11月の大統領選で勝利したドナルド・トランプ氏は、自身同様に性的暴行や不品行で告発された男性で次期政権の閣僚を固めるのに忙しいようだ。
トランプ氏がこれまでに発表した次期政権の主要ポストの候補者のうち、少なくとも4人がセクハラや性的暴行、レイプなどの性的不品行で告発されている。
それにも関わらず、トランプ氏は再選を果たした。
こうした状況を、女性たちはどのように受け止めているのかーー。これがMeToo運動の限界なのか?人々はソーシャルメディアで問いかけている。
トランプ氏再選の余波を受け、「性的暴行の疑惑が男性のキャリアをどう台無しにするのかもう1度教えて?」と多くの女性たちがTikTok動画で訴えた。
「今後『性的暴行の告発は男の一生をぶち壊す』なんてもう言わせない」とコメントする女性もいた。
トランプ氏自身も2018年、当時のホワイトハウス秘書官が元妻2人への虐待疑惑を受け辞任した際、同様の主張をSNSに投稿した。
「単なる疑惑によって人々の人生が打ち砕かれ破壊されている。真実もあれば嘘もあり、古いものもあれば新しいものもある。冤罪で告発された人は、人生もキャリアも失う。もはや法の適正な手続きなど存在しないのだろうか?」
同じような疑惑に直面した人物で周囲を固めるトランプ氏の傾向を考えれば、最近の閣僚人事に驚きを見せない人もいる。
性的暴行のサバイバーであり、性的暴力やその防止に関して講演を行なっているボニー・シェイドさんは、驚くというより「唖然としている」という。
「アメリカでは性的暴行の被害者は声をあげません。だって、性的暴行、ハラスメント、レイプの加害者(容疑者)が、大統領、司法長官、保健長官、国防長官、教育長官になれるのですから」
北米では、女性の4人に1人が一生のうちに性的暴行やレイプ、レイプ未遂を経験するという。このような高い発生率にも関わらず、警察への報告が最も少ない犯罪の1つであり、アメリカ国立衛生研究所(NIH)によれば、当局に報告された性的暴行は5%未満だという。
シェイドさんは「トランプ氏が選んだ閣僚は、男性の虐待的な行動を最小化し、この種の行動を常態化させています」と話す。
「私たちは『性暴力は悪』という社会に生きているのに、こうした閣僚の人選はセクハラや暴行、レイプを犯したとされる人たちに犯罪歴の代わりに職歴を与え、報いています」
トランプ氏が次期国防長官に指名したのは、FOXニュースの司会者で退役軍人のピート・ヘグセス氏。ヘグセス氏は2017年に女性をレイプした疑いで捜査され、その後、2020年の秘密保持契約の一環として、女性に口止め料を支払ったと報じられている。
ヘグセス氏はこの疑惑は「全て晴れた」と主張しているが、警察の報告書によると、この件を地元検察に回付して検討するよう勧告している。
保健福祉省トップに指名されたのは、ロバート・ケネディ・ジュニア氏。ケネディ氏は1990年代後半、妻がいるにもかかわらず、住み込みのベビーシッターに性的暴行を加えたとして告発された。
2024年に入って、ケネディ氏がその女性にメールで謝罪し、事件を覚えていないと述べたことが報道された。この疑惑について質問されたケネディ氏は後日、「私は純粋な少年ではない。恥ずかしい過去はたくさんある」と述べた。
司法長官には、薬物、賄賂、セックスに関する疑惑で議会倫理委員会による長期調査の対象となっていた元フロリダ州下院議員のマット・ゲイツ氏が指名された。
しかし11月21日、自身への疑惑を否定していたゲイツ氏は、新たに未成年とのセックス疑惑が浮上したため司法長官候補から辞退した。
ゲイツ氏の上院承認公聴会では、これらの疑惑の一部を公表する必要がある。辞退した今、ゲイツ氏は保護され、報告書が日の目を見ることはないかもしれない。
とはいえ、専門家によれば、ゲイツ氏の辞退はある意味前向きに捉えられるという。
米ウィッティア大学のサラ・アンジバイン政治学准教授は「ゲイツ氏が辞退を選択したことは、未成年者に対する性犯罪疑惑に関して、政党がまだある程度の倫理を保持することを目指していることを示しています」とハフポストに述べた。
「ヘテロセクシュアルの男性により『支配』されていたワシントンD.C.では長年、議会スタッフにセクハラを訴える手段さえなかったことを考慮すると、注目に値します」
しかし、後退もあった。
アリゾナ州立大学で女性学とジェンダー学を教えるブリーン・ファース教授は「今回の人選は、トランプ氏が前任期中に、学生時代に性的暴行をしたとの疑惑があったブレット・カバノー氏を米最高裁判事に指名し、政府の最高位における性的暴行の許容性を示した時を思い起こさせます」と話す。
「トランプ氏の今回の人選や、以前のカバノー氏の指名は、政治的にも、性的にも、関係的にも、女性の自律性、発言力、選択権を圧殺するような『男らしさ』を支持していることを示しています」
とはいえ、トランプ氏は何人かの女性を重要で強力なポストに任命している。女性初の首席補佐官と言われるスージー・ワイルズ氏や、女性2人目の国家情報長官にトゥルシー・ギャバード氏を指名した。
「トランプ氏のジェンダー模範に従うなら、彼女たちの意見を尊重するようです」とアンジバイン氏は述べる。
トランプ氏は性的不品行疑惑のある女性も指名している。教育長官に指名された元プロレス団体トップのリンダ・マクマホン氏は、1980年から90年代にかけて、従業員による子どもへのグルーミングや性的暴行を止めなかったとして提訴されている。(マクマホン氏の弁護士は、この申し立てを否定している)
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トランプ氏の閣僚人事は、現在のMeToo運動をどう物語っているのか
トランプ氏の最初の大統領選勝利は、女性たちがセクハラや虐待を告発するMeToo運動に火を付ける助けとなった。
映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン被告に代表されるように、加害者とされる多くの人物は報いを受けた。しかしトランプ氏の閣僚人事は、権力者は性的不品行で告発された後でも出世できることを示唆している。
大学生でコンテンツ・クリエイターのレクシー・グッドさんは、説明責任を逃れたり、セカンドチャンスを得たりするのは政界の男性だけではないと語る。
「MeToo運動によって人生を『台無し』にされた男性たちのことを考えるのは重要です。元上院議員でコメディアンのアル・フランケンは自身のラジオ番組を持ち、コメディアンのルイス・C.K.はニューヨークの巨大アリーナ『マディソンスクエアガーデン』でのショーを完売。そしてドナルド・トランプはアメリカの大統領に再選しました」
「男性たちがMeToo運動の残虐さについて議論するのを聞いた後、とても興味深かったのは、彼らにとって『人生を台無しにされた』というのは、ほとんどの場合、仕事を失うという意味です」
「性的暴行を経験した女性にとって、それはもっと恐ろしい意味を持ちます」
アンジバイン氏は、2020年に黒人男性ジョージ・フロイドさんが警察に拘束された際に死亡したことに対する抗議デモをきっかけとしたDEI「ダイバーシティ(多様性)・エクイティ(公平性)・インクルージョン(包括性)」の取り組みへの現在の反発と同様に、私たちは今キャンセル文化やある意味MeToo運動に対する反発を経験していると考えている。
それでも、反発はある方向への大きな後押しがあった時のみに起こると述べ、私たちのセクハラや性的暴行への考え方に、MeToo運動はいまだに多大な影響力を持つと述べた。
「職場における女性へのハラスメントや虐待の文化は、例外なく有害で違法であり、犠牲の大きいものだとみなされています。MeToo運動がそれほど効果的でなければ、これほど極端な抵抗は見られなかったでしょう」
南カリフォルニア大学に通うキーリーさんは、トランプ氏の閣僚人事は、性的暴行を告発した女性たちを、社会がどれだけ信じていないかを物語っていると思うと語る。
「実際、私は仲の良い男性と閣僚候補の話をしたけど、彼は『これが僕らが生きてる世界なんだ』とあっさりと、まるで女性の話が永遠に否定されることは変えられない事実とでも言うように答えた。女性と関わり、性的暴行の痛みなど個人的な話を聞いたことのある男性でさえ、アメリカのこの時代を『そういうもの』と受け流してしまうことにショックを感じた」と話した。
「私としては、そんな現実には決して屈したくない」とキーリー氏は話し、「2016年にトランプが当選した夜から、私には火がついた。この闘いから絶対に引き下がらない」と語った。
第2次トランプ政権が始まるにあたり、ジェンダー学のファース教授は、多くの女性がそう思っていると考えている。
「これらの闘いは長く重複するものですが、フェミニストの抵抗は何世代にも渡り強力なものでした。#MeTooが私たちに教えてくれたことがあるとすれば、性的暴行について黙っていてはいけないということ、そして団結して抵抗することで、私たちはより強くなるということです」
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。