アメリカのドナルド・トランプ次期大統領にこびへつらうジェフ・ベゾス氏の風刺画の掲載を却下されたワシントンポストの風刺漫画家アン・テルナエス氏が1月3日、辞職すると明らかにした。
ピュリツァー賞受賞者で、2008年からワシントンポストで働いているテルナエス氏は1月4日、メールマガジン配信プラットフォームのサブスタックに「なぜ私がワシントンポストを辞めるのか」と題する声明を発表。
この中で「これまで、漫画に対して編集のフィードバックをもらったり、建設的な議論をしたり、意見の相違が起きたりしたことはあります。しかし、ペンを向けた対象が理由で漫画がボツになったことは、今回を除いて一度もありませんでした」と、経緯を説明している。
テルナエス氏がサブスタックでシェアした不掲載になった風刺画のラフスケッチには、AmazonのCEOでワシントンポストのオーナーでもあるベゾス氏の他に、Metaのマーク・ザッカーバーグCEOやロサンゼルスタイムズのオーナーであるパトリック・スン・シオン氏、OpenAIのサム・アルトマンCEO、ABCの親会社であるウォルト・ディズニー・カンパニーを象徴するミッキーマウスが描かれている。
風刺画では、億万長者のベゾス氏らは大きなネクタイをした大柄な人物に向かってお金の入った袋などを差し出し、ミッキーマウスは階段下でひれ伏している。
テルナエス氏はこの漫画について「トランプ氏になんとか取り入ろうと最善を尽くしている人々への批判」と説明している。
「スケッチの却下や修正の要請は過去にもありました。しかし、風刺画になくてはならない視点が理由で却下されたことは一度もありませんでした。これは状況を大きく変える出来事です……報道の自由にとって危険です」
一方、ワシントンポストのオピニオン面エディターであるデイビッド・シプリー氏は、テルナエス氏と同氏の貢献を尊重しているものの、「解釈には同意できない」とニューヨークタイムズに対する声明で述べている。
「すべての編集判断に悪意があるわけではありません。私の(不掲載の)判断は漫画と同じテーマに関するコラムを掲載したばかりで、さらに別の風刺コラムを掲載予定だったことによるものです。唯一の(判断の)偏りは、重複を避ける意図があった点です。」
ワシントンポストは2024年の米大統領選挙で、1980年代以降初めて特定の候補者の支持表明をしなかった。
同紙の編集委員会は民主党のカマラ・ハリス候補を支持する原稿を作成したものの、ベゾス氏が確認した後に支持声明は取り下げられたと報じられている。
しかし、ベゾス氏は12月、決定は「正しい判断だった」と述べた。
テルナエス氏は12月、2019年に発表したビジュアルエッセーをサブスタックに再掲載した。このエッセーで、風刺漫画家を「民主主義の炭鉱のカナリア」と表現している。
さらに、辞職を明らかにした1月4日のコラムでは、風刺漫画家としての自身の役割を「権力者や機関に責任を問うこと」とつづっている。
「私がその重要な仕事をすることを、初めて編集者が妨げました。だから私はワシントンポストを辞めることにしました」
「私の決断が大きな波紋を呼ぶとは思えません。ただの漫画家だからと片付けられるでしょう」
テルナエス氏はコラムの最後で、ワシントンポストのスローガンを引用して今後も描き続けると表明している。
「しかし、私は漫画を通じて権力に真実を突きつけることをやめません。なぜなら、『民主主義は暗闇の中で死ぬ』のですから」
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。