LGBTQ+を「LGB」に変えたストーンウォールの政府サイト⇒トランスジェンダー当事者らが集結「私たちはここにいる」

歴史から抹消しようとする政府に対し、「トランスジェンダーやクィアの人たちは存在し、闘い続けている」という事実を目に見える形で示した。
国立公園局のストーンウォール国立記念碑の公式サイトから「トランスジェンダー」や「クィア」が削除されたことに抗議し、ニューヨークのストーンウォールインの外で「私たちは今もここにいる」というメッセージを掲げる人(2025年2月14日)
国立公園局のストーンウォール国立記念碑の公式サイトから「トランスジェンダー」や「クィア」が削除されたことに抗議し、ニューヨークのストーンウォールインの外で「私たちは今もここにいる」というメッセージを掲げる人(2025年2月14日)
KENA BETANCUR via Getty Images

アメリカの連邦政府機関である国立公園局は2月13日、ニューヨークにあるストーンウォール国立記念碑の公式ウェブサイトから「トランスジェンダー」や「クィア」の記述を削除した。

この公式ウェブサイトでは、これまでLGBTQ+とされていた単語が「LGB」となっている。

これは、トランプ大統領が就任初日に「性別は男性または女性の2つのみ」とする大統領令に署名したことを受けての変更だ。

ストーンウォール国立記念碑の公式ウェブサイトは冒頭に次のように書かれている。

「1960年代以前、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル(LGB)として公に生きることは、ほぼすべて違法だった。1969年6月28日のストーンウォールの反乱は、LGBの市民権を求める闘いにおける画期的な出来事で、運動に勢いを与えた」

LGBTQ+の表示からTとQ+が削除された国立公園局「ストーンウォール国立記念碑」のウェブサイト
LGBTQ+の表示からTとQ+が削除された国立公園局「ストーンウォール国立記念碑」のウェブサイト

ストーンウォール国定記念碑とは

ストーンウォール国立記念碑は、LGBTQ+の権利運動における重要な転換点になったゲイやレズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダーの人たちが集まるバー「ストーンウォールイン」がある歴史的な場所だ。

1969年6月28日、ストーンウォールインに差別的な取り締まりを行おうとした警察に、トランスジェンダーを含むLGBTQ+当事者や活動家らが抵抗。

後に「ストーンウォールの反乱」と呼ばれるようになったこの抵抗は、現代のLGBTQ+解放運動を勢いづけ、反乱の1年後に行われたデモ行進は、現在のプライドパレードへと発展した。

2016年、当時のバラク・オバマ大統領はストーンウォールインとその周辺地域をストーンウォール国立記念碑に指定した。

しかしトランプ政権は、歴史的な場所であるストーンウォールから、トランスジェンダーやクィアの人々を消去しようとしている。

存在を目に見える形で示す

この政府からの新たな抑圧に対し、LGBTQ+の人々は969年の時と同様に抵抗し、声を上げている。

ウェブサイトからトランスジェンダーとクィアの表記が削除された翌日の2月14日、数百人のLGBTQ+当事者や市民、アライが、抗議のためにストーンウォールイン前に集結。「トランスジェンダーやクィアの人たちは存在し、闘い続けている」という事実を目に見える形で示した。 

 トランスジェンダー活動家のターニャ・アサパンサ=ジョンソン・ウォーカーさんは、「トランスジェンダーの人々はずっと昔から存在してきた」と抗議集会でスピーチした。

「私たちはあらゆる闘いをしてきました。家族や子どももいます。他の誰とも変わらない、この世界の一部です。私たちはここで存在し続けます。クリストファシスト(キリスト教極右)やネオナチの政権によって抹消されることはありません」

(中央)ストーンウォールイン前で行われた抗議デモでスピーチをするトランスジェンダー活動家で退役軍人のターニャ・ウォーカーさん(2025年2月14日)
(中央)ストーンウォールイン前で行われた抗議デモでスピーチをするトランスジェンダー活動家で退役軍人のターニャ・ウォーカーさん(2025年2月14日)
KENA BETANCUR via Getty Images

ストーンウォールインの向かいにあるクリストファーパークの入り口近くでスピーチを聞いていたノンバイナリーのキャサリン・ローズ・ターブスさんは、トランスジェンダーやクィアの記載削除について「言語道断だ」とハフポストUS版の取材に語った。

「今私たちが手にしている権利のために闘ってくれた人たちを歴史から消し去るなんて、許せることではありません」

「政府は『これがストーンウォールだ』と言うのかもしれません。でも、私たちは『違う、私たちはストーンウォールが何だったかを知っている。その歴史を守るためにここにいる』と声を上げます」

参加者からは、トランプ政権がトランスジェンダーの人々や移民、活動家などを標的にするのは、不評な政策から国民の目をそらすためだという声も聞かれた。

ニューヨークで、長年トランスジェンダーコミュニティのリーダーとして活動してきたルネ・インペラートさんは、「彼らはトランスジェンダーをスケープゴート(身代わり)にして、社会福祉の削減を正当化しようとしている。その削減した分のお金を億万長者たちに渡すつもりだ」という考えをクリストファー・パークで語った。

さらに「トランプやイーロン・マスクのような“ファシスト”は、『分断して支配する』という戦略で権力を維持してきた」とも述べた。

「この国の歴史を通して、黒人と白人、ラテン系とアジア系、そして先住民を分断して、権力を守ってきました」「こういう資本主義の寄生虫は、どれだけ搾取しても決して満足しないのです。今度は、私たちの血まで欲しがっている」

「Tなくしてストーンウォール(Stonewall)はない」というメッセージを掲げる抗議活動の参加者(2025年2月14日)
「Tなくしてストーンウォール(Stonewall)はない」というメッセージを掲げる抗議活動の参加者(2025年2月14日)
Spencer Platt via Getty Images

「私たちはここにいる、どこにも行かない」

トランプ大統領は1月20日に就任して以降、さまざまな活動でトランスジェンダー当事者への攻撃を続けている。

これまでに、19歳以下のトランスジェンダー当事者の性別適合のための医療ケアの禁止、パスポートの性別変更の禁止、トランスジェンダーアスリートの女子スポーツからの排除、連邦刑務所に収監されているトランスジェンダー受刑者の出生時に割り当てられた性別の刑務所への移送など、さまざまな大統領令に署名している。そのうちのいくつかは、現在連邦裁判所に差し止められている。

ストーンウォール国立記念碑のウェブサイトからの削除は、新たなトランスジェンダー攻撃の1つだが、LGBTQ+当事者らはすぐに抗議活動を組織し、14日の集会には氷点下のなか大勢が集まった。

デモを組織した一人である「全米LGBTQタスクフォース」広報ディレクターのキャシー・レンナさんは、「LGBTQ+の人々とアライは街頭で声を上げて、『私たちはここにいる。どこにも行かない』と国に伝え続ける必要がある」と述べた。 

「ほとんどの人は『トランスジェンダーの知り合いはいない』と言います。それを変えていく必要があると思います。LGBTQ+の当事者を知っている人ほど、このコミュニティをより深く理解し、支援しようとする傾向があるということを私たちは知っています」

トランスジェンダーフラッグや「トランスジェンダーの権利は人権である」というメッセージを掲げる人々(2025年2月14日)
トランスジェンダーフラッグや「トランスジェンダーの権利は人権である」というメッセージを掲げる人々(2025年2月14日)
Spencer Platt via Getty Images

また、14日の抗議活動は、LGBTQ+コミュニティからトランスジェンダーの人々を切り離そうとするトランプ政権の試みに対抗して、連帯を示す場ともなった。

参加者のスカイラー・ブルックスビーさんは「何が起きようと、私たちのために闘うための準備ができている人たちがここにはいます」と語った。

「私は今の自分になるために、ずっと闘ってきました。本当の自分であることを(トランプ大統領に)止めさせるつもりはありません。本当の自分である女性であることをやめません」

別の参加者サミー・ネミル・オリバレスさんも、「私たちは団結しなければなりません」と訴えた。

「今日はLGBTQ+、トランスジェンダーの人々のために、そして明日は移民のため、母親たちのため、教師たちのために闘います。 権威主義のファシスト政権から影響を受けるのは私たち全員です」

ノンバイナリーのマッケンジーさんは、14日の抗議は「BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動を思い出させると語った。

「あの時、私たちのためにトランスジェンダーの人たちが立ち上がってくれました」

「歴史は消せません。すでに起きたことです。真実の歴史のために、私たちには、トランスジェンダーの仲間やクィアの仲間が必要なのです」

「ここに集まった多くの人にとって、ただ『消されない』と感じることだけが重要なのではありません。私たちのために闘ってくれる人がいると実感すること、そして自分たちもまた誰かのために闘う存在になれると知ることが大切なのです」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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