「ゴミ山で物資を探すガザの人々、今まで見なかった光景」。UNRWA清田明宏さん、人道危機の深刻化を懸念

UNRWA保健局長の清田明宏さんは、「ガザに安全な場所はなく、尊厳が守られるような状況では全くない」と述べた。
記者会見する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の清田明宏・保健局長=2024年11月28日、東京都千代田区
記者会見する国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の清田明宏・保健局長=2024年11月28日、東京都千代田区
時事通信社

2023年10月のイスラエルとガザの武力衝突以降、ガザ側の死者は4万4000人を超え、イスラエル側の死者数は約1200人に上る。ガザ地区では今も激しい攻撃が続き、人口の9割に当たる約190万人が避難生活を送っている。

ガザで支援活動を行う国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の清田明宏・保健局長が11月28日、東京都内で記者会見を開き、ガザでの人道危機のさらなる悪化に懸念の声を上げた。

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変わり果てたガザの街並み

ヨルダンのアンマンを拠点に、ガザなどUNRWAの担当エリアでパレスチナ難民の医療保健を統括する清田さん。2024年にはガザを3度訪問し、記者会見では現地の状況を写真や映像とともに報告した。

「ガザは元々、人々がお互いを助け合いながら生活を守っている場所でした。かつては夜になると人が集まり賑わっていた海沿いの街も、今では戦車などの軍事車両が通って舗装が剥げ、砂埃が舞う道になってしまいました。真っ暗で、人も誰も通りません」と、変わり果てたガザの街並みを伝えた。

清田さんによると、これまでにガザ地区の9割の地域で避難勧告が発令され、勧告が一度も出ていないのは全体の13%のみ。他国への避難ができず、ガザの人々は生活に必要なものを車に積み込むなどして、移動を繰り返しながら生き延びている。

住まいを追われたガザの人々は「テント」で生活を送っている。中には国連やNGOの支援で届けられた丈夫なテントもあるが、木材を組んでビニールシートを被せたような脆弱な造りのものがほとんどだという。

テントは海沿いにまで広がり、冬の生活に懸念が残る。「壊れていても自宅の方が良い」と、窓も扉もない崩壊した建物に布などを吊るして暮らす人もいるという。

「ゴミの山に家族連れやいろんな人が集まって、『何か使えるものはないか』と探しています。このような光景は今までのガザで見たことがなく、それほど人々の生活がひっ迫しているということ。ゴミの中でも使えるものを探しながら生きていくという、『人間の尊厳の崩壊』が起こっています」と危機感を募らせた。

清田さんが滞在している間にも空爆が何度も起こったと言い、「ガザに安全な場所はなく、尊厳が守られるような状況では全くない」と述べた。

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衛生面も深刻な状況に陥っている。

清田さんによると、ガザでは下水処理場や浄水場などの水関連施設が破壊され、街中の至る所に下水があふれかえっているという。清潔な水が手に入らない不衛生な環境が広がる中、8月には生後10カ月の乳児にポリオの感染が確認された。ガザでの感染確認は25年ぶりだった。

こうした状況を受け、9月にUNRWAや世界保健機関(WHO)などが協力し、10歳未満の子どもへのポリオ集団予防接種を実施。人道的休止期間を挟みながら、11月上旬までに接種対象の子どもの約94%が2回目の投与を受けた

また、ガザで800人以上の医療や保健従事者が犠牲になったとして、清田さんは「命をつなぐ組織への攻撃は許されることではありません」と訴えた。

イスラエル議会は10月28日、UNRWAの活動を禁止する法案を可決。2025年1月に施行される見通しだ。施行されると、食料や燃料、医薬品の輸送や医療従事者らの移動ができなくなる恐れがある。

機能している医療施設も減少しており、清田さんは「昨日より今日、今日より明日が悪いという状況がずっと続いています。そこでUNRWAの人道支援を止めることは、非常に問題がある」と指摘した。

さらに「複雑な背景がありますが、どのような背景があったとしても、人が犠牲になり、必要のない苦しみを受けるというのは、あってはならないこと」だと訴え、一刻も早い停戦を呼びかけた。

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