5年の猶予期間を経て、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用されている建設業界。深刻な人手不足も叫ばれる中、総合建設会社「東亜建設工業」(東京都)で働き方改革が進んでいる。
仕事を振り返る、働き方を変える、早くかえる、人生を変えるという4つの意味が込められた「カエル会議」に全社をあげて取り組み、長時間労働の見直しや女性活躍の推進などの課題に真正面から向き合ってきた。
若手の意見を上司が拾い、誰もが安心して意見を言える「心理的安全性」を高め、サステナブルな働き方を実現していく。これが「建設業の未来を変える」ことにつながるーー。
東亜建設工業が取り組んできた働き方改革とは。そして、どのような成果が出たのか。2月13日、同社本社で働き方改革の成果を伝える報告会が行われた。
所長の車にチャイルドシート。「泣かれることなく…」
東亜建設工業は1908年創業。海洋土木を中心とした総合建設業を営んでいる。
業界全体が人手不足の中、同社も過大な業務量や長時間労働に頭を悩ませていた。2022年4月に「働き方改革表彰」を新設し、現場業務のアウトソーシング化やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進にも取り組んできた。
13日の報告会では、さらなる高みを目指して働き方改革に臨んできた部署が、それぞれの成果を発表した。
例えば、ある作業所は情報共有に力を入れてきた。週1回、1時間の会議を実施することで作業効率が上がり、現場作業の「手戻り」(やり直し)が削減されたり、翌週の作業などを理解できるようになったりした。
作業所全体で週5時間の無駄な労働時間の短縮に成功。年間にすると延べ245時間の短縮に繋がる見込みになっている。
別の作業所はDX化を推進。情報共有ツール「Teams」や建設会社向けの施工管理アプリ「eYACHO」などを活用し、作業所全体で1日30分の業務時間の短縮につながった。年123時間の短縮になる計算だ。
また、現場の通信環境改善に取り組んだ職場もあった。従来の通信環境ではファイルを閲覧・編集するのに時間がかかり、業務に支障が出ていたことから、衛星通信を導入した。
すると、従来と比較して通信速度が5倍も上がり、1人当たり月6時間40分の労働時間を削減できた。従来の通信速度に悩んでいた従業員の“イライラ”も解消されたという。
女性活躍を推進する職場もあった。カエル会議で出た意見をもとに、入社4年目の女性社員が半年間の育休を経た後、現場代理人に復帰した。これまで、育休後の社員がすぐに現場復帰するケースはほとんどなかったという。
現場代理人という責任ある仕事と育児が両立して行えるように、自宅でも仕事ができる環境を整えたり、保育園に子どもを預ける時間に配慮した勤務体制に変更したりし、女性社員が柔軟に働けるようにもした。
それだけでなく、社員の体調不良や仕事の都合で保育園の送迎が難しくなった場合を想定し、所長の車にチャイルドシートを設置。実際、保育園に迎えにいく機会が一度発生したが、事前に子どもを乗せて慣れさせていたため、「子どもに泣かれることなく対応できた」という。
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勤務間インターバルにも取り組む
このような働き方改革の成果が報告された後、東亜建設工業の早川毅社長とコンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」(東京)の小室淑恵社長が対談した。
働き方改革を進める東亜建設工業に伴走してきたワーク・ライフバランスの小室社長は冒頭、3000社の働き方改革を支援してきた経緯を踏まえ、「建設業の特徴として、2024年の法改正に間に合わせるためという焦りから、『帰れと言ったら帰れ』と強引なトップダウンで働き方改革を進める企業が多い」と指摘。
「その結果、自宅などで仕事をする『かくれ残業』が増える傾向にあるが、東亜建設工業では職場ごとに働き方を変えるための話し合い『カエル会議』を行い、そこで出た社員からの自発的な発案を尊重して取り組んできた」と振り返った。
さらに、マネジメント層の「心理的安全性」(誰に対しても安心して発言できる環境)へのこだわりもぶれることがなかったとし、「本日の報告会でも幹部の質問に若手社員が萎縮することなく答えていた。今、成長意欲の高い若者に選ばれるのはこうした職場だ」と称賛した。
「結果の質を最初に求めたら結果は出ない。まずは関係性を改善することが重要で、それができていたからこそ働き方改革の成果が数字にも表れた」とも述べた。
早川社長は、「一つの作業所に人数がたくさんいる職場から働き方改革を始めたが、2025年度に向けて非常に大きなヒントになった」と語り、今後「勤務間インターバル制度」(退勤から翌日の出社までに一定時間の休息を取る)に取り組むことを明らかにした。
その理由については、「チャレンジする、スタートすることが大事。勤務間インターバルは当然のようにやらなければならないものだと思っている」とし、「他産業の取り組みも情報収集していきたい」と話した。
さらに今後の課題についても言及し、「工期が短く少人数の職場もある。ここにどう働き方改革を浸透させていくかが今後のテーマだ」と述べた。
最後に、小室社長が「働き方を変えるための『カエル会議』を続けてきた職場で成果が出たら評価される風土をつくることも大事」と述べると、早川社長はこう総括した。
「多くの職場が働き方改革を経験すれば、自然と各作業所に広がっていく。コミュニケーションも非常に重要で、それが達成できれば仲間が家族のようになっていく。結果的に心理的安全性も高まっていくと期待している」
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小室社長は報告会後、ハフポスト日本版の取材に、「建設業は人手不足だと言われるが、日本の労働力人口は今年も過去最高を更新した。『人手が足りない足りない』と言っているのは、働き方を変えられずに『長時間労働や休日出勤がいつでもできて、転勤も厭わない、昔ながらの働き方ができる人』だけを探している企業だ」と指摘。
その上で、「長時間労働はできなくても能力と意欲がある人材はまだまだいる」とし、「人材を奪い合う時代、東亜建設工業のようにそのような人たちが活躍できる職場に転換できた企業が勝ち残り、成果を上げていくのだろう」と展望を語った。