アゼルバイジャンの首都バクーで開催されていた気候サミット「COP29」が、11月24日に閉幕した。
COPは毎年国連が開催しており、各国が集結し、気候危機への対策について話し合う場だ。
しかし今回の会議はこれまで以上にギクシャクした雰囲気に包まれ、一部の国の代表が最終交渉の場から途中で退場する場面もあった。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長が「失敗するという選択肢はない」と警告し、科学者たちが2024年もまた「一番暑い年」を更新するかもしれないと懸念しているにも関わらず、多くの国々は今年のサミットの最終合意に「裏切られた」と感じている。
先進国からの提案は「取るに足らないくず」と批判され、「過去最も議長国の仕切りが下手で、カオスなCOP会議のひとつ」と評された今回のサミット。会議を分裂させた問題とは何だったのか。
大きな課題:気候変動への対策資金
2024年のCOPの主な目標は、発展途上国が気候変動による緊急事態から立ち直り、よりクリーンなエネルギーシステムに移行するのを支援するために、どれだけの資金を動員(公的資金・民間投資の両方で移動)するするべきかについて金額を決定することだった。
COPは以前、こうした国々に年間1000億ドルを動員することで合意したが、この取り決めは2025年に失効する。
専門家は、気候変動に対して脆弱な国々のニーズを満たすには10年後までに年間約1兆3000億ドルの資金確保を目指す必要があるとみている。
しかしCOP29の最終草案では、2035年までに確保できるのは年間2500億ドルと記されており、途上国の代表者は到底足りないとし、小さな島国からの代表者たちは激怒して交渉の場を去った。
その後、その金額は3000億ドルに引き上げられたが、それでも目標にはまだほど遠い。
24日の会合で全参加国がこの資金額を承認したというが、インドの交渉官は、この金額を「非常に乏しい」と非難。この決定は総意ではないと主張し、「この文書は目の錯覚でしかない」と述べた。
45カ国11億人からなる、特に開発の遅れた後発開発途上国ブロックは、この合意は気候変動資金に関する3年間の交渉を白紙に戻したと主張した。
パナマのフアン・カルロス・モンテレー気候変動特別代表は、「先進国はいつもギリギリのところで私たちに文書を押し付け、無理強いしてくる。そして多国間主義のために、私たちはいつもそれを受け入れなければならない。そうしなければ、気候メカニズムは下降の一途を辿ることとなり、誰もそれを望んでいない」と語った。
モンテレー氏は合意成立前、2500億ドルの提案額を「私たちのような脆弱な国の顔に唾を吐くようなもの」と述べ、「私たちが死に直面しているのに、彼らはパン屑を差し出してくる。非道で、邪悪で、無慈悲だ」と非難した。
同様に、慈善団体「Action Aid UK」も「この文書は完全に大失敗であり、茶番である」と述べ、「洪水や干ばつがグローバルサウスを襲う中、気候変動に見舞われた地域社会、特に最も深刻な影響を受けた女性や女児の適応と回復を支援するためには数兆ドルが必要。それに比べ、発表された目標は大海の一滴に過ぎない」と訴えた。
一方、それでも資金額が高すぎると感じている人もいる。
ヨーロッパのある交渉官はロイター通信に、「金額が高すぎるし、資金拠出国がほとんど増えていない」と批判した。
また、インドのように経済力のある国と資金が共有されることに憤慨する国もあった。
他にも、提示額はこの数年で世界の戦争に費やされてきた金額のほんの一部にしか過ぎないという不満や、「気候変動の対策資金」が何を意味するのかその定義が不明確だという指摘もあった。
「1.5度目標」はどうなった?
COP21で採択されたパリ協定では、196カ国が世界の気温上昇を産業革命前と比較して1.5度に抑えることに同意した。
世界はすでに、この温度に危険なほど近づいている。現在のペースで進めば、今後5年以内に1.5度を超える可能性が高いと予想されており、COPが掲げている1.5度に抑えるという目標はもはや実現不可能であり、無意味だという議論もある。
しかし、それが差し迫った気候危機の象徴であることに変わりはなく、議論の中心的な部分を占めた。
専門家はサミット閉幕にあたり、「温暖化を1.5度に抑えられるかどうかについて多く議論されるが、もはや見込みは良くない」と話し、「温度に関係なく、温暖化がわずかでも進むごとに、地球上の生物はより危険にさらされる。どの国も、可能な限り多くの排出削減を実現しなければならない」と述べた。
開催地への疑問
2023年のCOPは、歳入のほとんどを化石燃料で稼いでいるUAE(アラブ首長国連邦)で開催されたことで物議を醸した。
2024年も、同じく産油国のアゼルバイジャンでの開催が批判を呼んだ。同国のイルハム・アリエフ大統領はサミット開幕時に、石油とガスを「神の贈り物」と称賛する場面もあった。
アリエフ大統領はまた、西側諸国が自国から化石燃料を購入しながら世界にグリーンなエネルギーを推奨するのは「ダブルスタンダード」だと非難した。
アフリカの気候変動シンクタンクのモハメド・アドウ所長は、こうした今回のサミット「これまでで最も粗末に主導され混沌としていたCOP会議のひとつ」であり、議長国が「最近の記憶の中でも最悪なうちのひとつ」と批判した。
アドウ所長は「悪い合意ならない方がマシだ。貧しい国々がバクーで人質になる必要はない。もし富裕国が気候変動資金を動員できないのであれば、来年ブラジルでより良い計画を持って戻ってくるよう強制されるべきだ」と述べた。
化石燃料は?
COP28で、各国はすべての化石燃料からの脱却を誓約した。
しかし今年のCOP29では、各国に化石燃料からの脱却を求める欧州諸国が、アラブ諸国からの反発に直面した。
サウジアラビアは最終文書の多くを妨害し、「化石燃料からの脱却」への言及を削除しようとしたとして批判された。
結局、COP29は炭素排出産業からの脱却という誓約を繰り返しただけで、強化することも期限を提示することもなかった。
それでも、イギリス緑の党のエイドリアン・ラムジー共同代表はハフポストUK版に対し、COP自体は依然として強力なフォーラムであり、「私たちの地球を破壊し、グローバルサウスの何百万人ものの生活を耐えがたいものにしている化石燃料経済から脱却するために、各国が行動を共にする機会を提供している」と語った。
主要国はどこに?
COP29では世界の主要な指導者の欠席が目立った。アメリカのバイデン大統領も、中国の習近平国家主席も、世界の2大経済大国(二酸化炭素排出量も最大)を率いているにも関わらず、姿を見せなかった。日本の石破茂首相も出席を見送った。
G7の首脳のうち、サミットで演説したのはたった2人だった。
若いリーダーたちのコミュニティOne Young Worldから派遣された代表者の1人は、主要汚染国の指導者が欠席したことを「深く懸念している」と述べた。
一方、「世界の指導者たちが行動を起こすのを待つことはできない」と話し、「気候変動資金に関する世界の責任を問い、変化を促すのは、草の根運動や先住民のリーダー、そして地域コミュニティだ」と訴えた。
また、最終的な合意内容が乏しかったため、出席した国でさえも、「気候変動対策においてのリーダー」と名乗ることに批判を浴びた。
イギリスからの代表者は「イギリスは先導し続ける」と発言し、慈善団体Action Aidに「政府は酷い合意に輝きを与えようとしている」と非難された。
先住民より企業の声
合意が成立する前、科学者でClimate Analytics社のビル・ヘアCEOは、交渉に小さい島国や後発開発途上国をもっと含めなかったのは「一歩後退」だったと警告した。
フィリピンの若き先住民リーダーであるダニエル・マチェス氏は、COPが先住民の権利を認めつつ「具体的な解決策」をもたらすことを望んでいたが、その希望は打ち砕かれたとハフポストUK版に語った。
「私たちの先祖代々の領地が、温室効果ガスとの闘いに不可欠とされているのだから、COPのようなサミットでは他の誰よりも大きな声を上げるべきだ」
一方、「このようなイベントは、内容よりショーとしての要素に重点を置く傾向がある。COPは違うと期待したが、世界の指導者たちが気候変動に真剣に取り組んでいないことが示された。企業関係者がロビー活動を続け、政府の取り組みをコントロールしようとしている状況で、何ができるのか?」と訴えた。
来年は?
1月に再びアメリカの大統領に就任するトランプ氏は、気候危機との闘い全体に大きな影響を与えると予想されている。
トランプ氏が大統領に在任中だった2020年、史上最大の温室効果ガス排出国であるアメリカはパリ協定から離脱した。
すでに採掘歓迎の姿勢を示していることから、2期目も地球環境問題に対して更に強い影響を与えることが予測される。
アメリカの影響を除いても、次のサミットはすでに独自の課題を抱えているようだ。
次回の開催地、ブラジルの貧しい都市ベレンは、すでにサミット開催に向けて準備を急いでおり、何千人もの代表団が訪れる前に、未処理の下水やゴミで満たされた川を迅速に浄化しようとしている。
またCOP30が気候変動交渉の30年を記念し、大きな転機になるとの期待も大きい。
COP29の惨状と分裂を見れば、これ以上事態が悪化することはないだろう。
ハフポストUK版の記事を翻訳・編集しました。