【判決要旨全文】名古屋高裁はなぜ、同性カップルの結婚が認められないのは違憲と判断したのか。

法律上同性パートナーとの結婚の実現を求めて、LGBTQ+の当事者が国を訴えている裁判。3月7日の名古屋高裁判決の要旨を全文掲載します。

同性カップルの結婚を認めていない民法などの規定は憲法に違反するとして、愛知県在住の男性カップルが国を訴えていた裁判で、名古屋高裁(片田信宏裁判長)は3月7日、違憲判決を言い渡した

<名古屋高裁が違憲とした憲法の条項が保障するもの>

▼「配偶者の選択など、結婚や家族に関する法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定すべき」(憲法24条2項)

▼「法の下の平等と差別の禁止」(憲法14条1項)

この日までにあった計10件の判決のうち、違憲・違憲状態判決は9件目になる。

名古屋高裁は具体的にどのような点を違憲と判断したのか。判決要旨全文を掲載する。

判決要旨全文

令和5年(ネ)第570号国家賠償請求控訴事件

判決要旨

控訴人

大野利政、鷹見彰一

被控訴人

主文

1本件各控訴をいずれも棄却する。

2控訴費用は控訴人らの負担とする。

当裁判所の判断の要旨

1 当裁判所は、現行の民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)は、同性カップルが法律婚制度を利用することができないとの区別をしているものであり、この区別は、現時点では、個人の尊厳の要請に照らして合理的な根拠を欠く性的指向による法的な差別取扱いであって、憲法14条1項に違反し、国会に与えられた立法裁量の範囲を超えるものとして憲法24条2項にも違反すると解するのが相当であるが、国会が本件諸規定を改廃しないという立法不作為は、国家賠償法上違法であるとは認められないため、控訴人らの請求は理由がないと判断する。その理由の要旨は、次のとおりである。

2 本件諸規定が憲法24条及び14条1項に違反するかについて(争点1)

(1) 性的指向、すなわち恋愛感情又は性的感情の対象となる性別についての指向(性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(以下「理解増進法」という。)2条)は、生来備わるものであって、自らの意思で選択や変更をすることができないものである。

そして、婚姻の本質は、両当事者が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として、真摯な意思をもって共同生活を営むことにあり、このような人的結合関係を形成することは、法律婚制度ができる以前から人間の本質的営みとして、自生的に発生したことは歴史上明らかであるから、個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益といえる。また、憲法24条2項が婚姻及び家族に関する事項の内容の詳細については法律によって具体化することを予定していると解されることを踏まえても、人間が社会的存在であり、その人格的生存に社会的承認が不可欠であることからすれば、上記のような人的結合関係が正当な関係として社会的に承認されるということ自体については、婚姻及び家族に関する具体的な法制度を離れた個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益というべきである。

(2) 本件諸規定の憲法適合性について

ア 民法739条1項は、いわゆる事実婚主義を排して法律婚主義を採用しているところ、本件諸規定は、同性婚を認める規定を全く設けていないから、異性愛者(性的指向が異性に向く者)は法律婚制度を利用することができるのに対し、同性愛者(性的指向が同性に向く者)は法律婚制度を利用することができないという性的指向を理由として法律婚制度を利用することができるか否かという区別を生じさせている。このような区別が事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものと認められない場合は、当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。また、憲法24条2項は、婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的には国会の立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、同条1項を前提としつつも、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるという要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものといえるから、婚姻及び家族に関する法制度を定めた規定が憲法14条1項に違反する場合には、立法裁量の範囲を超えるものとして憲法24条2項にも違反することになると解される。

イ 本件諸規定が異性間の人的結合関係についてのみ法律婚制度を定め、同性カップルが法律婚制度を利用する規定を全く設けていないことは、制定当時においては合理性があったといえるものの、国民の間で同性カップルを保護し、同性婚の法制化に賛成する割合が増加し、平成30年以降の世論調査等においては、同性婚の法制化について肯定的な意見が否定的意見を大きく上回り、令和3年以降は、肯定的意見が80%を超える調査結果も複数存在する等、現時点では、その合理性を根拠付けていた婚姻、家族の形態やその在り方に対する国民の意識が大きく変化しているといえる。また、諸外国において同性婚の法制化が急速に拡大し、G7においても同性婚や同性カップルに対する婚姻に準じた関係を創設する法制度を導入していないのは我が国のみという状況であり、我が国が批准した自由権規約の内容とこれに基づき設置された自由権規約委員会から同性婚の法制化が勧告されているなど、国際機関からも同性婚の法制化や同性カップルに対する法的保護が求められている。さらに、地方公共団体や民間企業においても同性カップルに対する保護に向けた動きが急速に拡大している。これらによれば、同性愛自体は、疾病や障害ではなく、性愛の対象が同性に向くのは自らの意思で選択や変更する余地のない性的指向によるものであるとの知見が確立するとともに、そのような自らの意思で選択や変更する余地のない性的指向を理由として差別をすることは許されず、性的少数者の権利を保障すべきであるという考えが、国内外を通じて急速に確立されてきているものということができる。このような状況下で、同性カップルに法律婚制度を利用することができるようにすることによって具体的な弊害が生じるとは言い難いにもかかわらず、同性カップルが、法律婚制度を利用することができないことによって、法的利益や各種の社会的利益を享受することができないという不利益を受け、特に医療行為に関しては、同性パートナーだけでなく、養育している子の生命身体に直結する不利益が想定される上、そもそも婚姻そのものに個人の尊厳と結び付いた本質的価値があるため、法律婚制度の本質的価値を享受することができずに個人の尊厳が損なわれているという不利益を受けている。これらに加えて、理解増進法により性的少数者の保護が国の施策における基本理念として明確にされており、多数決の原理では救済することが難しい少数者の人権をも尊重擁護することが司法の責務であることに鑑みると、婚姻制度が国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえつつ、それぞれの時代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断によって定められるべく、国会の裁量に委ねられるべきものであることを踏まえても、現時点では、本件諸規定が同性カップルが法律婚制度を利用することができないという区別をしていることは、個人の尊厳の要請に照らして合理的な根拠を欠く性的指向による法的な差別取扱いであって、憲法14条1項に違反するものといわざるを得ず、国会に与えられた立法裁量の範囲を超えるものとして、憲法24条2項にも違反すると解するのが相当である。

したがって、本件諸規定が同性カップルが法律婚制度を利用することができないという区別をしていることは、憲法14条1項に違反するとともに、憲法24条2項に違反するに至ったというべきである。

3 本件諸規定を改廃しないことが国家賠償法上違法であるかについて(争点2)

同性カップルに法律婚制度を付与する必要性が具体的に認識・浸透されるようになったのは、比較的最近のことであり、それが急速に広がったと認められること、本件諸規定が同性婚を認める規定を全く設けていないことの憲法適合性についての司法判断が札幌地方裁判所の令和3年3月17日判決までなく、その後、同様の司法判断を求める訴訟の判決が積み重ねられつつあるものの、その判断内容自体必ずしも統一されておらず、最高裁判所の判断は未だ示されていないことなどからすれば、国会が本件諸規定を改廃しないことが国家賠償法上違法であるとはいえない。

4 結論

よって、原判決は結論において相当であり、本件各控訴はいずれも理由がない。

名古屋高等裁判所民事第3部

裁判長裁判官 片田信宏

裁判官 山本万起子

裁判官 三橋泰友

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