目指すのは億万長者ではなく、一番「幸せ」になること――。
ルーレットによって人生の道筋が決まり、得たお金や資産によって順位が決まる「人生ゲーム」。この国民的ボードゲームに、新たな価値観を反映した新作「100年人生ゲーム」が話題となっている。
新作は、お金を稼ぐことが目的ではなく、幸せのポイントを貯めながら、ゴールの100歳の誕生日を目指すというもの。超高齢化社会を迎えている中、長生きに対してポジティブな面に注目してもらう「大人向け」の人生ゲームだという。
“幸福長者”を目指す新たな人生ゲームの遊び方と開発の背景を取材した。
マスのエピソードはすべて“ノンフィクション”
100年人生ゲームは、ルーレットを回し、出た数にあわせて自動車ゴマを進め、止まったマスの指示に従うという基本的な遊び方は通常版と同じ。大きく異なるのは、通貨に円やドルではない“ウェルポ”という単位が使われていることだ。
ウェルポとは、ウェルビーイングポイントの略。つまり、ゴールとなる100歳を迎えるまでに最もウェルポを貯めることができた人が勝利となる。
これまでの人生ゲームは「火星に移住する」「子どもが埋蔵金を発見!」「フルムーン旅行で温泉めぐりに行く」など、夢のような出来事が描かれたマスが特徴だった。
しかし、100年人生ゲームのマスを見てみると…
「韓国でファンミーティングに参加。50年ぶりにときめいた。50,000ウェルポ得る」
「『弱い野球チームの応援はやめたら』というパートナーと喧嘩。結婚していれば30,000ウェルポ失う」
「技術系の資格を取得。他の分野の人と話ができるようになった!8,000ウェルポ得る」
など、誰にでも起こり得るささやかな幸せや悲しいエピソードが並んでいる。それもそのはず、マスに書かれたエピソードは、研究所が1万人以上にインタビューやアンケートを行って集めた実話に基づいた“ノンフィクション”だという。
ゴールが遅い人=人生経験をより積んだと評価
100年人生ゲームには他にも、新たなアイテムやルールが追加されている。
政治家や医師、タレントなどの職業カードは、健康マニアや情熱ワーカー、友だち想いなど「価値観カード」に。
それぞれにウェルポが割り振られており、マスに書かれている価値観アイコンが一致した場合、カードに書かれた倍数に応じてウェルポが増減する。さまざまな人生経験を経ることで人の価値観は変わるため、「60歳の誕生日マス」では自分の好きなカードを追加で選べるという。
また、「幸せの記憶カード」というのも特徴のひとつ。「富士山登頂」や「家族の時間」などのタイトルとともに、実際にある人の人生で起きた幸せなエピソードがつづられている。カードに書かれたウェルポは、従来版なら決算日にあたる「終活マス」で受け取ることができる。
ゲームは「100歳の誕生日マス」に到着したらゴール。従来版ではゴールに到着した順に応じて賞金を受け取ることができる。しかし、100年人生ゲームでは、ゴールが遅かった人のほうが「人生でより多くの経験をした」とみなし、より多くのウェルポが得られる仕組みになっている。
最終的に、一番多くウェルポを集めた人が、一番人生を楽しんだ“幸福長者”となるのだ。
長生きをポジティブに捉えられない日本社会
100年人生ゲームは、タカラトミーと博報堂のシンクタンク「100年生活者研究所」によって共同開発された。開発の背景にあるのは、研究所が3月の「国際幸福デー」にあわせて人生100年時代に関する意識調査の結果だ。
調査は2024年3月、日本とアメリカや中国の海外5カ国で、20〜80代の計約5600人を対象に実施。その結果、他国は平均寿命に比べて希望寿命のほうが5〜15年長かったのに対し、日本だけ希望寿命が81.1歳と平均寿命を3.2歳下回ったという。
また、100歳までの人生についてどう考えているのかを聞くと、日本では「チャンスが増える」「幸せそうに見える」が海外と比べて約20ポイント低い20%台で、ポジティブな面を見ている人が少ないことが分かった。
研究所の田中卓副所長は「お金と健康の不安を抱えている人が多いように感じる。日本は他国に比べて長寿社会であるがゆえに、周りの介護や加齢による問題が可視化されやすいのかもしれません」と指摘する。
こうした結果から、日本人が人生100年時代を前向きに捉えるためには、起こり得る幸せな体験を知り、長生きすることのポジティブな面に注目することが重要だと考えたという。それを楽しく知るための“仕掛け”として100年人生ゲームを開発した。
特にターゲットにしているのは、30〜50代の現役世代だという。
「世界的に見ても幸福度は50歳前後が『底』といわれています。この年代に差し掛かると、なんとなく自分の人生の『先が見えた』と感じるとともに、子育てやさまざまな社会的問題も積み重なり、幸福度が落ちるそうです。
ですが、人生を100年と捉えたらまだ中間地点。ゲームを通じて、まだまだいろんな可能性があると感じてもらいたいと思っています。また、高校生、大学生のようなまさに自分の脚で人生を歩み始める世代にも遊んでもらえたらうれしいです」(田中副所長)
仕事?趣味?自分の「幸せのセンサー」を考える
とはいえ、何を幸せと思うかは人それぞれ。マスに書かれているエピソードが個人的すぎて、あまり共感できないこともあるだろう。
だが、誰にでも刺さるマスではないからこそ、自分や相手の価値観、人生の見方を知るきっかけにもなるのではないか。田中副所長は「ゲームの対話を通じて、自分の幸福のセンサーがどこにあるのかを考えてもらいたい」と語る。
今後は、このゲームを活用した「100年人生のはたらき方」に関する企業研修プログラムも展開していく予定。
研究所が24年9月、20〜80代の約750人を対象に、働き方に関する意識調査を行ったところ、「人生において大切なもの」において「健康的な生活」が抜きん出て高く、「仕事」は6番目だった。また、「最近5年間で大切さが下がったもの」は、「仕事」が最も高く、仕事に対する価値観が変わっていることがうかがえたという。
田中副所長は「人生を考える上で最終的な目標は『幸福になること』でそのための手段がお金や仕事だと思う」と語った上で、このように指摘する。
「人生における仕事の大切さが下がっている一方で、仕事の満足度が高いと、人生の満足度も高くなるというデータもあります。実際、人生において仕事に費やす時間は多くを占めるため、そこの充実度を上げていくことも重要です。
それを上げていくためには、自分の人生において大事だと思っている価値観に添った働き方をすること。ゲームを通じて、自分の人生の価値観から働き方を考えるというプログラムを提供していきたいと思っています」
※100年人生ゲームにはルーレットなどが付属していないため、遊ぶには2023年4月発売の「人生ゲーム」が必要になる。