大阪・グリ下に万博期間「塀」設置へ⇒「若者、排除されていると感じる」と支援者。本当に必要な対策とは

大阪市は、海外からの訪日客も増える万博期間中、大阪・ミナミにある戎橋の下に仮設の「塀」を設置すると発表。物議を醸している。

大阪市は2月7日、大阪・関西万博の期間中に、大阪・ミナミの繁華街にある戎(えびす)橋の下に、高さ2メートルの仮設の塀を設置すると明らかにした。

グリコの看板下エリア、通称「グリ下」には、虐待や性暴力などで家庭に居場所がない子どもや若者たちが集まっている。横山英幸・大阪市長は、塀を設置することで「溜まり場」とならないようにすることが目的としている。

ミナミで若者支援をする団体からは、塀の設置により「若者は、排除されていると感じてしまう」との声が上がっている。

大阪・ミナミの繁華街にある「グリ下」。写真左側に戎橋
大阪・ミナミの繁華街にある「グリ下」。写真左側に戎橋
時事通信

塀の設置「根本的な解決にならない」の指摘も

横山・大阪市長は2月7日の会見で、戎橋の下に万博期間中、高さ2メートルの「石材調の万能塀」を設置すると明らかにした。

万能塀は工事現場に設置されているような仮囲い材で、若者たちが普段、座っている箇所などを覆うように設置される。

設置時期は、海外からの観光客が増える万博開始前から2025年末までとし、その後は橋の下の座ることができる部分について「対策をしていく」とした。

万博は大阪湾にある人工島「夢洲」で、2025年4月13日から10月13日まで開催される。

会見では記者から、「塀の設置は根本的な解決にはならないのでは」という指摘もあり、それに対し横山市長は「(塀により若者たちを)追い出して終わりという話ではない」とした上で以下のように説明した。

「(グリ下に)集まる若者たちが抱える根本的な問題を解決すべく、関係機関が協力しながら可能な限り対応に当たる必要はあると思っています。グリ下が『溜まり場』のようなシンボルになってしまうと、そこに若い人たちがふらっと来てしまい、加えて犯罪に巻き込まれるリスクが非常に高くなる。

グリ下はこれまでも、イベントなどがたくさん行われてきて、若者文化の象徴の場所でもある。若者たちが集まって犯罪に巻き込まれてしまう場所というような悪いイメージにならないよう、対応していくことが重要だと思っています」

「排除されているんだ」「行政には頼れないという印象に」

大阪・ミナミの戎橋の下の部分。照明が追加されるなどの対策も取られている。
大阪・ミナミの戎橋の下の部分。照明が追加されるなどの対策も取られている。
Getty Images

グリ下に集まる若者の多くは家庭で問題を抱えており、安心して帰れる家がないというのが実情だ。

ミナミで若者支援を行うNPO法人「D×P(ディーピー)」(大阪市)は、大阪市とも連携して支援活動に当たってきたが、塀の設置案については懐疑的だ。

D×P理事長の今井紀明さんは2月13日、支援活動に関する会見の中で塀の設置について触れ、以下のように述べた。

「大阪市長も、若者たちにとって安心安全な場所にしたいという思いは話されていましたが、結果的に子どもや若者たちからみると『排除されているんだ』と感じてしまう。そう感じる若者の気持ちは代弁したい。

(塀の設置に関しては)もう少し議論があってもよかったのではないかと思う。若者たちからすると、行政には頼れないという印象になってしまう」

D×P理事長の今井紀明さん
D×P理事長の今井紀明さん
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

今井さんによると、SNSの影響もあり、グリ下に集う若者は年々、低年齢化している。 以前と比べ、中高生だけでなく小学生も増えており、グリ下が性的搾取や犯罪に繋がりやすい場所になってしまっていることに対しては、今井さんも危機感を募らせている。

学校の長期休暇などの時期に合わせて、警察は一斉補導を行なっており、昨年末にも大阪府警は一斉補導で、中学生を含む10代の男女14人を補導し、保護者に連絡し帰宅を促すなどしていた。

D×Pでは、そんな若者たちが安全に集まれる新たな「居場所」が必要だと考え、グリ下から徒歩5分の場所に2023年夏、ユースセンターをオープン。

今では、年間延べ5000人が利用する若者たちの「居場所」となっている。ユースセンターでは、民間からの寄付を財源に食事の提供や必要な福祉や支援に繋げるための個別相談なども実施していて、D×Pはグリ下の若者たちに、ユースセンターの利用を呼びかけている。

商店会や支援団体と「グリ下会議」実施も。本当に必要な対策とは

戎橋の下には、2023年から防犯カメラも設置されている。
戎橋の下には、2023年から防犯カメラも設置されている。
時事通信

塀の設置案は万博に向けた対策として上がってきたが、グリ下の課題に対し、市が常に強行的な態度を取ってきたという訳ではない。

これまでも市は、状況改善に向けてグリ下に関わる各セクターと連携。大阪府や警察、支援団体、地元商店会と一緒につくる「グリ下会議」を7回開催し、ヒアリングや対策を重ねてきた。

2024年にはD×Pと連携し、ユースセンターを利用した13〜25歳の若者200人を対象にアンケートを実施。調査結果からは、回答者の24%が直近1カ月、主に自宅以外で寝泊まりしていたことなどが判明。回答者を成人に絞ると、その割合は33%まで上がった。

この調査を受け、市は若者が利用できる宿泊場所を提供。他にも、戎橋の下に照明を追加設置するなどし、安全に過ごせるように対策を講じてきた。

アンケートの自由解答欄では、「周りの大人や社会に伝えたいことは」という設問に対し、「生きにくい」「孤立している人に目を向けて」「さびしい、しんどい」と、世の中に対する叫びのような悲痛な声も寄せられていた。

グリ下という場所については「グリ下は居場所」「おうちに帰せばいいと思わないで」という声や、以下のような意見があがった。

《橋の下にいる子どもたちに寄り添ってあげてほしい》

《未成年の居場所がない子たちを見守れる場所を増やしていってください》

万博開幕が2カ月後に迫る中、市は塀を設置して「臭いものに蓋をする」ような対策を講じるのか、それとも、アンケートに寄せられたグリ下の若者たちの声に寄り添う対応を取るのか。決断が迫られている。

(取材・文=冨田すみれ子)

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