法律上同性カップルの結婚を認めない民法や戸籍法の規定は違憲だとして、性的マイノリティの当事者が国を訴えていた裁判で福岡高裁(岡田健裁判長)は12月13日、違憲との判断を示した。
この判決は、全国各地で行われている「結婚の自由をすべての人に」訴訟の9つ目の判断で、九州では福岡と熊本の法律上同性カップル3組6人が原告になっている。
一連の訴訟で、違憲/違憲状態判決は8件目。今回は「個人の尊厳と幸福追求権」を保障する憲法13条に違反するという全国初の判断が示された。福岡高裁はなぜ違憲と判断したのか。判決要旨全文を掲載する。
判決要旨全文
令和5年(ネ)第584号「結婚の自由をすべての人に」請求控訴事件
判決要旨
第1 主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第2 事案の概要
本件は、同性の者との婚姻届を提出したが受理されなかった控訴人ら6名が、被控訴人(国)に対し、婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(以下「本件諸規定」という。)が、異性間の婚姻(以下「異性婚」という。)のみを認め、同性同士の婚姻(以下「同性婚」という。)を認めていないことは、憲法13条、14条及び24条に違反していることが明白であるにもかかわらず、国会は正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠っており(以下「本件立法不作為」という。)、これにより精神的苦痛を被ったと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料各100万円及びこれに対する各訴状送達の日から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。
原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らがこれを不服として、本件各控訴を提起した。
第3 判断の要旨
1 本件諸規定が憲法13条、14条1項又は24条に違反しているか
(1) 本件諸規定が憲法13条に違反するかについて
婚姻の本質は、両当事者が、互いに相手を伴侶とし、相互に尊属・卑属の関係のない対等な立場で、生涯にわたって共同生活をするために結合し、新たな家族を創設することにあり、婚姻は、人にとって重要かつ根源的な営みである。したがって、両当事者において、婚姻し、これを維持することを希望する場合には、その希望は最大限に尊重されなければならない。
そして、婚姻をするかどうか、誰を婚姻の相手として選ぶかについては、完全に両当事者の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきものであり、このような意味での婚姻についての個人の尊厳が保障されていることは、今日では一般的に承認されているところ(最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427号)、このような意味での婚姻の自由は、憲法24条1項だけではなく、憲法13条によっても保障されていると解される。
しかし、婚姻の成立及び維持のためには、他者からの介入を受けない自由が認められるだけでは足りず、婚姻が社会から法的な地位を認められ、婚姻に対し法的な保護が与えられることが不可欠である。したがって、憲法13条は、婚姻をするかどうかについての個人の自由を保障するだけにとどまらず、婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利をも認めていると解するべきであり、このような権利は同条が定める幸福追求権の内実の一つであるといえる。そして、上記のとおり、婚姻が人にとって重要かつ根源的な営みであり、尊重されるべきものであることに鑑みると、幸福追求権としての婚姻について法的な保護を受ける権利は、個人の人格的な生存に欠かすことのできない権利であり、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利であるというべきである。
そして、性的指向は、出生前又は人生の初期に決定されるものであって、個々人が選択できるものではなく、自己の意思や精神医学的な方法によって変更されることはないところ、互いに相手を伴侶とし、対等な立場で終生的に共同生活をするために結合し、新たな家族を創設したいという幸福追求の願望は、両当事者が男女である場合と同性である場合とで何ら変わりがないから、幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法的な保護を受ける権利は、男女のカップル、同性のカップルのいずれも等しく有しているものと解される。にもかかわらず、両当事者が同性である場合の婚姻について法制度を設けず、法的な保護を与えないことは、異性を婚姻の対象と認識せず、同性の者を伴侶として選択する者が幸福を追求する途を閉ざしてしまうことにほかならず、配偶者の相続権などの重要な法律上の効果も与えられないのであって、その制約の程度は重大である。他方、婚姻は両当事者の自由な意思に完全に委ねられており、血縁集団の維持・存続といった目的からの介入は一切許されないことは、憲法24条から明らかである。同様に、婚姻ないし婚姻制度について宗教的な立場からの介入が許されないことも、同項から導かれるところであるほか、憲法20条の要請するところでもあると解される。そして、同性愛が疾患ないし障害であるとの考え方は、既に過去のものとして排斥されている。そうすると、同性のカップルによる婚姻を制度として認めない根拠となってきた様々な要因は、現在の我が国においては、憲法に反するものとして、あるいは不合理なものとして、ことごとく退けられているといえ、本件諸規定による制約の必要性や合理性は見出し難い。したがって、本件諸規定のうち、異性婚のみを婚姻制度の対象とし、同性のカップルを婚姻制度の対象外としている部分は、異性を婚姻の対象とすることができず、同性の者を伴侶として選択する者の幸福追求権、すなわち婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利に対する侵害であり、憲法13条に違反するものといわざるを得ない。
(2) 本件諸規定が憲法14条1項に違反するかについて
本件諸規定は、男女のカップルによる婚姻には法的な地位や保護を与えるのに対し、同性のカップルについては、婚姻しこれに伴う法的な地位や保護を得ることを一切認めていないのであるから、本件諸規定のうち、同性のカップルを婚姻制度の対象外とする部分は、合理的な根拠なく、同性のカップルを差別的に取扱うものであって、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反するものである。
(3) 本件諸規定が憲法24条に違反するかについて
憲法24条の主眼は、旧法下において、家制度の下、戸主が家族の婚姻に対する同意権を始めとする戸主権を有していたことや、妻の地位が夫に劣後するものとされていたことを一掃することにあり、制定の経緯からみて、同条が殊更に同性婚を禁止する趣旨で「両性」、「夫婦」の文言を採用したものであったとは認められない。したがって、同条は、同性婚を禁止するものではないというべきである。
そして、憲法24条の主眼は上記のとおりであるから、同性婚を認めないことが直ちに同条1項に違反するとまでは解し難いものの、上記のとおり、本件諸規定のうち、同性のカップルを婚姻制度の対象外とする部分は、個人の尊重を定めた憲法13条に違反するものであるから、婚姻に関する法律は個人の尊厳に立脚して制定されるべき旨を定める憲法24条2項に違反することは明らかである。
2 本件立法不作為が国家賠償法1条1項の各要件を充足するか
上記1のとおり、幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利は、憲法13条によって保障され、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利であり、同性のカップルについて婚姻を認めていない本件諸規定は、同権利を侵害し、憲法13条、14条1項及び24条2項に違反するものであるから、本件立法不作為すなわち本件諸規定を改廃等しないことは、国家賠償法上の責任を生じさせ得るものである。
しかし、本件諸規定を巡る下級審裁判所の判決をみると、その判断内容は区々であり、最高裁判所による統一的判断は未だ示されていない。この事情を踏まえると、本件立法不作為につき、国会議員に故意又は過失があると認めるのは困難である。したがって、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の各要件を充足するとはいえない。
3 結論
よって、控訴人らの請求はいずれも理由がなく、これらを棄却した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとする。
以上