髪があっても、なくても「私」。脱毛症と生きる大学生が、ウィッグを脱いで撮影に挑んだ理由

普段はウィッグを着けて生活する全頭型円形脱毛症の大学生。写真展にモデルとして参加し、スキンヘッドで撮影しました。

「ウィッグを着けている時も自分、着けていない姿も自分」

畑で家族と共に、カメラに笑顔を向ける女性ーー。

全頭型円形脱毛症と共に生きる、大学生3年生のこうみさん(21)だ。

普段はウィッグを着けて大学生活を送っているが、今回、ある写真展にモデルとして参加し、ウィッグを脱いで撮影に挑んだ。

全頭型円形脱毛症のこうみさん(右)と家族
全頭型円形脱毛症のこうみさん(右)と家族
マイフェイス・マイスタイル

こうみさんがモデルとして参加したのは、見た目に影響する症状がある人たちが抱える問題について取り組むNPO法人「マイフェイス・マイスタイル」による写真展。

顔や体にある生まれつきのアザや、病気や事故による傷痕、変形、欠損、麻痺、脱毛などの症状がある人々は、学校や就職、結婚などで様々な困難を経験する。

東京都墨田区のすみだ生涯学習センター(ユートリヤ)で2月21〜24日に開催される写真展『ともに』には、見た目に症状がある人たちも、「共に暮らし、共に働き、共に生きている」というメッセージが込められている。

展示される写真のモデルは、病気や障害によって人とは異なる外見の特徴を持つ人たちが務めた。

『ともに』をテーマに撮り下ろした写真では、当事者が、家族や友人たちと一緒に被写体となった。こうみさんは家族と、母親の畑や実家近くの海辺で撮影をした。

普段はウィッグを着けて生活するこうみさんは、脱毛症について伝えなければ、髪の毛がないことは周りからは分からない。

そんなこうみさんが今回、ウィッグを着けずに撮影に挑んだ背景には、脱毛症などの見た目に症状が出る病気について「知って、考えるきっかけになれば」という思いがあった。

赤ちゃんの頃からスキンヘッド。今は「強み」に

生後11カ月で全頭型円形脱毛症を発症してから、髪の毛が全く生えなくなったこうみさん。

物心ついた時には髪の毛がない状態だったが、小学1年生の頃に描いた自身の似顔絵には髪の毛を描いていた。髪を描いた理由について、「髪があるのが普通だから、描かないと変だと感じ、周りに合わせようと思ったのだと思う」と振り返る。

幼稚園や小学校ではスキンヘッドで過ごしたが、小学校の集団登校班では、学校指定の黄色い通学帽を上級生から取られ、スキンヘッドをからかわれたことがあった。

低学年だったこうみさんは上級生には強く言い返せず、一時期は母親が毎朝一緒に登校してくれた。

電車通学を始めた中学生からはニット帽を被って学生生活を送った。夏でもニット帽を被っていたため暑さで蒸れ、つらかった。「ニット帽の子」という印象が定着したのも嫌だったという。

「テニスやバスケもしていて、スポーツが大好きなんですが、プレー中は暑さとの戦いでした」

運動中にニット帽やウィッグが脱げてしまうのではとヒヤヒヤしたこともあったため、将来は、脱毛症の子どもたちがそのような心配をせずに思いっきりスポーツを楽しめる場を作りたいとの夢もある。

大学に進学してからは、ウィッグを着けて生活している。
大学に進学してからは、ウィッグを着けて生活している。
こうみさん提供

2024年には大学のプログラムでカナダに留学し、現地で脱毛症の当事者や家族が集う患者会にも参加した。

会場に集まった当事者は誰もウィッグを着けておらず、「堂々とした姿に驚いた」。

スキンヘッドのまま堂々と、誇りを持って、病気や「自分らしさ」について語る姿を見て、「私も『自分』でいていいんだ」と感じたという。

大学進学に合わせて母親と妹と一緒にボブカットのウィッグを選び、おしゃれも楽しんでいるが、いつかはスキンヘッドで街を歩いてみたいとの思いもある。

写真展の撮影では久しぶりにウィッグを着けずに外出し、「これで外を歩けたら最高だろうな」とも思った。

「何も着けずに外出するにはまだ今は周りの視線が気になってしまう」と話すこうみさん。葛藤もあるが、「ウィッグを着けている時も自分、着けていない姿も自分」という思いで、撮影に臨んだ。 

マイフェイス・マイスタイルの若手当事者交流会にも参加し、「病気と生きる人たちも『共に生きる社会』はどうやって作っていけるだろう」と考えるようになった。

「脱毛症だったからこそ、日本やカナダの患者会や当事者交流会にも参加し、多くの経験をすることができました。脱毛症でなければ出会わなかった人がたくさんいると考えると、脱毛症は自分の『強み』だと思うようにもなりました」

「ともに」生きているから。きっかけは当事者の母の言葉

主催のNPO法人「マイフェイス・マイスタイル」が写真展を開催するのは、今回が3回目だ。

共に活動してきた、見た目に症状がある当事者に写真展のアイディアを提案すると、「やろう!やりたい!」といった声が相次ぎ、写真家の冨樫東正さんや本田織恵さんと共に、写真展を続けてきた。

写真展のモデルはこれまで、生まれつき肌や毛髪の色素が薄く、弱視などの視覚障害も伴う遺伝子疾患の「アルビノ」や、顔の骨が十分に発育しない「トリーチャーコリンズ症候群」など様々な症状がある人たちが務めた。

今回は、「ともに」をテーマに新しく撮り下ろした写真と過去の作品を含め、当事者28人と家族・友人計3組の写真が展示される。

マイフェイス・マイスタイル代表の外川浩子さんは「画面越しでは伝わりきらない『写真の力』がある。ぜひ足を運んで写真を見にきてもらいたい」と話す。

アルビノ当事者の神原由佳さん
アルビノ当事者の神原由佳さん
マイフェイス・マイスタイル

過去の写真展には、あらゆる人たちが足を運んできた。前回の写真展は渋谷で開催し、近くに遊びにきた際にふらっと立ち寄った人もいた。写真展は、見た目に症状が出る病気などについて知ってもらう機会になっている。

写真展には当事者やその家族も訪れる。今回のテーマ「ともに」は、前回の写真展に訪れた、ある親子との会話がきっかけとなった。

代表の外川さんは、赤ちゃんをおんぶして来場したある女性との会話をこう振り返る。赤ちゃんは見た目に症状が現れている当事者だった。

「親子で孤立し、子どもの将来を考えて不安でいっぱいだった時に写真展を訪れたそうで、『勇気をもらった。ほっとした』と話してくれました。

誰でも来れるオープンな写真展だからこそ、伝えられることもあると思いました。これまでの写真展では当事者にフォーカスしていましたが、今回は共に生きる家族や友人も一緒に撮影しました」

22日には、モデルとして参加した当事者によるトークも行う。「交流はリアル開催の写真展の醍醐味。ぜひ当事者の話を聞き、写真を見にきてほしい」と語る。

(取材・文=冨田すみれ子)

写真展「ともに」で展示される家族写真
写真展「ともに」で展示される家族写真
マイフェイス・マイスタイル

<写真展『ともに』>

NPO法人マイフェイス・マイスタイル、studio Bloom Room(冨樫東正、本田織恵)

とき 2025年2月21日(金)〜24日(月・祝)
   午前10~午後7時半(最終日は午後4時まで)
場所 すみだ生涯学習センター(ユートリヤ
費用 入場無料(申込不要)

イベント 

2月22日(土)午後1時〜 被写体モデルによるトークイベント(脱毛症、アルビノ、トリーチャーコリンズ症候群の当事者モデルたちが登壇)、午後3時〜アーティストトークイベント

2月24日(月・祝)午後1時〜BBC『みんなと違う私たち Different Like Me』上映 アフタートーク NPO法人マイフェイス・マイスタイル代表 外川浩子さん ゲスト:東京理科大学教授 西倉実季さん (参加費無料、申込不要)

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