
日本の警察から職務質問を受けた経験がある外国籍の人の割合は、日本国籍者の5.6倍━。
人種差別的な職務質問を受けたとして、外国出身の3人が国などを相手取り損害賠償などを求めている裁判の原告側弁護団が2月26日、そんな調査結果を発表した。
調査は民間の調査会社に委託して行い、この調査会社に登録している日本国籍を持つ521人と、日本で5年以上暮らしている在留外国人422人(いずれも20〜50代)を対象に昨年8〜9月、インターネット上で実施した。
サンプルを回収した在留外国人の国籍の割合は、永住者の国籍の割合に準じている。北東アジア地域(中国、朝鮮、韓国、モンゴル、香港/台湾) の国籍者は、一般に「見た目から日本人と思われやすい」ことを考慮し、調査対象に含んでいないという。
日本人の回答者のうち、93.5%が「日本以外の国に民族的ルーツはない」と答えている。
過去5年間に職務質問を経験したことがあるか質問したところ、日本人の回答者の12.8%が「ある」と答えた。一方、在留外国人では「ある」の割合は71.1%で、日本人の約5.6倍に上った。
また、過去5年間で職務質問を経験した回数の平均は日本人の回答者が0.2回だったのに対し、在留外国人は1.9回だった。
在留外国人の国籍別に見ると、東南アジアは「職務質問の経験がない」と答えた人の割合が45.9%に上った一方で、南アメリカは14.2%で最も低かった。平均回数も前者は在留外国人の中で最少の1.3回、後者は最多の2.5回で、国籍による差が見られた。
また「警察官から質問されたとき、どのような状況が質問されるきっかけになったと思うか」と複数回答で尋ねたところ、日本人は「まったく思い当たる理由がない」が、在留外国人は「外国人と判断された」がそれぞれ最多を占めた。
26日に都内で記者会見を開いた弁護団の谷口太規弁護士は、回答した日本国籍者の中に日本以外の民族的ルーツを持つ人もいる点や、北東アジアの国籍者を対象外とした点などを踏まえ、「この調査結果が日本のレイシャルプロファイリングの全容というわけではないが、日本国籍者と外国籍者で職務質問の経験にこれだけの差が出ていることは明らかだ」と指摘した。

「外国人は何でもあり!!」県警の内部文書
職務質問は、警察官が好き勝手に誰に対してもおこなっていいものではない。職務質問の法的根拠である警察官職務執行法(警職法)第2条1項は、次のように定めている。
第2条1項
<警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる>
つまり、「人種」や肌の色、「外国人風」の見た目のみを理由とした職務質問は、法律上の要件を満たしていない。だが、現場ではこうした要件を無視した職務質問が常態化している。
「外国人に見えるという理由だけで職務質問するのは当たり前」。愛知県警察で長年にわたり、「職務質問のプロ」としてのキャリアを歩んできた男性は、ハフポスト日本版の2024年の取材にそう証言した。
男性によると、職務質問を端緒とした検挙のノルマを効率よく達成するために、入管難民法違反に当たるオーバーステイ(超過滞在)の摘発を狙い、「外国人に見える人」に積極的に職務質問していた。
幹部から「今月はオーバーステイのノルマが足りないから、外国人への職務質問を積極的にやるように」と指示されることもあったという。
さらに、ハフポスト日本版が入手した愛知県警察の内部文書(2010年発行)には、次のような記載があった。
「外国人は入管法、薬物事犯、銃刀法等 何でもあり!!」
「一見して外国人と判明し、日本語を話さない者は、旅券不携帯、不法在留・不法残留、薬物所持・使用、けん銃・刀剣・ナイフ携帯等 必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持ち、徹底的した(※)追及、所持品検査を行う」(※原文まま。徹底した、の誤り)
この文書は、新人警察官たちが警察学校を卒業する際に配布されていたことが判明している。
関東地方の別の元警察幹部も、「外国人を見かけたらとりあえずバンカケ(職務質問)しろ、というのが県警では当たり前だった」「『外国人』を狙って職務質問する最大の目的は、警察署管内にいる全ての外国人の個人情報を把握すること」だと取材に明かしている。

原告が求めていること
警察などの法執行機関が、「人種」や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすることは「レイシャルプロファイリング(Racial Profiling)」と呼ばれる。
肌の色や「外国人風」の見た目などを理由に人種差別的で違法な職務質問を繰り返し受けたとして、外国出身の3人が国、東京都、愛知県の三者を相手取り損害賠償などを求めている裁判で、原告側は、3人が受けた職務質問は「人種」や「外国人風」の見た目などを理由としており、法の下の平等や幸福追求権を保障する憲法に加え、人種差別撤廃条約や自由権規約にも違反すると主張。
国などに対して原告一人当たり330万円の損害賠償の支払い(弁護士費用30万円を含める)のほか、レイシャルプロファイリングによる差別的な職務質問の運用の存在とその運用が違法だと認めること、国には差別的な職務質問をしないよう都道府県警察を指揮監督する義務があることの確認を求めている。
一方、東京都と愛知県は原告らに職務質問をしたことは認めるものの、外国ルーツだからではなく、不審点や交通違反があったからだと主張し、違法ではないと反論。
国は指揮監督の義務について、「個々の警察官はもとより、都道府県警察に対して、個々の職務質問の職権行使の適否について指揮監督する権限を持たない」などとして、請求の棄却や却下を求めている。
次回の第5回口頭弁論は2025年2月28日に開かれる。
(取材・執筆=國﨑万智@machiruda0702.bsky.social)
【アンケート】
ハフポスト日本版では、人種差別的な職務質問(レイシャル・プロファイリング)に関して、警察官や元警察官を対象にアンケートを行っています。体験・ご意見をお寄せください。回答はこちらから。