女性の「理系」進学率が圧倒的に低い日本。卒業生が母校に帰る「2時間」が女子生徒の可能性を広げる、その理由

女子中高生が、STEM(理系)分野で活躍する「先輩」から話を聞く「2 Hours Project」がスタートする。山田進太郎D&I財団の担当者らを取材した。

先輩から話を聞く「2時間」が、女子生徒の未来を広げるかもしれないーー。

この春、女子中高生が理系分野で活躍する卒業生から話を聞くプロジェクトがスタートする。理系の学部やキャリアへの固定観念や苦手意識などを払拭し、理系という選択肢に触れる機会をつくることが狙いだ。

日本で大学進学時にSTEM(自然科学・理工・医学系)分野に進む女性の割合は、OECD諸国の中で最低水準の「20%」。

その数字を2035年度までに28%に引き上げるため、公益財団法人「山田進太郎D&I財団」は2021年から、奨学金の支給やSTEM領域の体験プログラムなどを展開してきた。

5年目となった今年、さらに多くの女子生徒に「理系」という選択肢を考える機会を届けていくため、国際女性デーに合わせて「2 Hours Project」を開始する。

身近な卒業生から、「等身大」の進路やキャリアの話を

「2 Hours Project」は、STEM分野で学ぶ女子大学生・大学院生や若手社会人女性が、出張授業のような形で母校の中学・高校を訪れ、進路選択や受験、大学生活、キャリアについて約2時間話すという取り組み。

「特別な成功者」の話ではなく、身近な存在である卒業生から「等身大の話」を聞くことで、進路選択に迷う生徒の「ロールモデル」的存在になり、進路やキャリアの選択肢を広げることが狙いだ。

メーカーで通信系エンジニアとして働く厚地穂乃佳さん(27)は、「早い段階から、理系を含む様々な選択肢があることを知ってほしい」という思いで、このプロジェクトに「先輩講師役」として参加することを決めた。

「2 Hours Project」に参加する厚地穂乃佳さん
「2 Hours Project」に参加する厚地穂乃佳さん
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

肌で感じた、女性技術者や工学部での女子学生の少なさ

幼い頃から、ラジコンの組み立てやロボットなどに興味があった厚地さんは、理数教育に力を入れる中高に進学し、卒業後は千葉工業大学工学部でプログラミングなどの情報通信を学んだ。

両親ともに理系の職種で、やりたいことをサポートし、背中を押してくれた。そんなロールモデル的存在が近くにいたことも大きかった。

自身は、理系学部への進学を選択しやすい環境にいたが、友人は違った。

「私は理系に強い中高に通っていましたが、友人が通う私立の女子校では、理系を選ぶ人も少なく、先生もあまりサポートしてくれなかったそうです。環境でこんなに違うのかとも感じました」

情報通信を学ぶ大学の学科では、学生140人中女子は6人のみで「その少なさに驚いた」。

新卒で就職した1社目では、エンジニアで女性は2割のみだった。それでも業界では多い方だったという。

その後転職し、現在の会社では、男女関係なく昇進や海外赴任などのチャンスは公平に与えられていると感じるが、人数で見ると技術職はやはり男性が多い。

少しずつ状況は改善しているものの、統計などを見ても、理系を選ぶ女性の少なさは「10年前と、さほど状況が変わっていないのではないか」と危機感を抱いた。

そんな中、山田進太郎D&I財団の活動について知り合いを通じて知り、自身が学生・社会人生活を通して感じていた違和感や課題と通ずるものがあったため、2 Hours Projectへの参加を決めた。

母校の他にも、プロジェクトに登録した他の女性とタッグを組んで、その人の母校を訪れることも予定されている。

「生徒自身が『やりたいこと』に巡り合えるよう、私の経験を共有できれば」と語る。

各国と比べ日本の状況は…

OECD加盟国での大学入学者に占める女性の割合を各国で比較すると、日本は「自然科学・数学・統計」分野で28%、「機械・工学・建築」分野で15%と、OECD平均をはるかに下回る。

お隣の韓国は、「自然科学・数学・統計」分野で42%、「機械・工学・建築」分野で21%と、それぞれ日本より14ポイントと6ポイント高い数値となっている。

OECD加盟国の大学入学者に占める女性割合
OECD加盟国の大学入学者に占める女性割合
山田進太郎D&I財団

同財団はこの状況を改善するため、2024年から、STEM分野で働く女性やSTEM分野で学ぶ女性の話を聞くことで進路選択の幅を広げるプログラム「Girls Meet STEM」を開始。大学や企業へのツアーに、これまでに女子中高生1700人以上が参加してきた。

企業ツアーでは、LINEヤフーやNTTデータグループ、メルカリ、ZOZOなど、参画する様々な業種の企業を訪問したり、オンラインで理系の女性社員に話を聞いたりしている。

Girls Meet STEMで女子生徒20人がZOZOのオフィスを訪れ、プログラミング体験、女性エンジニアによるトークセッションなどに参加した
Girls Meet STEMで女子生徒20人がZOZOのオフィスを訪れ、プログラミング体験、女性エンジニアによるトークセッションなどに参加した
山田進太郎D&I財団

2024年度にGirls Meet STEMに参加した中高生女子1000人へのアンケートでは、78%が「将来の進学先や職業のイメージが湧いた」、71%が「将来こうなりたい人を見つけた」と答え、「理系への進学意向度」は16%増加した。

Girls Meet STEMの事業責任者を務める榊原華帆さんは「企業や研究室で、ロールモデルとなるような先輩たちのリアルな話を聞くことへの満足度は、非常に高い」と話す。

Girls Meet STEMでは、学校などで希望者を募り企業・大学訪問を行なっていたが、2 Hours Projectでは逆に卒業生が学校へ赴き話すことで、さらに多くの生徒に接することができるようになる。

「文理選択で悩む高校1年生以下の生徒の場合は、視野を広げた選択ができるよう背中を押すことに寄与でき、高2、3年生で理系進学を希望・決定している生徒には、進学に向けて学部での学びやキャリアの情報を届けることができます」

九州大学の河野銀子教授らの研究によると、中学3年生の理数科目での学力に男女間で差がないことも明らかになっている。2022年度の文部科学省による全国学力・学習状況調査では、中学3年の数学・理科の全国平均正答率は女子が男子をわずかに上回っていた。

Girls Meet STEMや2 Hours Projectでは、「女子は理数科目が苦手」というような無意識の偏見や思い込みの払拭に寄与することも狙いだ。

十分な情報ないまま文理選択をする現状も。まずは「先輩の話を聞く機会を」

同財団がStudyplusトレンド研究所と共同で2023年6〜7月、高校生や大学1、2年生を対象に行った文理選択に関する調査では、2601人のうち20.4%が文理選択に「後悔をしたことがある」と回答。

選択しなおせるとしたら知りたい情報として「文理選択が将来のキャリアや職業に与える影響」(41.1%)や「大学進学後の学びの内容」(36.2%)に加え、「先輩の経験談やアドバイス」(22.9%)を挙げていた。

榊原さんは、「進路を考える上で十分な情報を得る機会がないまま、文理選択をせざるを得ない人も多い」とした上で、こう指摘する。

「現状としては理系の女性が少ない中で、女性の先輩の話を聞く機会も少なく、そもそも文理選択で理系が選択肢に上がりづらいという状況があります。まずは、先輩の話を聞く機会を設け、情報をしっかりと届けていくことが大切だと考えています」 

財団は3月7日から、2 Hours Projectで自身の経験を伝える機会に関心のある学生・社会人の女性(いずれも戸籍上または性自認が女性の人が対象)の登録受付をスタートした。

応募者の審査後、財団のデータベースに登録してマッチングなどを進め、対面とオンラインの両方で2025年度は年間15回程度を目処に出張授業を実施していく予定だ。

(取材・文=冨田すみれ子/ハフポスト日本版)

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