保育料が経費にならないの、なんで? 税制の「アップデート」を求める訴訟が始まる。

「子どもを育てるのは、外で仕事をしていない母親」という、かつては一般的だった「専業主婦モデル」ありきの考え方が、日本の税制にも残っているということではないのか。

子育てをしながら共働きする人々は増えている。

2023年の調査で、東京都内ではすでに66.7%の世帯が共働きで子育てをしていることがわかった。

働くためには、子どもを保育園などに預けることが不可欠になるが、現在の日本の税法では、保育にかかった費用は「事業遂行に必要な経費」としては認められていない。

それは、「子どもを育てるのは、外で仕事をしていない母親」という、かつては一般的だった「専業主婦モデル」ありきの考え方が、日本の税制にも残っているということではないのか。

そんな古い価値観に基づく制度をアップデートしようと、「保育料を経費に!訴訟(#保育料が経費にならないの、なんで?)」が2月25日に東京地裁で提起された。

 保育料はプライベートな支出なのか?

提訴に先立ち、弁護団に加わる亀石倫子弁護士は「確定申告のときに保育料が経費にならないのはおかしくない?」という問いかけを2024年にXで投稿した。すると、多くの人から賛同する声が寄せられ、原告を募る説明会にも多くの人が集まったという。

その中から、東京と大阪に在住する男性と女性の2人が原告となった。

現在の税法上では、保育料は「家事費」と定められている。家事費についての定義は存在しないが、具体的には衣服費、食費、住居費、娯楽費、教養費など、いわばプライベートな消費生活上の費用だとされる。

しかし、同じ費目でも、外食費は接待交際費、旅費は交通費や移動費として確定申告で必要経費として計上すれば、所得税の負担が軽減されることになる。

つまり、取引先との「飲み会」は、仕事に必要だとして経費になるが、働くために子どもを預けていても、経費にはならないのだ。

しかも、たとえば外食費は、プライベートとの境目があいまいな場合も実際は多い。一方で、たとえば保育園に定期的に子どもを預けるためには、子どもを育てられないということを示す「就労証明」などを提出する必要があり、労働時間なども含めて行政側が厳しく審査をしている。

そのため、交際費などよりもむしろ公私の混同が起こりづらい費目とすら言える。 

古い「家族モデル」に基づく制度と弁護団

この訴訟の弁護団長である戸田善恭弁護士は「必要経費をめぐっては、学説もいろいろ議論があり決着がついていない。だが、保育料は所得を得るための支出と捉えれば必要経費だ。これが家事費とされてきたのは、夫が妻を扶養して、妻が無償で子育てをしている家族モデルに基づいているからではないか。多様な働き方も広がる今、家事費の解釈を通して考えるきっかけにしていきたい」とし、最高裁の判断を求めることを大きな目標にしていくと語った。

「少子化が進むなか、子どもは社会全体で育てるべきだ。そのためには、古い制度を変えていく必要がある」

弁護団は提訴の記者会見でそう強調した。

弁護団提供
弁護団提供
案納真里江

個人事業主として弁護士事務所を経営し、看護師の妻とともに2児を育てる原告のひとり倉持(阿部)尚さんは、「子育てしたいと思っている人が全員子育てにチャレンジできる世の中になったら良い」「この訴訟で、保育料が経費として認められれば、小さいことかもしれないがそこへ向け社会が何か一つ歩みが進むのではないか」と、期待を寄せている。

東京都は3歳児以降に次いで0〜2歳についても2025年9月から保育料を無償化する予定だが、全国に波及するまでにはまだ時間がかかるだろう。

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筆者も働く親として、シンプルにこの制度は「おかしい」と感じている。もっと言えば、子育てしながら働き続けるためには、保育園だけでなく、ベビーシッターや、病児保育のお世話になることもあれば、家事を外注することもある。

そう考えれば本来的には、保育料だけでなくこの「家事費」そのものも、経費になりうるのではないか。もし、保育料や家事代行料などが経費として認められたなら、現在まで主に女性が無償のケアとして引き受けてきた労働が、対価が支払われるべきものだと認められるきっかけになりはしないか。

そんな意味でも、この訴訟が投げかけた疑問は、ただの制度のあり方への問い以上に大きな意義を秘めていると感じている。 

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