「働くこと」がますます多様化するこの時代。あらゆる選択肢のなかから自分のライフステージとキャリアを照らし合わせ、最も自分らしい選択をするためにはどうしたらよいのだろうか。
心身的課題と社会的課題の両面から女性活躍を考えるプロジェクト「W society」は11月、ウェビナーイベント「私らしいキャリアの作り方〜これからの時代のキャリアオーナーシップとは〜」を開催した。
コロナ禍を経て、女性の転職市場はどのように変わっているのだろうか。また、よりよい転職に欠かせない「キャリアの棚卸し」の進め方とはーー?
キャリアは会社ではなく「自分」で決めるものに
イベントには、パーソルキャリアの転職サービス「doda」副編集長の川嶋由美子さん、ベル ジャポンのマーケティング コミュニケーションマネジャーの畠中桃子さんが登壇した。
クリームチーズブランド「キリ」を展開するベル ジャポンは、日本の女性のウェルビーイングをサポートする活動の一環として、今回のイベントを共催した。今後は、女性応援をテーマにしたオリジナルパッケージの商品を発売し、売り上げの一部を東北エリアの女性支援団体に寄付するほか、大阪・関西万博で女性のエンパワーメントに関するトークセッションを行う予定だという。
川嶋さんはまず「キャリアオーナーシップ」とは、「自分のキャリアについてどうしたいのか、どうなりたいのかを主体的に考え、納得のいくキャリアを築くために行動する」という考え方であると説明。
従来の終身雇用を前提とした働き方では、「社員のキャリアは会社が決めるもの」という考え方が一般的だった。しかし、この制度が崩壊し、働き方が多様化しつつある今、自律的にキャリアを形成していくことが求められている。
キャリアを自律的に築いている人の特徴は?
パーソルホールディングスが2024年2月に行った「キャリアオーナーシップに関する実態調査」では、仕事内容や働き方を自分で意思決定してきた人は、そうでない人に比べて仕事への満足度が高く、やりがいを感じていることが分かったという。
「仕事内容を自己決定している人の価値観で特徴的なのは、仕事仲間を大切にし、チャレンジ精神を持ち、常に自分自身を磨こうとしていること。また、『一つの企業で長く働くことが大切』など、これまで“正解”だと思われてきた価値観を重要視していないことがわかりました」(川嶋さん)
また、自己決定できている層は「資格を取る」「ビジネスニュースを多く読む・視聴する」といった行動に加えて、社内外での人脈を広げてさまざまな情報を取り入れようとするスタンスが強く、副業などで経験を積むことを心がけている人が多いという。
こうした結果からも、キャリアオーナーシップを育むには、常に自分の“扉”を外に開き、自己理解を深めながら、築きたいキャリアにむけて経験を積むことが重要であることがうかがえる。
女性の転職市場の動向は?リモートワーク求人は「椅子取りゲーム」
女性の転職市場はどのように変わっているのだろうか。川嶋さんによると、dodaの女性登録者数は2020年にコロナの影響によって落ち込んだものの、以降は毎年大幅に増加している。dodaを経由した女性の転職者数も2020年以降、年々増加しているという。
転職者に比例するように、転職決定時の平均年収も2019年度以降上昇が続いている。川嶋さんは「少子高齢化により労働人口が減少していく中、優秀な女性を早期に取り込みたいという企業も増えており、結果的に多くの女性が転職を成功させている」と語る。
一方で、リモートワークが可能な求人は増加傾向にあるが、特に女性からの人気が高く、全体と比べて応募率も上昇しており、「椅子取りゲーム」になっているのも現状だという。
「リモートワークの求人の場合、自律的に仕事ができる人や専門性の高い人が重視される傾向があります。自分のスキルを高めていくこと、専門性を磨いていくことがその権利を獲得できる一歩なのではないでしょうか」(川嶋さん)
キャリアの棚卸しの「3つ」のポイント
納得のいく転職やキャリアアップに欠かせないのが「キャリアの棚卸し」だ。
キャリアの棚卸しとは、これまでの仕事内容やプロジェクトを振り返り、そこで得たスキルや苦労したこと、当時のプライベート(結婚や引っ越し、趣味など)、生活において何の比重が大きかったのかを書き出すこと。川嶋さんは「今まで『倉庫』の奥に眠っていた自分を引き出して、どんなものが財産として貯蓄されているのかを整理する工程」と表現する。
棚卸しには、以下の3つのポイントがあるという。
①そのときに感じていた快・不快に焦点をあてる
②得た能力が大したことがないと思っても、小さなことでも書き出す
③プライベートな変化を経て変わった価値観も重要
①に関しては「まずは事実を書き出したうえで『こんなことに集中していた』『仲間に恵まれていた』などポジティブな面を整理するとともに、当時抱えていた違和感や不快感も振り返ることが大切」(川嶋さん)という。
また、川嶋さんは特に②を重要視しており、「女性は自分が得たスキルや能力を過小評価してしまう人も多い。わかりやすい看板でなくてもよいので『隣の席の人より得意だったことはなんだろう?』と自分に問いかけてみてほしい」と助言した。
職場での自分を振り返り「上司からこういう仕事を頼まれやすかった」「チームの中でこんな立ち位置になりやすかった」と思い出すことで、自分に期待されていた役割や、周りが頼っていたスキルに気づけるという。
そして、これまで数多くの転職者を見てきた川嶋さんは、「きちんと棚卸しをしている人のほうが転職時のミスマッチを防げる」と指摘する。
「自分はこういう価値観を大切にしていて、こういう状況が積み重なるとモヤモヤを感じるというのをわかっている人は、不幸なミスマッチを減らせます。そこは転職エージェントにもわからないことなので、自分で気づいて話せるほうがよい転職につながります。職務経歴書でのアピールポイントや強みもスムーズに書けるようになるのではないでしょうか」(川嶋さん)
棚卸しの作業は、単に自らの経歴を振り返るだけでなく、その時々の自分の価値観や感情に向き合う時間にもなる。仕事に追われる日常では埋もれてしまう、自分の強みや“本音”を知ることは、自分らしいキャリアを築くきっかけになるのではないだろうか。