
テスラ車のオーナーたちは今、辛い思いをしている。
テスラのイーロン・マスクCEOは閣僚ではないにも関わらず、トランプ政権内で大き過ぎる役割を担い、連邦政府機関を根こそぎひっくり返そうとしている。
マスク氏の憲法上疑わしい権限や、「ナチス式敬礼」のようなポーズをするなどの突飛な行動は、テスラの株主や車保有者を愕然とさせた。
テスラ社のEUとイギリスでの1月の売り上げが45%減少したというニュースを受け、アメリカでのテスラ株もその後暴落した。
現在テスラ車を所有している人の中には、何年も待ちようやく手に入れた人もいる。しかし彼らは今、マスク氏の政治的干渉を理由に、その車を手放そうとしている(もしくはすでに売却している)。
アリゾナ州に住むダグさんは「イーロンのビジョンと地球を救おうという使命を尊敬し、3年待ってようやく車を手に入れました」と話す。
「でもイーロンは選挙以来、常軌を逸している。彼を支持し、環境保護の使命を支援してきた人々をなぜ疎かにするのか理解できません」と続け、「私も父も最近、テスラモデル3をレクサスEVに買い替えました」と語った。
テスラ離れは加速しているーー。
トランプ政権におけるマスク氏の役割に対し人々の怒りが高まる中、この数週間の間に100以上の都市のテスラショールーム前で、テスラの車や株を手放すことを促す#TeslaTakedownのデモが行われた。報道された写真には、「テスラを燃やせ、民主主義を守れ」などと書かれたプラカードを掲げるデモ参加者の横を、テスラのモデルSやXの運転手らが気まずそうに車を走らせている様子が写っている。
テスラのサイバートラックの所有者はさらに辛い目にあっている。この車はそのデザイン性のなさや技術的な問題、法外な価格ですでに広く嘲笑されてきた。そこにホワイトハウスでのマスク氏の役割が加わり、サイバートラックの所有者はさらに大きな標的になっている。
サイバートラックを運転するクメートさんはNewsweekに、「以前は、ただ周りに茶化されるだけでした。それが最近は、中指を立てられたり怒鳴られたり、私がトランプ支持者であるかのような態度を取られるんです」と述べた。
【こちらも合わせて】マスク氏、ナチス敬礼のようなポーズが物議。大統領就任イベントでの行動に指摘相次ぐ
より一般的なテスラ車のオーナーでさえ、マスク氏との関係を手放したがっている。歌手のシェリル・クロウさんは2月、マスク氏に抗議しモデル Sを売却した。クロウさんはInstagramで、その収益を「『マスク大統領』のもと危機に面している」米公共ラジオ(NPR)に寄付した」と述べた。
多くのテスラ所有者は、マスク氏がホロコースト犠牲者への侮辱を強めていることに限界を感じている。話題となった「ナチス式敬礼」ポーズだけでなく、マスク氏はXでネオナチのアカウントを増殖させ、攻撃的なコンテンツの増加に火をつけた。12月には、ネオナチ運動と深いつながりを持つドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を公の場で支持した。
シカゴに住むブルースさんは、マスク氏がXで反ユダヤ的陰謀論についての投稿を支持したのを機に、2023年6月にテスラを手放し、今はフォードのマスタング・マッハEに乗っている。
「2022年にテスラ車を買った時、マスクが車をデザインしている訳ではないから、マスクへの嫌悪とこの車への愛は別だ、と友人や家族に説明していました」とブルースさんはハフポストUS版に語る。
しかし、マスク氏が2022年後半にTwitterを買収し、ナチス支持者の定期的な投稿を許可した頃には、もう早く手放したいと思っていたという。
「私の両親はナチス占領下のヨーロッパを逃れてアメリカに移民してきました。テスラは恥の象徴となってしまったので、売却して本当に良かったです」
シカゴ出身のスカイラーさんもまた、マスク氏のことは好きではないがテスラのブランド自体は好きで、モデルYは彼の「一生の車」になると感じていたという。
「モデルYは過去最高にクールな車だと思いました。車に求める全てが詰まっていたから」
とはいえ、スカイラーさんは巨額の予約金を支払わせながらも発売の延期が続いているロードスターなどについて言及し、「いつもどこかでマスク氏は少し詐欺師だと思ってた」と述べた。
スカイラーさんは、自動車業界に革命を起こし、EVの販売を後押ししたマスク氏とテスラを称賛したが、マスクの「ナチス式敬礼」以降、早く売却したいと思っているという。
「EVは他にもあります。これからはEVしか乗る気がないので、今はポールスター3を考え中です。でも、ナチズムと結びつくような車には乗りたくありません」と述べた。
一方、ニュージャージー州出身のマイクさんのように、テスラに乗り続ける人もいる。彼の家族は通常、車を購入したら長年乗り続ける。そのため、テスラ車だという理由でそれを変えるつもりはないという。とはいえ、今後は購入するつもりはないという。

環境負荷の軽減のためにテスラ車を購入した人の中には、テスラ車を他の車に変えることは気候変動対策上意味がないと感じている人もいる。
気候変動にフォーカスしたメディアHeatmapのアンドリュー・モーズ記者は同サイトで、マスク氏との関連性が嫌でも、テスラ車に乗り続けることを勧めている。
「新たに買うEVの生産には、相当の二酸化炭素(水や他の資源も)が排出されたはず。それを補うには、何年もよりクリーンなエネルギーで走る必要がある。美徳シグナリングによって得たものを、二酸化炭素で失うことになる」
テスラ所有者のこうした不安から、新たなビジネスを始めた人もいる。「この車はイーロン・マスクがクレイジーだと知る前に買った」と書かれたステッカーをオンラインストアで2023年1月から売っているハワイのマット・ヒラーさんだ。
水族館で働き海の生物が大好きなヒラーさんは、以前は魚のステッカーしか販売していなかった。しかし最近は時代に合わせ、「反マスク」関連の商品を増やした。他にも「反イーロン・テスラクラブ」「イーロンがリセールバリューを台無しにした」などのステッカーを売っている。

「集会のステージでマスクが初めてトランプと並び、飛び跳ね回った日、私の売り上げも過去最高に飛び跳ねました」とヒラーさんはハフポストUS版に語る。
「大統領選翌日もすごかった。でも、彼の『敬礼』から、勢いが急激に増し増した。その日から、全てのステッカーで1日400〜500枚の売上を維持しています」
ヒラーさんは、テスラ車所有者が「車を売却するか下取りに出すまでの一時しのぎのため」に購入していると言い、世界中で4万枚以上販売したと予測する。
「商品レビューには、『これなしでは運転できない』『現代に必要不可欠なカー用品』などのコメントが寄せられています。お客様はマスクとの距離を示すものを手に入れられて嬉しいのです」
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。