙な」などの意味で性的マイノリティに対して侮蔑的に使われていたが、当事者が運動の中でこの言葉を取り戻し、「普通」や「当たり前」など規範的とされる性のあり方に当てはまらないジェンダーやセクシュアリティを包括的に表す言葉として使われている。

『半分姉弟』©︎藤見よいこ/トーチweb

「親恨みエピソード」の背後にあった問題

「半分姉弟」制作のきっかけは、藤見さんのハーフの知人がルーツを理由に差別されたことだった

学校で、友人と入った定食屋で、自宅近くのコンビニで━。作中では、ハーフの主人公たちが日常的に受ける人種差別やマイクロアグレッションが描写される。

フランス人の父と日本人の母がいる優太は、周囲から「異物」として扱われることに苦しみ、「普通になりたい」とミドルネームを取って改名した。

中国と日本にルーツがある紗瑛子は、幼い頃に「みんなと同じじゃない」と言われて傷ついた経験があり、中国人の母に溜め込んだ気持ちをぶつけてしまう。

藤見さんはこれまでに20人以上の当事者やその家族などに話を聞いてきた。

「『こんなの漫画に使えるかなあ、そんなに面白い話じゃないけど』と控えめな感じで話してくれる人も多かったのですが、社会で可視化されていないハーフの人たちの感情がまだたくさんあると気付きました。

ハーフの人の『親恨みエピソード』を聞くと、それは実は社会が悪いんじゃない?って感じることも多い。例えば小さい頃に親の通訳係をさせられてつらかったとか、学校からの保護者宛てのプリントを自分で解読しなければいけなかったという話は、ハーフの間であるあるです。

役所の通訳サービスが充実していれば、学校側がもっと配慮していたら、子どもがこうしたケアラーにならなくて済んだし、親に対してマイナスの感情を抱かなかったかもしれない。もちろん、それだけでは埋め難い溝を抱えている人もいますが、社会が解決できる部分は解決したほうがいいです」

外国ルーツの子どもに対する「支援力」に、自治体間で差がある現状も目の当たりにしたという。

「中国出身の子どもが多い大阪のある公立中学校では、中国と日本の2カ国語で表記されている掲示物などもあると聞きました。また中国の生徒たちが、日本の生徒たちに中国の文化や言葉を教える機会もあって、『この子たちは支援されるだけの存在じゃない』と学ぶ場が意識的に作られていたんです。社会の側がサポートすることで、子どもが追い込まれない体制は作れるはず」

「ハーフ」と呼ばれる人たちの背景は様々だ。日本で生まれ育った人もいれば、他の国で生まれ、一定の年齢に達した後に日本に来る人もいる。

単行本で初公開となるエピソードには、日本語が分からない状態で来日したフィリピン出身の子どもが主人公の回がある。

「移民の子どもたちの日本語支援をしている人からは、日本語を教えるいち教員という立場では家庭の問題に踏み込めず、葛藤することもあるという話を聞きました。

外国籍の女性が日本人男性と結婚して日本で生活する時、そこに権力の差が生まれ、DV被害に遭うケースは多く報告されています。そうした家庭の子どもが困っていても、お母さんに『別れなさい』と言える立場ではない、支援の線引きが難しいと聞きました。一人の大人としてどう振る舞うべきかと悩みながら、それでも損得を一切考えず熱意を持って子どものために動く人たちがいる。その現状も知ってもらえたら」

『半分姉弟』©︎藤見よいこ/トーチweb

関心が薄いところと、絶対に傷つけられたくないところ

「ハーフ」を取り巻く人々の感情の揺れ動きも、色濃く描かれる。

第3話は、外国にルーツを持たない「まりな」を中心に物語が展開する。まりなは「ハーフ」の美容師の紗瑛子に向けてしまった差別発言を悔いる。一方、まりなが相談した友人の「ひんたん」には、障害のある姉がいる。

「ひんたんは、障害者殺傷事件に対するネットのコメントに心を痛めていました。でもひんたん自身も、他の凄惨な事件に対しては適当に口を出して一丁噛みをすることがあった

当事者性が薄いことほど、無責任で無神経な発言やコメントをしてしまった経験って実は多くの人にあるのではないでしょうか。それぞれに関心が薄いところと、絶対に傷つけられたくないところを持っている」

まりなは勤務先で無視され続け、パワハラも受けていた。髪を金色に染めると決意したまりなの背中を、紗瑛子が力強く押す。

「紗瑛子みたいに見た目からは『ハーフ』と分からないハーフの人は、その場にいるのに『中国人ってこうだよね』と決めつけられたり差別発言を投げつけられたりして、いないものとして扱われる。そうした経験を、当事者の人たちからよく聞きます。

職場で無視されているまりなの、『自分はここにいるって分からせたい』という気持ちに紗瑛子は共感します。『いないことにされてきた』という点で2人の気持ちが重なる。

境遇が全く違う人同士でも、本当に分かり合えることは一生なくても、気持ちが一瞬交差するところを描きたかったんです

作り手の視座を見せるということ

家族や友人と正面からぶつかり、「分かり合えない」現実を引き受けた上で、もう一度関係を築き直そうとするプロセスが細やかに描写される。

藤見さんが「救い」のシーンを重視するのはなぜなのか。

「私は映画をよく見るのですが、現実の社会問題を扱っておいて『はい、これが現実です』と投げっぱなしにする作品があまり好きではなくて。問題提起はしたものの、悲劇だけ置いて去るような作品は、見る側に考えさせはするけれど、どうなってほしいのかという作り手の視座が見えないからです。

なので『半分姉弟』では、手の届く範囲の希望や祈りのようなものを描き続けたいと思っています。社会をガラッと一気に変えるのは難しい。けれど身近な人との間で何かが変わるというのを積み重ねていくことで、社会は少しずつ変わっていくはず。逆にそうした積み重ねなしには社会を変えられないのかも、という気もしています」



「今までは画面の端にエスニックマイノリティが映るだけで『描いてくれている、ありがたい!』という気持ちがありましたが、今はもっと先に進みたい」

インタビュー後編では、人種的・民族的マイノリティが描かれる日本のエンタメ作品に対する考えや、「日本の『外』ではなく、足元にある差別」について藤見さんに聞いた。

(取材・執筆=國﨑万智 @machiruda0702.bsky.social

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