日本製鉄によるUSスチールの買収計画は訴訟に発展した。日本製鉄側は、バイデン米大統領の買収中止命令や規制当局の審査の無効を求めている。
買収計画の発表から1年余り。これまでに何が起きたのか。時系列でまとめる。
2023年
12月18日:日本製鉄がUSスチールを買収することで、両社間で合意したと発表。買収総額は140億ドル規模(約2兆円)。「世界をリードする力のあるトップ鉄鋼メーカーとして、ともに前進する」と掲げ、USスチールの株主や規制当局の承認に従って「2024年の第二四半期か第三四半期での取引完了」を見越していた。
同日:全米鉄鋼労働組合が声明を発表。「買収発表は失望という言葉で済まない。買収は、USスチールが長いこと示してきた強欲で短絡的な態度そのものだ」などと非難した。
2024年
1月31日:前大統領のトランプ氏が買収について「私なら即時に中止する」と発言。全米トラック運転手組合の代表との面会後にそう述べた。
2月2日:USスチールの買収に反対する全米鉄鋼労働組合を、バイデン大統領が支持したと組合が声明で発表。
3月14日:バイデン大統領が買収反対を表明。「アメリカの製鉄業の人たちで成り立っている強いUSスチールを維持することが重要」「USスチールは100年以上もアメリカ製鉄業のアイコンだった。USスチールがアメリカ国内企業として所有・運営されることが不可欠だ」と声明で述べた。
4月17日:バイデン大統領がペンシルベニア州にある全米鉄鋼労働組合の本部でスピーチし「USスチールは完全なアメリカ企業であり続けるべきだ。アメリカ人によって所有、運営され、アメリカの鉄鋼労働組合による世界一の企業として。そうなることを約束する」と訴えた。
9月2日:民主党の大統領候補だったハリス副大統領が、ペンシルベニア州での大統領選キャンペーンで買収反対を表明。「USスチールはアメリカの歴史的な企業で、我が国にとって強い製鉄会社を維持することが不可欠だ」などと述べた。
9月4日:日本製鉄が、USスチール買収完了後のガバナンスに関する新方針を発表。USスチールの取締役の過半数はアメリカ国籍とするほか、取締役会に少なくとも3人のアメリカ国籍の独立取締役を含め、経営陣の中枢メンバーをアメリカ国籍とするという方針を示した。
9月23日:買収に対する対米外国投資委員会(CFIUS)の審査期限だったが、11月のアメリカ大統領選以降に延期された。
12月3日:次期アメリカ大統領のトランプ氏が「かつて偉大でパワフルだったUSスチールが海外企業に買収されるのは、完全に反対だ。税制優遇や関税でUSスチールを再び偉大にすることに、速やかに着手する」との立場を示した。
12月23日:CFIUSの審査期限を迎える。買収に対する結論がまとまらず、バイデン大統領の判断に委ねられた。
同日:関係地域の20の首長らが、買収への支持を表明する書簡をバイデン大統領に送付。
2025年
1月3日:バイデン大統領が買収に対する中止命令を発表。「買収や日本製鉄の取り組みが国家安全保障を害する恐れがある」と懸念を示した。
同日:バイデン大統領が声明を発表。「鉄鋼は我が国、つまりアメリカのインフラ、自動車産業、防衛産業基盤を動かすものだ。国内の鉄鋼生産と鉄鋼業者なしには、国の強さや安全性が損なわれる」などと述べた。
同日:日本製鉄とUSスチールが共同声明を発表。買収中止命令を「法に基づかない決定」と批判した。
1月6日:日本製鉄が、米コロンビア特別区連邦控訴裁判所に対し、バイデン大統領の買収中止命令とCFIUSの審査の無効を求める訴訟の提起を発表。
同日:石破茂首相が年頭記者会見で、買収中止命令について「日本政府としてはコメントしない」と前置きした上で、「日本の産業界から今後の日米間の投資について懸念があがっている。払拭に向けた対応は合衆国政府には強く求めたい。なぜ安全保障の懸念があるのかきちんと述べてもらわなければ、これから先の話には相成らない」と述べた。
1月7日:日本製鉄の橋本英二会長が記者会見を開き、バイデン大統領らを相手どって提訴したと発表。「アメリカでの事業遂行をあきらめる理由も必要もない」と述べた。