冬に起こりやすい脳梗塞は、早期発見がカギ。3つのチェックポイントとは?

冬場に注意したい脳梗塞。早期発見へのチェックポイントと予防策を専門家から学びましょう。
ウェザーニュース

冬場は温かい室内と浴室や寒い脱衣所などとの温度差によるヒートショックに代表されるように、脳や心臓の疾患が起こりやすい時季とされています。

こうした重大な心血管系疾患は、一刻も早い専門的な治療が必要とされ、なかでも脳梗塞は発症から4.5時間を過ぎての治療では、その後の容態が大きく悪化するリスクが高まるといわれています。

冬場に注意したい脳梗塞への注意点や予防法などについて、日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター科長の山口順子先生に解説して頂きました。

脳卒中の一つが脳梗塞

脳の病気として、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に脳卒中という名前をよく耳にします。それぞれどのような病気なのでしょうか。

「脳梗塞、脳出血、くも膜下出血はいずれも脳卒中に含まれる症状です。

脳梗塞は脳内の血管が血栓(血の固まり)により詰まったり狭くなったりすることで、血流が悪くなる症状です。

脳出血とくも膜下出血はともに血管が破れることにより発症するものです。脳出血は脳内へ、くも膜下出血は脳を覆うくも膜下腔という隙間に出血が生じます」(山口先生)

脳卒中の一つである脳梗塞も、いくつかのタイプがあるそうです。

「脳梗塞にはおもに、脳の奥深くにある直径1mm以下の血管が詰まる『ラクナ梗塞』、太い血管にできたコレステロールなどの固まりであるアテロームが破れ、そこに血小板が集まって生じた血栓が原因の『アテローム血栓性脳梗塞』、心臓でできた血栓が脳の血管まで流れてきたことによる『心原性脳梗塞』の3種類があります。

脳梗塞の大きな要因として、まず高血圧が挙げられます。そのほか、糖尿病、肥満症(メタボリックシンドローム)などが、脳梗塞を引き起こす動脈硬化の危険因子とされています」(山口先生)

早期発見と発症から4.5時間以内の治療がポイント

脳梗塞を発症した際に、どのような治療法が採られるのでしょうか。

「現在では2005年に使用が認められた『t-PA(組織プラスミノゲンアクチベータ)』という薬品の使用が、標準治療として定着しています。t-PAは血栓を溶かす力がとても強い薬で、脳梗塞を発症してから原則4.5時間以内に静脈注射や点滴により投与すれば、後遺症の発生を大きく軽減できます。t-PAによる治療が行われることで患者さんが助かるケースが増えるようになりました。

ただし、発症から4.5時間を過ぎてt-PAを投与すると、脳梗塞による血栓で遮断され、脆(もろ)くなった血管に血流が再開されるため、血管が破れて脳出血を起こす危険性が高まります。発症から4.5時間が『分かれ目』といわれるのは、そのためです。

また、脳出血の既往があったり、脳梗塞の範囲が広かったり、異常に血圧が高い状態では脳出血を引き起こす可能性が高く、発症から4.5時間以内であってもt-PAが投与できないことがあります。凝固異常や高血糖、血小板数の異常が血液検査で分かった場合も同様です」(山口先生)

脳梗塞の場合、起床した際に発症していたり、すでに倒れているところを発見されていたりということも多く、発症後4.5時間が特定できない場合も多いと思われますが。

「日本脳卒中学会の指針では、発症時刻がわからない場合は『最終健常確認時刻をもって発症時刻とする』と定めています。つまり、患者さんに脳梗塞の症状が現れていないことが認められた時点、たとえば起床時に異常があれば、就寝時刻が発症時刻と判断されることになるので、t-PAによる治療が受けられない可能性が高まります。

ただし、2019年3月からは、頭部MRI検査で発症からあまり経過していない可能性が高いと認められる場合には、t-PA療法を検討できるようにもなりました。

t-PAが受けられるに越したことはないですが、発症から4.5時間を過ぎても、できるだけ早く初期治療を始めることが重要です」(山口先生)

早期発見へのチェックポイント

脳梗塞を含む脳卒中は命にかかわり、重い後遺症の可能性も高い病気なため、早期発見・早期治療が重要です。そのためには「前触れ」といえるような、チェックポイントを知っておくと良いでしょう。

「救急隊員が脳卒中を疑われる患者さんの状況を判断・評価するために開発された、CPSS(シンシナティ病院前脳卒中スケール)というツールがあります。確認項目は、次に挙げる3点です。

まず、顔面のゆがみの確認です。対象者に歯を見せるようにほほ笑んでもらったり、口を膨らませてもらったりします。通常、顔の両側は同じように動きますが、脳卒中を起こすと顔の片側が動かないことがあります。

続いて、腕の動きの確認です。両腕を上げて、目を閉じて10秒間そのままにしてもらいます。通常、両腕は上がったまま保持できますが、脳卒中を起こすと片方の腕が動かないか、上がっても保持することができず、下がってきてしまいます。

最後に、会話をしてもらうことです。対象者の話している言葉が不明瞭だったり、不適切な言葉を使用したり、話すことができなかったりした場合、異常だと判断します。

このうちの一つでもみられた場合、脳卒中が疑われます。できるだけ早く専門の病院で受診してください」(山口先生)

米国脳卒中協会では、「FAST」という合言葉で脳卒中予防の啓発を行っているそうです。「F」は、Faceで顔のまひ。「A」は、Armで腕のまひ。「S」はSpeechで言葉の障害。「T」は、Timeで発症時刻を、それぞれ示しています。「F・A・S」が一つでもみられた場合は、脳卒中の可能性が70%以上といいます。

血液を「サラサラ」にするには?

脳梗塞を予防するには、日ごろからどんな注意が必要ですか。

「血栓ができにくいよう血液を固まりにくく『サラサラ』にしておくことです。そのために重要なのが水分補給で、とくに高齢者は体内の水分が少なくなっても、のどの渇きを感じにくくなります。就寝前やトイレに起きたときなどに、コップ3分の1~半分ほどの水を飲むといいでしょう。

脳卒中の原因は糖尿病、心房細動など多岐に渡りますが、最大の原因は高血圧です。高血圧予防のためには塩分の過剰摂取はもちろん、肥満、ストレス、睡眠不足、飲酒、喫煙など日頃の生活習慣に注意してください」(山口先生)

本格的な冬のシーズンを迎え、脳梗塞のリスクが高まる時季です。年末にかけて暴飲暴食などで生活習慣が乱れないよう予防を心がけて、万が一発症しても出来るだけ早く治療できるよう初期症状を見落とさないように気をつけましょう。

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