「長女症候群」は実在した?ネットにあふれる長女の苦難に新たな光を当てる新研究【2024年回顧】

長女は母親の「助っ人」?最新研究から「長女症候群」にこれまで考えられていたよりも科学的な根拠がある可能性が示されました。
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recep-bg via Getty Images

※2024年にハフポスト日本版で反響の大きかった記事をご紹介しています。(初出:2024年4月13日)

4人きょうだいの長女として育った作家のヤエル・ウルフさんは、自分と母親が担う役割の境界線が、曖昧と感じることが多かったという。

「一番下の弟が生まれたのは、私が間も無く11歳になる時でしたが、大きな責任を感じていました。ベビーベッドのそばに座り、弟に問題が起きていないかどうか確認しながら、寝顔を眺めていました」とウルフさんはハフポストUS版に語った。

「母の子育てが下手だと思っていたわけではありません。私たちふたりで家族の面倒を見なければいけないと感じていたのです」

「私はお姉ちゃんというより、『もう一人のお母さん』みたいな感じでした」

ウルフさんはいわゆる「長女症候群」を感じていたということになる。

「長女症候群」は、ポップカルチャーの中で生まれた心理学用語で、米国精神医学会の正式な診断名ではない。

しかし、様々なメディアで長女の大変さを取り上げた記事が掲載されており、ネット上には「長女たちのための組合を結成する必要がある」「金銭的な補償を受ける権利がある」などの冗談まじりの投稿があふれている。

さらに、最近の研究で「長女症候群」にこれまで考えられていたよりも科学的な根拠がある可能性が示された。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を中心とする研究チームは2月、長女は早く成熟し、妹や弟の子育てを助ける可能性があるとする研究結果を発表した。

研究でわかったのは、妊娠中に大きなストレスを感じた母親の長女は、副腎皮質性思春期徴候が早い傾向があるということだ。

副腎皮質性思春期徴候を迎えた子どもは、副腎性アンドロゲンが増加し、ニキビが出たりわき毛が生えるなどの身体的な変化が起きる。

脳の発達も変わり、社会的、認知的な変化が促進されると考えられている。

つまり、表面的な体の変化は、感情的な成熟と相関関係があるということになる。

副腎皮質性思春期徴候は思春期とは異なる成長の段階であり、乳房の発達や初潮(男児の場合は精巣容量の増大)などの変化は起きない。

研究に携わったカリフォルニア大学マーセド校心理学部のジェニファー・ハーン=ホルブルック助教授は「母親が妊娠中に高レベルのストレスを感じている場合、娘がより早く社会的に成熟することが、母親が新環境に順応するための得策となる」と説明する。

「母親が早く『助っ人』を得ることが、困難な環境でも後から生まれてくる子孫を残すのを助けるのです」

15年かけて親子を追跡

研究者らは、253組の親子を、母親の妊娠時から子どもが10代になるまで15年かけて追跡した。

妊娠時には、母親のストレスやうつ、不安のレベルを測定。出産後は5歳前の親の死や離婚、7〜9歳時の父親の不在や経済的不安など、子どもの早期成熟や思春期との相関関係がわかっている要素も記録した。

また子どもたちは、体毛や身長の伸び、乳房の発達、生理の開始時期、声の変化など、副腎皮質性思春期徴候と思春期に現れる変化を測定した。

その結果、母親が妊娠中に高レベルのストレスを経験した場合、最も早く成熟したのは最年長の女の子だった。

研究結果は、精神神経内分泌学の学術誌「Psychoneuroendocrinology」2月号に掲載されている。

長女は損?得?

子どもが早く成長して、親の代わりに家族の世話をすることは「親化(ペアレンティフィケーション)」と呼ばれる。

研究では、最年長の女児に見られたペアレンティフィケーションは、最年長の男の子、もしくは2番目以降の女児や男児では起きなかったという。

ハーン=ホルブルック氏は、長男に長女のような影響が見られなかった理由の一つとして「男児は女児に比べて、直接的な育児を手伝う頻度が少ないため、男児の社会的な思春期発達を早めようとする母親の適応上の動機付けが少ないのでは」と話した。

ハーン=ホルブルック氏によると、過去の研究から、思春期を迎えるタイミングは、男子よりも女子の方が幼少期の経験により影響されやすいことが示されている。

とはいえ、長女が必ずしも損だとはいえない。これまでの研究から、責任感の強い長女には見返りがある可能性も示されている。

2014年の研究では、きょうだいの中で最初に生まれた女の子は最も成功する可能性が高かった。2012年の研究では、長子はリーダーシップを発揮する可能性が高いという結果が出ている。

今回新たに発表された研究結果は、女性が妊娠中に経験するストレスなどの感情・環境要因が、出産から長い時間を経て子どもに影響を与える可能性があることを示唆している。

UCLAの人類学者で、研究に携わったモリー・フォックス氏は「これは世界初の発見であり、進化論的な視点から見てとても興味深い」とプレスリリースで述べている。

フォックス氏自身は双子の長女だという。ハフポストUS版の取材で「私は“共同長女”ですが、母と親密な関係を築き、弟や妹の面倒を見る長女は、どの家庭においても特別な役割だと思います」と話した

いかにも長女らしい発言だ。

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。

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