女性にとっても、自分の体の一部でありながら構造をあまり理解していないという人も少なくない「外陰部」。
外陰部について知ることは、恥ずかしい?はしたない?
タブー視されることが多い外陰部について、性教育や医療の現場で分かりやすく説明するためのパペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」が誕生した。
「他の体の部位同様に体の一部」「まずは知る機会を」
性教育パペット「Ba-Vulva(ばあばるば)」をつくったのは、生理やセクシュアルウェルネスなどのテーマを扱うコミュニティプラットフォームを運営する「ランドリーボックス」。
パペットの名前にある「Vulva」は英語で外陰部を意味する。そして、パペットをランドリーボックスと一緒につくっているのは「ばあば」(おばあちゃん)たちであることから、「Ba-Vulva(ばあばるば)」と名付けられた。
外陰部について知ることやその存在が「後ろめたい」とされていることについて、ランドリーボックスは「どうして私たちはこんなにタブー視しているのでしょうか」と問いかける。
ランドリーボックス代表の西本美沙さんはハフポスト日本版の取材に、外陰部も「他の体の部位同様に、体の一部」とし、「まずは抵抗感なく構造を知る機会が必要だと感じ、専門家の方々が説明する際のサポートツールになればとパペットを制作しました」と話す。
「もちろんVulva(外陰部)だけを理解すればいいということではありませんし、Vulvaを特別視しているわけでも、オープンにしようと促しているわけでもありません。大切な体の一部だからこそ、まずは抵抗感なく楽しく理解できるようになればと思っています」
2024年8月からオンラインで受注販売の予約受付を開始し、これまでに婦人科医や助産師などの医療関係者、性や性教育にまつわる情報の発信者、フェムケア商品を販売するブランド関係者などが購入。海外からの問い合わせもあるという。
「ばあば」とつくる、ばあばるば
初代ばあばるばは、西本さんの祖母・フミさんがつくった。
洋裁師をしていたフミさんの自宅には工業用ミシンがあり、デザインを伝えてプロトタイプをつくってもらった。
90代になり、物忘れがあるフミさんは「これは何を作ってるねん」と繰り返し聞き、その度に西本さんは「これ、おばあちゃんのそこにも付いてるやつや。外陰部っていうんやで」と答え、フミさんは「ほんまかいな!」と驚くという。
フミさんが学生時代の性教育のことや体のことなどを話しながら製作にあたる時間は、「とっても楽しい時間だった」と西本さんは振り返る。
今は、フミさんに他の「ばあば」たちも加わり、製作している。
「色やカタチに正解なんてない」ポップなカラーが伝えるメッセージ
パペットは大陰唇、小陰唇、膣口、尿道、肛門、陰核(クリトリス)の位置を説明することができ、陰核は別々のパーツでつくられているため、取り出すことも可能だ。
オレンジ色などのポップな色にしたのにも理由がある。
西本さんは「あえて、このような色にしているのは、正解の色なんて存在しないということを伝えるため」とする。
ランドリーボックスを運営する中で、読者からの悩みも多く寄せられるが、外陰部の色などに悩む人も少なくないという。
工場で作られるようなパペットと違い、手作りでつくられるばあばるばは少しずつだが違いもある。それと同じように、全ての人の外陰部も「色やカタチに正解なんてない。みんな違うのが当たり前」というメッセージを伝えている。
ばあばるばの医療現場での活用については、以下のように話す。
「病院や専門家に相談する際にも、自分の構造を知っていると伝えやすくなります。診察時に、どこに不快感がある箇所などを言葉で説明しづらい時などに『この辺です』とパペットを指差して伝えることで、抵抗を和らげることもできるかもしれません」
売り上げの一部をFGM根絶の活動へ寄付
ばあばるばの売り上げの一部は、女性性器切除(FGM)根絶を目指し活動する国際NGOプラン・インターナショナルに寄付される。
FGM(Female Genital Mutilation)とは、アフリカを中心に約2000年前から行われている慣習で、女性の外部生殖器を部分的または全体的に切除するもの。
現在でもアフリカ・中東・アジアの一部の国々で行われていて、世界30カ国で少なくとも2億人の女の子と女性が経験しているといわれている。
プラン・インターナショナルは、FGMについてこう指摘する。
「大人の女性になるための通過儀礼や結婚の条件にもなっている地域もあるが、医学的な根拠はまったくなく、女の子と女性の人権侵害であるとともに、健康面及び精神面に長期的な影響を及ぼし、潜在能力を発揮する機会を制限しています」
西本さんは、「ばあばるばを通じて、自身の体の理解とともに、世界のSRHR(性と生殖に関する健康と権利)の状況についても知る機会や、様々な世代の方々と関わり合いながら、相互理解を促していけるような場も作っていけたら」と話す。
「国や環境によっては、そもそも選択肢を選ぶこと、自分のカラダを守ること自体が難しい女性たちもいます。そのような環境があるということ、そしてその慣習を変えようとしている人たちがいるということを知ることから変わることもあると思っています」
(取材・文=冨田すみれ子)