アメリカのドナルド・トランプ大統領は1月29日、イスラエル軍のパレスチナ攻撃に抗議した留学生のビザを取り消し、国外退去させる大統領令に署名した。
トランプ氏は大統領令の目的を「反ユダヤ主義と戦うため」としている。
また、ロイターによると、トランプ氏は大統領令のファクトシートで「アメリカのユダヤ人に対するテロ的な脅迫、放火、破壊行為、暴力」を訴追するよう司法省に指示している。
さらに、「キャンパスや路上で反ユダヤ主義が爆発的に増加している」と主張し、次のように通告している。
「ジハードを支持する抗議活動に参加した全ての在留外国人に警告する。2025年には我々はあなたを必ず見つけ出し、国外追放する」
「大学はこれまでにないほど過激主義に侵されており、ハマスに共鳴する学生のビザをすぐに取り消す」
アメリカ各地に広がった抗議活動
イスラエルは2023年10月7日に武装組織ハマスに襲撃された後、約15カ月にわたりパレスチナ・ガザ地区を攻撃してきた。
これまでに約4万7000人が殺害され、国際社会や人権団体は、イスラエル軍の攻撃を「ジェノサイド(集団虐殺)」と批判している。
イスラエルの攻撃に抗議するデモはアメリカ各地の高校や大学でも行われ、学生らはイスラエル企業からの投資を引き上げるよう大学に求めてきた。
デモではさまざまな人種や宗教の人々が連帯し、そのほとんどが平和的に行われた。
「武力紛争の場所と出来事データ・プロジェクト(ACLED)」が2024年5月に発表した統計によると、アメリカの大学で行われたイスラエルのガザ攻撃に抗議するデモの97%は平和的なものだった。
しかし中には警察が介入した抗議活動もあり、逮捕された学生や教授もいる。
トランプ氏も大統領選挙で大学での抗議活動を非難し、参加者を国外追放すると共和党全国大会で約束していた。
どんな人たちが影響を受けるのか
この大統領令の影響は広範囲に及ぶと考えられている。
学生ビザを持つ留学生だけではなく、グリーンカード保有者も、パレスチナを支持したという理由でビザ取り消しや国外追放の対象となる可能性がある。
また、この大統領令は移民や外国人留学生のみを標的にしているように見えるものの、憲法の専門家は「あらゆる形の言論の自由を脅かし、アメリカを危険な場所にする可能性がある」と警告している。この大統領令の違憲性を問う訴訟が起きるのは間違いないだろうと見られている。
コロンビア大学ナイト憲法修正第1条項研究所の上席弁護士であるキャリー・デセル氏は、「言論の自由を保障する憲法修正第1条は、アメリカの大学で学ぶ学生ビザ保有者を含むすべての人に適用される」と述べている。
ナイト研究所が2023年に公表したICE(移民関税捜査局)の内部メモでは、イスラエル軍を批判した外国人の国外追放は法的に非常に困難だと結論づけられていた。
デセル氏は「政治的発言を理由した国外追放が憲法上可能かどうかを政府の弁護士らが詳細に検討していていますが、その答えはほぼ確実に『ノー』でした」と説明している。
「その判断は正しいものだと言えます。政治的発言を理由に非市民を国外追放することは、憲法違反にあたるでしょう」
ユダヤ人からも批判の声
トランプ氏の大統領令に対し、ユダヤ人からも批判の声があがっている。
進歩派ユダヤ人団体「ベンド・ザ・アーク」のジェイミー・ベランCEOは、「大統領令はその目的を反ユダヤ主義への対応だとしているものの、実際はユダヤ人の恐怖や過去のトラウマを利用して権威主義的な政策を実現しようとするための口実で、ユダヤ人を含むすべてのアメリカ人の安全を脅かす」と批判している。
「この大統領令は、ユダヤ人とイスラエルが一体だという誤った前提を推し進めるものでもあり、反ユダヤ的な『二重忠誠』を強化します。イスラエル・パレスチナ問題に関しては、ユダヤ人の間でも様々な考えがあります。大学での抗議には多くのユダヤ人も参加してきましたし、参加し続けています」
2024年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校の学生抗議運動に参加したベンジャミン・カーステン氏は、「この命令は、私たちのコミュニティを引き裂き、クラスメートの人生を破壊し、MAGA(アメリカを再び素晴らしい国にするというトランプ氏のスローガン)の考えに反対するあらゆるグループへの権威主義的な攻撃を正当化する危険な前例となる可能性があります」とコメントしている。
「ユダヤ人学生として、私のアイデンティティが仲間の学生に対するファシスト的弾圧の口実にされることを許すわけにはいきません」
アメリカのユダヤ人団体「IfNotNow」は「イスラエル軍の残忍なガザ攻撃に抗議した学生や移民を国外追放しようとしていることに、私たちは強い憤りを感じています」と声明で述べている。
また「極右を強化することがユダヤ人を危険にさらすのです」とも強調している。
「唯一の真の安全とは、共有された安全です。隣人が安全であれば、私たちも安全です。私たちが安全であれば、隣人も安全です。それ以外の道はありません」
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。