知ってた?「消火栓標識」は民間企業が運営している。維持管理費は広告料からも、都内では約8割が未利用

「消火栓」の場所を示す赤いポールの「消火栓標識」。都内では民間企業によって運営されていることを知ってましたか?

火災発生時に水を消防隊に供給する「消火栓」。その場所を示す赤いポールの「消火栓標識」が民間企業によって運営されていることをご存知だろうか。

寸刻を争う消火活動に必要な消火栓標識の維持管理費は、付属する広告料でまかなわれている。しかし、都内では広告の約8割が未利用の状態となっている現状もある。

この状態が続けば標識の存続に影響が出ることから、近年では地域密着型のプロスポーツチームが広告の掲出に乗り出す動きが出てきている。

消火栓標識。クリアソン新宿の広告が設置されている。
消火栓標識。クリアソン新宿の広告が設置されている。
消火栓標識株式会社の広報提供

公道上に掲出できる珍しい広告

消火栓標識の設置や維持管理、広告業を営む「消火栓標識株式会社」(東京都)の広報担当者によると、多くの消火栓は地下に埋まっているため、消火栓標識は消防車が消火栓の位置を早く見つけるための目印となっている。

また、地下に埋まった消火栓の上に車が置かれることを防ぐ役割もある。道路交通法でも「消火栓の5メートル以内は駐車禁止」と規定されているが、消火栓の上に車が置かれてしまうと、一分一秒を争う消火活動に影響が出てしまう。

このように防災に一役買っている標識だが、設置は法律によって義務化されていない。設置が検討されていた当時、消火栓の数が膨大で財政的な裏付けが十分取れなかったことが理由だ。

結果、「民活方式」がとられることになり、同社は1955年から都内などの標識の維持管理などに携わっている。その費用は、「消火栓」という文字の下のスペースに出してもらった企業や個人からの広告費でまかなっている。

「ありがとう」と言ってもらえる広告

消火栓標識の広告は、道路占用や道路使用、屋外広告物の許可を得ると、「公道上の珍しい広告」として掲出できるようになる。

では、消火栓標識に広告を出す際のメリットは何だろうか。

消火栓標識株式会社の広報担当者は、「特徴は『ありがとう』と言ってもらえる広告であること。防災に役立てられるので、地域の方々や道路管理者から感謝されることもある」と語る。

標識自体が公共性の高いもののため、広告としての信頼性やイメージアップに寄与するということだ。

さらに、安さも魅力の一つ。標識の設置場所や地域などの条件によって料金は異なるが、都内でも看板の製作から掲出までにかかる費用は全部で月1万円程度だ。

そもそも消防車に消火栓の場所を知らせる標識であることから視認性が高い。店舗やクリニックなどへの誘導標識としても利用できる。

しかし、東京都内では2万個ある標識のうち1万6500本ほどの広告枠が未利用の状態となっており、管理費の不足が深刻な問題となっているという。

約8割の標識に広告が出ていない理由について、広報担当者は「消火栓標識に広告を出せるということ自体を知らない人が多い」と話す。

このような状態が続けば維持管理ができなくなるため、「消火栓標識を存続させること自体が厳しくなる」という。

クリアソン新宿の広告を設置した時の様子(中央が消火栓標識株式会社の毛利社長)
クリアソン新宿の広告を設置した時の様子(中央が消火栓標識株式会社の毛利社長)
消火栓標識株式会社の広報提供

サッカークラブとパートナー契約

一方、近年では社会的な意義を理由に地域密着型のサッカークラブが広告を出す動きも出てきている。

消火栓標識株式会社は2024年2月、東京都新宿区が本拠地のサッカークラブ・クリアソン新宿を運営する「Criacao」(東京都)などと、区内約1200カ所の標識の維持管理、認知拡大をおこなう「『消火栓標識パートナーシップ』プロジェクト」を開始。

区内の一部標識の広告欄にクリアソン新宿のエンブレムなどを掲げた。取り組みに共感してもらえる企業や個人を随時募集している。

同年11月には、プロサッカークラブ「東京ヴェルディ」や「モンテディオ山形」とパートナー契約を締結。単なる広告宣伝ではく、地域に根付いたプロクラブなどと連携することで、地域の防災活動を推進する効果を期待している。

これまで、プロサッカークラブは「地域のごみ拾い」や「子どものサッカー教室」など、“ホームタウン活動”を実施してきた。今後、防災という領域でも地域に貢献していくクラブが出てきそうだ。

消火栓標識株式会社の毛利綱作社長は取材に、「消火栓標識は街中にたくさん立っている。防災の意味が大きい広告となるので、町を歩く際は少し意識して見てもらえると嬉しい」とコメントした。

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