日本の「妖怪展」なぜスウェーデンで人気?LiLiCoがプロデューサーを取材。漫画やアニメから歴史へと関心広がる

漫画・アニメ好きが集まるストックホルムの書店に、日本の妖怪展、茶室「瑞暉亭」。日本文化への注目が高まるスウェーデン、LiLiCoが現地からレポートします。

旅行は、行きたい国を選ぶところからすでにワクワクが始まっていますよね。

今から貯金を頑張れば夏に好きな国に行けそう!と心の中で期待を高まらせながらお仕事をされている方も多いのでは?そして今、世界の国に行けば気づくと思います。どれだけ日本が注目されているのか。

わたしの故郷スウェーデンも例外ではありません。実は1月31日から、ANAが羽田とスウェーデン・ストックホルムを、週3回往復する定期便を就航し、互いの国にぐっと行きやすくなりました。

今まで、日本のみなさんにスウェーデンの魅力を、少しずつではありますがいろんなかたちで紹介してきました。フィーカ文化の大切さ、ザリガニを食べながら乾杯の歌を歌う夏の過ごし方などの楽しいトピックスはもちろん、子育てのあり方や働く環境も。

スウェーデンへ帰る度に毎回なにか新しいネタはないかなとアンテナを張っていますが、実は昔から知っていたけど、紹介したことがなかった場所があります。

スウェーデン、ストックホルムの旧市街ガムラスタンの中心にある、観光にも人気のVästerlånggatan(ヴェステルロング・ガータン)にある「Science Fiction Bokhandeln」 、サイエンス・フィクション書店です。

ここは、いわゆる映画のコアファンやフィギュアが好きな方、そして日本のアニメに影響を受けた個性的なファッションを身にまとう、カワイイ文化好きのギャルも頻繁に来るストア。

日本の漫画の多さには驚きました。スウェーデン語に翻訳されたものもあれば、英語訳のものも売られています。スウェーデンでは小学校3年生から英語を学ぶので、大抵の方は流暢に話せます。お馴染みの「ワンピース」や「デスノート」もありながら、可愛いらしい絵の作品も置いてあり、気になって手に取ってみました。

ヨーロッパからは遠い日本ですが、スウェーデンで売られている子どもたちのおもちゃは、ほとんどに「メイド・イン・ジャパン」と書いてあります。わたしがスウェーデンで暮らしていた当時から日本の漫画はすでに一部で知られていましたが、「まだ着物を着てるの?」と思われるなど、どんな生活環境なのか、あまり知られていませんでした。

ですが時代は流れ、SNSのおかげもあって、今はスウェーデンに帰るとどこに行っても、「日本に行くのが人生のひとつの目標」と言われます。知り合いだけではなく、レジの店員さんやレストランの方などにも言われるのです。

実際に特にここ数年、日本への関心が大きく盛り上がり、スウェーデンを歩いていると、いろいろな場所で日本文化に出くわすようになりました。

わたしが一番驚いたのは昨年末から開催されている「妖怪展」。正式名称は「Yokai – japanska väsen(イヤパーンスカ・ヴェーセン、「日本の魂-妖怪」)」で、正直スウェーデンで暮らしていたときも、このスウェーデン語を口にしたことは一度もありませんでした。

なぜ今、日本の妖怪にスウェーデンは興味を持ったのかが気になって、企画したプロデューサーさんに話を聞きました。

「日本の妖怪はとても魅力的で刺激的なので、幅広い方々が興味を持ってくれるだろうと思いました。歴史も学べば、日本の漫画やアニメで妖怪が出てきたときにその背景がわかるので、若い方にとっても興味深いだろうと。今まで日本のキャラクターが有名になっても、その背景や歴史がわからなかったり、誤解が生まれたりしたこともあったので、ぜひ知ってほしいと考えています。 

昔の木版画や絵巻を通じて、江戸時代以降に生まれた妖怪文化が、現代に至るまでにどう変化し、そしてどんな意味を持つのか、スウェーデンの人々に伝えたい。今の漫画などにも通じる、妖怪を楽しむ文化は何百年も前に生まれたものであり、更に千年以上前の時代から妖怪が書物の中で書かれてきたことがすごいと思うのです」

そもそも、日本の妖怪はスウェーデンでどのくらい知名度があったのか聞いてみると、やはりあまり知られていなかったとのこと。

「妖怪を知るとともに日本の文化も学べて、楽しいと感じてもらえれば嬉しいです。実際に開幕してからの数カ月で、日本の歴史や妖怪について学ぶことができて大変ためになったとの声が届いています

プロデューサーさんいわく、漫画好きの若い世代を中心に、スウェーデンでは日本への憧れの気持ちが大きくなっているのだそうです。 

この妖怪展はEtnografiska museet(エトノグラフィスカ博物館、民族学博物館)にて、2026年11月まで長期間にわたり開催されます。既に嬉しい反響が広がっていて、プロデューサーさんは「今までの展示会よりも平日の昼間に訪れる方が多く、もちろん週末も賑わっています。スウェーデンのメディアでの評価も高く、展示はこれから長く続きますが、とても手応えを感じているんです」と話してくれました。

実はわたしもオープン前に会場を見せてもらいましたが、スウェーデンでこの世界観に触れることができるなんて、とても新鮮でした。日本では見慣れている妖怪の絵も、外国で会えると新たな発見があるのです。

中でも水木しげる先生のコーナーが人気で、絵を見ながら解説を読むと、たくさんの知識に触れることができます。

そして、なんと「お子さま禁止」のコーナーも。そこでは、ジャパニーズ・ホラー映画の予告編や伊藤潤二さんが描く魅力的で恐いキャラクターたちを見ることができます。

「フォトスポットが人気で写真を撮る方が多いのですが、それにとどまらず若い方もしっかりとアートの解説を読んでいただけるのは、とても嬉しいことです」

ゼロからこんな大々的な展示会を立ち上げるのは大変だったと思います。どのように進めていったのでしょうか。

「とても大きなプロジェクトで時間も費やしましたし、どの作家の作品を展示するか、頭を悩ませました。京都国際マンガミュージアムとも相談し、現在活動中の漫画家はもちろん、江戸時代以降に妖怪や幽霊を描写した有名な方々、歌川国芳、葛飾北斎、歌川国貞、月岡芳年、河鍋暁斎についても教えてもらいました

外国での展示だからこそ、日本の文化の新しい一面が表現されると思います。日本の今の文化、漫画やアニメにも興味を持ってくださる方が既に急上昇しています。注目してくれるのはとてもありがたいです」

そして、この妖怪展が開催されているEtnografiskaから歩いてすぐのところにある茶室「Zui-Ki-Tei(瑞暉亭)」にも、ぜひ足を運んでもらいたい!

撮影中、今わたしはどこの国にいるの?と少し混乱するほど、スウェーデンの澄んだ空の下で美味しいお茶をいただく日が来るなんて、信じられませんでした。

ここでお茶の文化を教えてくれる山本由香さんはスウェーデンで30年以上暮らし、北欧の人々に日本の美しいお茶の作法などを広めています。愛溢れる笑顔と美しい着物姿で迎え入れてくれました。

やはり日本の文化への興味は高く、わたしがいる間だけでもたくさんの人々が訪れていました。由香さんは、靴のまま畳に上がるなどの「定番の間違い」とされることは全て目にしましたと話していました(笑)。わたしがとても納得したのは、由香さんの「畳はテーブルだと思って」という伝え方。こう伝えれば、スウェーデン人はすぐに理解できると思います。

異文化を味わって、心が落ち着き、茶室の周りの木々を揺らすそよ風が心地良かったです。旅の最中にここを訪れる時は、あえて和風のスタイルを身にまとえば、日本の良さを肌で感じられます。

(取材・文=LiLiCo、撮影=黒澤義教、編集=若田悠希)