同性カップルの結婚平等に“注視”はいらない。違憲と判断した名古屋高裁判決を受け、原告が訴える

LGBTQ+当事者が結婚の平等を求めていた裁判で、名古屋高裁も結婚が認められないのは違憲と判断。パートナーシップ制度では不利益は解消されないとも判断した。
名古屋高裁の前で判決を喜ぶ原告の弁護団や支援者(2025年3月7日)
名古屋高裁の前で判決を喜ぶ原告の弁護団や支援者(2025年3月7日)
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法律上同性パートナーとの結婚が認められていないのは憲法違反だとして、性的マイノリティの当事者が国を訴えていた裁判で名古屋高裁は3月7日、違憲判決を言い渡した

名古屋高裁の片田信宏裁判長は判決で、同性カップルの婚姻を認めない民法や戸籍法の規定について「性的指向による差別だ」と認定。

「法の下の平等」を定めた憲法14条1項「結婚や家族に関する法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定すべき」とした憲法24条2項に反するという判決を言い渡した。

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全国各地で行われている一連の裁判で、違憲/違憲状態判決は9件目となる。高裁では4件すべてで違憲と判断された。

原告の弁護団は判決後の記者会見で、これまで違憲判決が出ても政府が「判決の行方を注視する」という答弁を続けてきたことに触れ「“注視”という名目でいつまでも放置し続けるのを今すぐ改めるべきだ」と求めた。

これまでの10件の判決
これまでの10件の判決

名古屋高裁の判断は

この裁判は、「結婚の自由をすべての人に」訴訟と呼ばれ、30人を超えるLGBTQ+当事者が、北海道、東京、愛知、関西、九州の5カ所計6件の裁判で、国に「結婚の平等(法律上同性カップルも婚姻制度を使えるようにすること)」を実現するよう求めている。

結婚は、様々な権利や義務を生じさせる制度だ。

結婚することで当事者ふたりは法的な家族になり、親族や職場、医療機関など社会的にその関係が認められる。相続などの権利や配偶者控除など税制上の優遇も受けられる。

しかし、結婚について定めた民法や戸籍法には「夫婦」という言葉が使われており、結婚は男女間に限られると解釈されている。そのため、この制度を利用できるのは法律上異性カップルのみで、同性同士は排除されている状態だ。

愛知訴訟の原告で男性カップルの大野利政さんと鷹見彰一さん(いずれも仮名)も、婚姻届を受理されなかった。

ふたりは、同性同士の結婚を認めない法律の規定は「結婚の自由」を定めた憲法24条や「法の下の平等」を保障する憲法14条に違反すると訴えてきた。

一審の名古屋地裁は「同性カップルの関係を公証(公に証明すること)し、保護するための制度がないことは、憲法24条2項と14条1項に違反する」と判断した。

控訴審の名古屋高裁も、同性カップルが法律婚制度を利用することができないことは「個人の尊厳の要請に照らして合理的な根拠を欠く、性的指向による法的な差別取扱いだ」と認定。

一審と同じ憲法14条1項と24条2項違反だとした。

なお、地裁が合憲とした憲法24条1項について、名古屋高裁は違憲/合憲についての判断は示さなかった。

しかし判断の中で、「婚姻は両性の合意のみに基いて成立する」とした憲法24条1項は「いつ誰と婚姻をするかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたもの」と判断。

社会の変化を踏まえれば「両性」や「夫婦」という言葉が使われているからといって、国側が主張しているように、憲法24条1項が異性の結婚だけを想定しているとは言えないとした。

判決後に記者会見する原告の弁護団(2025年3月7日)
判決後に記者会見する原告の弁護団(2025年3月7日)
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名古屋高裁は「結婚制度を利用できないこと」を違憲と判断

名古屋高裁の判決には、原告の弁護団が「地裁判決よりも前進した」と評価した点がある。それは、同性カップルが現在の婚姻制度で結婚できないこと自体を違憲とした点だ。

一審の名古屋地裁は、同性カップルを法的に保護するための方法として「法律婚とは別の制度を設ける可能性もありうる」としていた。

しかし原告は、「別制度を作ることは性的マイノリティを二級市民扱いすることになる上、差別は解消されない」と訴えてきた。

この争点について、名古屋高裁は地裁と異なり別制度には触れず、「現在の婚姻制度を利用できないことが憲法に違反する」とした。

結婚に似た制度としては、地方自治体のパートナーシップ制度があるが、名古屋高裁は「同性カップルが被っている様々な不利益はパートナーシップ制度を利用しても解消されていない」とも判断した。

鷹見さんと大野さんも愛知県のパートナーシップを利用しているほか、ふたりの関係を証明するための公正証書も作成している。それでも、法律婚したカップルと同じ社会的な承認などは得られておらず、医療現場などで法的な家族と同様に扱われないのではないかという不安などを抱えている。

鷹見さんは高裁の判断について「別制度ではなく法律婚だという判断は本当にうれしい」と記者会見で述べた。

記者会見で判決について語る鷹見彰一さん(2025年3月7日)
記者会見で判決について語る鷹見彰一さん(2025年3月7日)
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さらに名古屋高裁は「同性カップルが婚姻制度を使ったとしても弊害が生じるとは想定し難い」とも認定。

現在の婚姻制度を使えるようにすれば、民法や戸籍法の『夫婦』という文言を『婚姻の当事者』など中立的な文言にするだけの法改正で済むなど、「別制度を設ける場合と違って、膨大な立法作業も必要にならない」として様々な角度から別制度に否定的な考えを示した。

原告の弁護団はこれらの判断について「国会がその気になれば直ちに法改正が可能であることを示した」と述べ、今すぐにでも結婚の平等が実現できると強調した。

子どもの不利益にもなると判断

この訴訟の全国の原告の中には子育てをしている同性カップルが複数いる。愛知訴訟の大野さんと鷹見さんも、養育里親として幼い子どもを育てている。

子育てをする同性カップルは、結婚が認められないために、親権のない方の親が病院で子どもの入院書類にサインできないなど、様々な困難に直面してきた。

名古屋高裁判決はこういった子育てをしている同性カップルについても言及。

医療現場や学校などで親権がない親に同意する権利が与えられていない、特別養子縁組をして親と法的な家族になることなどができないなど、親だけではなく、子どもの生命や身体、福祉についても深刻な問題が生じうるともした。

鷹見さんはこういった子どもに関連する判断について「育てる親だけではなく、同性愛者であることを自認する子どもたちにとっても、自分は存在してもいいんだと思える判決。多様性の認識が広まることで、より良い日本になっていくのではないかと思っています」と述べた。  

原告の自宅に並べられた靴
原告の自宅に並べられた靴
愛知原告提供写真

高裁4件目となる違憲判断が示されたことについて、原告だけではなく訴訟を応援してきた愛知出身の多くのLGBTQ+当事者も喜びを語った。

愛知県豊田市の性的マイノリティのコミュニティ「Teams.S@とよた」で当事者支援をする松本直也さんは、「家族や会社など人間関係を考えると、当事者が地元でカミングアウトするというのはとても大変なこと。今回の判決は、この愛知にいていいんだよとエンパワーメントさせるような内容だった」と語った。

名古屋レインボープライド共同代表の樹里杏さんも「日本の結婚の平等にとって大きな一歩で、すごく嬉しい」と述べた。

(左から)記者会見した松本直也さんと樹里杏さん(2025年3月7日)
(左から)記者会見した松本直也さんと樹里杏さん(2025年3月7日)
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一方で名古屋高裁は、結婚が認められないことで損害を受けたとして被告求めていた賠償金については、これまでの地裁・高裁の判決内容が統一されておらず、最高裁の判断が示されていないことなどを理由に退けた。

原告の弁護団はこの棄却判断について、「これまでに6つの地裁、3つの高裁で違憲と判断されてきた。それにも関わらず最高裁の判断がでるまでは国会に立法の猶予を認めるかのような判断で不当だ」とした。 

これまでに判決が言い渡された札幌、東京、福岡高裁の訴訟は、いずれも原告側が最高裁に上告しており、名古屋も検討する姿勢を示した。

名古屋高裁の違憲判決を受け、原告は国会に「注視」ではなく、具体的な法整備を検討するよう求めた。一方、林芳正官房長官は7日の記者会見で判決について聞かれ「国会における議論の状況や同性婚に関する訴訟の動向などを引き続き注視していく」と述べた

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