DEIとは?そのウソと本当を解説。「トランプ話術」に騙されてはいけない

DEIは何のためにあるのか?トランプ氏の言っていることは本当なのか?詳しく見ていきましょう。
DEIとは?
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Huffpost Japan

アメリカのトランプ大統領は自らの政治的立場から、1月の就任直後からDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)の取り組みに対して激しい攻撃を続けている。

DEIとは、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の略で、すべての人に公正な機会を与え、人々が不当に偏った状況に置かれることなく多様な背景を受容できる社会を実現させるための取り組みのことだ。

トランプ大統領はDEIを繰り返し批判し、人種や性別で差別されている人に対し、格差是正のために優遇措置をとること「危険で品位を傷つけ、不道徳だ」と述べ、1月末に起こった旅客機墜落事故の原因は連邦航空局のDEI採用だと根拠なく非難した。

DEI政策は「勤勉さ、卓越性、個々の達成という伝統的なアメリカの価値観を損なうもの」だと述べ、「能力主義」の機会を取り戻し「アイデンティティに基づく腐敗制度」に終止符を打つため、DEIプログラムを解体すると大統領令の中で宣言した。

トランプ大統領の行動は、即座に幅広い影響を及ぼしている。民間企業はDEIプログラムを縮小または撤廃し、連邦政府機関はキング牧師記念日、プライド月間、ホロコースト追悼の日などの祝日や祝典を廃止している。

トランプ大統領
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Andrew Harnik via Getty Images

DEIに携わる人々は、トランプ氏の反ダイバーシティ的なレトリックは有害なだけでなく、そもそも事実ではないと強調する。

DEIに関する企業アドバイザーで、以前はIndeed社でDEIなどを担当していたミスティ・ガイサー氏は、「DEIに関してこの政権が主張することは嘘です」と話す。

「この仕事に関わる人にとって、そうした主張は人々を恐怖に陥れやる気を削ぎ、仕事をしないようにするための言動だと認識しなくてはなりません。でも、仕事は続ける必要があります」

ハフポストはDEIが実際に行っていることについての誤解を正すため、DEIに関わる人々に話を聞いた。

DEIと「能力主義の神話」

トランプ氏は大統領令の中で、DEIは「勤勉さという伝統的なアメリカの価値観」の信頼を傷つけ損なうと述べた。

トランプ氏のレトリックの多くは、誰もが努力すれば同じ結果を得られ、もし機会を得られないならそれは「違法」なDEIが「個人の能力の重要性を低下させている」からだという「能力主義の神話」を支持するものだ。

D&Iのストラテジストであり関連本を出版しているルチカ・マホトラ氏は、この魅惑的な能力主義神話は「アメリカンドリームのコア部分で根本的な前提」に由来すると述べる。

「それは『あなたが誰であれ、成し遂げ、なりたい自分になることができる』という考えから来ているのです」

しかし、土俵は平らではない。

コンサル会社のCEOを務めるデイヴィー・シュラスコ氏は、「大統領令の『能力』に関する言い回しは、特権階級や多数派のグループに属さない人々は、異性愛者の白人男性ほど優秀ではないとほのめかしている」と話す。

現実には、DEIは能力主義を妨げているわけではない。人々が平等に成功する機会を得るために必要なことなのだ。というのも、現状では能力に基づかずに仕事や教育の機会を得るのは白人、特に白人男性が多いからだ。

マホトラ氏は、この事実を示す最近の一例として、ハーバード大学の学生の入学記録を調べた全米経済研究所の2019年の調査を挙げた。白人の入学者のうち43%以上が、学業成績では不合格レベルであったスポーツ推薦選手や、卒業生や教職員の親族で、優遇措置を受けて入学していたことがわかった。

言い換えれば、DEIは人々の卓越性を認識することを妨げる、歴史的な障壁や無意識な偏見を取り除くのに役立つのだ。

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Mary Long via Getty Images

「DEIは基準を下げる」は真実からほど遠い

トランプ大統領のレトリックは、「ダイバーシティ採用」は人を能力ではなく社会的背景だけで採用しているという悪質な考え方を広めている。

DEI採用という考え方は、「異性愛者で健常者の白人男性が採用されると、それは能力によるもので、それ以外の人が採用されたら、それは優遇や慈善によるもの、とほのめかしている。それは真実ではない」とシュラスコ氏は指摘する。

マホトラ氏は、「最高指導者レベル」にあるトランプ大統領がそれを平然と口にすることが、人々が同僚を「DEI採用」と呼ぶことにつながるのではないかと懸念しているという。

コンサル企業のCEO、パーカー・マクマレン・ブッシュマン氏は、「多様性のための採用とは、資格のない人に仕事を与えることではなく、歴史的に無視、あるいは過小評価されてきた才能を認めることなのです」と話す。

「誰かがある人のことを『ダイバーシティ採用』と呼ぶのは、『この職にあなたのような人が就くのを見たことがない』という意味です。それは雇用された人の問題ではなく、私たちの偏見の問題なのです」

憂鬱になる統計がここにもある。もしあなたが、異性愛者で健常者の白人男性でないなら、労働においてもリーダーシップにおいても過小評価されているのだ。

仕事に応募した白人と黒人が面接への案内を受けた率を比べた21の現場実験において、黒人の候補者は25年以上にわたり、同じレベルの採用差別に直面していることが分かった

Pew Research Centerよると、STEM(科学・技術・工学・数学)職に占める黒人労働者の割合はわずか7%、ラテン系労働者はわずか6%だという。

こうした職種で少数派の人々は資格がないのではない。「ただ過小評価されているだけ」だとマホトラ氏は語る。

仕事だけでなく、さまざまな偏見に直面する人がいかに多いかを裏付ける研究は数えきれないほどある。

女性、特に黒人、ラテン系、アジア系の女性は、その能力をめぐり常に証明することを求められるような精査の目に晒される。2014年のあるジェンダー・バイアス調査によると、黒人とラテン系のSTEM専門職員の半数が、職場で清掃員や事務員と間違われたことがあるという。

実際は「不当な優位性」とは程遠く、仕事において多数派グループに属さないことは、同僚に対して心理的に不利になる可能性がある。

例えば、LeanIn.Orgとマッキンゼーが実施した2019年の調査によると、黒人女性の50%が、職場で唯一の黒人女性である場合、特に注意深く監視されており、常に自分の専門知識を擁護できるよう準備しておく必要があると感じているという。

DEIはすべての人たちのためにある

「一部の人は、DEIを『女性や有色人種のためのリーダーシッププログラム』」だと思っていますが、実際はすべての人に影響があるのです」とマホトラ氏は話し、DEIの多くの利点の例として、母乳育児をする人のための授乳スペース、車椅子ユーザーが利用しやすいスロープ、会議で誰もが発言できるような心理的安全性を挙げた。

DEIは抽象的な略語として使われてきたが、その目標は明確で具体的だ。

「多様性とは、歴史的に疎外され、職場から取り残されてきた人々の居場所を確保することです。公平性とは、人々が平等な機会を得ることを妨げてきた歴史的な障壁を理解し対処すること。そして包括性とは、歴史的に少数派で過小評価されてきた人々が、有意義に貢献し、社会や職場をリードすることができるようにすることです」とマホトラ氏は語る。

DEIは、個人が形成するキャリアへの土俵を平らにするだけでなく、企業が最高の仕事を成し遂げるためにも必要だ。

「組織運営では、企業文化が人々が仕事を成し遂げるのに役立っているのを確認します。人々が尊重されていると感じ、組織に留まりたいと思う環境を作ることは、その一部です。それをDEIと呼ぶ必要はありません。ただの『人材確保』です」とシュラスコ氏は語る。

多様性のあるチームがなぜより賢明かを証明する研究は多々ある。彼らは、無意識の偏見ではなく、事実に集中して変革を起こすからだ。トランプ氏は、同じチームに多様なアイデンティティや生い立ちの人が所属することが強みになると理解できないかもしれないが、実際にそうなのだ。

「多様性を優先する職場は、黒人や褐色人種をどう取り込むかを考えているだけではありません。障害のある社員が平等に機会を得られるようにするにはどうすれば良いか、働く親をどうサポートするか、LGBTQ+の社員が自分らしくいられる居場所をどう作るか、採用や昇進における年齢差別にどう対処するか、なども考えているのです」とブッシュマン氏は説明する。

「多様性を受け入れるということは、誰かを排除することではありません。より多くの人が独自の才能や視点を発揮できるように、テーブルを広げるということなのです」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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