ロッチ・コカドさんが43歳で見つけた趣味は「ミシン」。大量生産で綺麗なものより「不完全さ」が自分らしい【インタビュー】

ミシンで作った作品が話題になっている、ロッチのコカドケンタロウさん。元々古着が好きだったが、リペアをするようになり、買い物の価値観にも変化が訪れたという。

お笑いコンビ「ロッチ」のコカドケンタロウさんは、43歳でミシンにハマった。それからおよそ3年間で作ったものは、巾着やミニ財布から、バッグ、シャツ、スラックス、スカートなどに広がり、今では人からリクエストされ、プレゼントすることも多いという。

SNSで作品や制作過程を公開すると、その完成度の高さとセンスの良さで注目を集め、11月には初のミシン本「コカドとミシン」(ワニブックス)を刊行した。

取材の日も、自作のギンガムチェックのシャツと黒いスラックスで現れたコカドさんは、こだわりの詰まったデザインや生地選びについて、いきいきと話してくれた。元々古着が好きだったが、ミシンに出会いリメイクやリペアもするようになってから、買い物に対する価値観にも変化が訪れたという。

自作のシャツとスラックスで取材にやってきたコカドケンタロウさん。黄色い帆布のトートバッグも自作で、「コカドとミシン」で作り方を紹介している
自作のシャツとスラックスで取材にやってきたコカドケンタロウさん。黄色い帆布のトートバッグも自作で、「コカドとミシン」で作り方を紹介している
Yuko Kawashima

「ミシンは基本一人行動。ゆるい繋がりが心地よい」

ーー2022年にミシンを始めて3年ほど経ちますが、何が一番変わりましたか?

日々の充実感はもう格段に違いますね。夜も寝る直前までミシンをやってるから、あの部分はこうしたほうがよかったかなとか、あとこの部分を縫ったら完成しそうだなとか、ミシンのことを考えながら寝るんですよ。それで朝起きたらすぐミシンを始める。仕事が休みだと、午前中から日暮里の生地屋をめぐって夕方に家に帰ってきて、寝るまでミシンをやる日もあります。

ーーなぜそこまで魅了されてるんでしょうか?

楽しい瞬間がいっぱいあって、それがぐるぐる続いてるんですよね。生地を買いに行く時も、作ってる時も、完成した時も、身につけて出かける時も、人にあげる時も楽しくて。全部含めてミシンの良さなんです

誰かにあげようと思って作る時は、布選びから始めるので、タレントさんやったら、Wikiに好きな色とか載ってないかな?って調べてます(笑)。こういうのを作ってほしいんだけど…と、リクエストをもらうこともありますね。(相方の)中岡くんには、骨折した時にサポーターの上から付けられる足カバーや、結婚指輪を入れる小さな袋をあげたら喜んでくれました。 

ーーミシンを始めて交友関係は広がりましたか?

ミシンの交友関係はね…広がらないですね(笑)。サーフィンとかは外に出るから出会いが多いけど、ミシンは基本一人行動ですから。無理に広げなくてもいいのかなと。でも、インスタライブをやると、ミシン仲間みたいな人たちがコメントくれたり縫い方を教えてくれたりして不思議な一体感があって。そういうゆるい繋がりが心地よいです

ーーミシンは最初から職業用を使っているんですよね。

ミシンとの出会いは、CODE NAME(代官山のヴィンテージショップ)に遊びに行った際に、店主である友達がミシンを踏んでいるのを見た時でした。その友達は文化服装学院を卒業していて、学生時代から職業用ミシンを使っているから家庭用だと教えられないよと言われて、まずはJUKIの職業用ミシンを、その2カ月後にロックミシンをゲットしました。

今思うと、最初から職業用を勧められてよかったかもしれません。職業用だと、革やビニール、分厚いキルティングの布も縫えるので、作れるものの幅が広くて、制限なく一から何でも作れるんですよね

サコッシュ、巾着、トートバッグなど、自作のものはすべて普段から愛用しているという
サコッシュ、巾着、トートバッグなど、自作のものはすべて普段から愛用しているという
Yuko Kawashima

ミニ財布やサコッシュ。アメリカ古着がアイデアの源 

ーー今日も作品を持ってきていただきましたが、色や素材違いの布の組み合わせが素敵です。こういうセンスはどこから影響を受けたものなのでしょう?

50〜60年代のアメリカの古着が好きで、古着屋で働いていたのもあって、ずっと見たり着たりしてきたのがアイデアのベースにあります。あの時代の古着って、こういう独特な布の切り替えや色使いが多いんですよね。基本、自分が持っている古着の空気感に合うものを作っています。

ーー特に思い入れが深いものはありますか?

うーんとね…この、アロハシャツを作った時の残りで作ったミニ財布ですね。インスタに載せたら、サーフィンの先生やイモトアヤコとかから次々と「ほしいんですけど買えますか?」って連絡があって「いやいや、お金はいいんでもらってください」と。周りの人からの反応が多くて、嬉しかったですね。改良しながら、同じ型で布違いで何個も作りました。

特に気に入っているアロハ柄の財布
特に気に入っているアロハ柄の財布
Yuko Kawashima
内側はドットで、仕切りはフェイクレザー。汚れにくく、切りっぱなしでもいいので作るのが簡単とのことだ
内側はドットで、仕切りはフェイクレザー。汚れにくく、切りっぱなしでもいいので作るのが簡単とのことだ
Yuko Kawashima

ーー布との出会いも楽しそうですね。

アロハの布も、売れ残りのワゴンセールの中から、2.5メートル2000円くらいで袋に入っていたのを見つけたんですよ。当時は特にアロハを作るつもりはなかったんですけど、この柄めっちゃいいやんと思って買っておいて、翌年にそういえば!と思って、アロハを作りました。初めてメートルでまとめて買ったのはこのジャガード柄の布で、サコッシュなどのバッグをいっぱい作りましたね。

ハギレ以外で初めて買った布。気に入って追加で何度か買ったそう
ハギレ以外で初めて買った布。気に入って追加で何度か買ったそう
Yuko Kawashima

ーー生地は、日暮里のどこで買われてるんですか?

やっぱり「トマト」さんですねぇ。上の階にあるアメリカのインポートもののコーナーを見て、そこから1階まで降りていって、他にも「NAGATO」さんとか歩きながら気になるお店に入って。途中で喫茶店で休憩して、撮っておいた布の写真を見返してどれを買おうか決めて、買いに行って帰る。だいたい3時間くらいは日暮里にいますね。生地以外は新宿の「オカダヤ」さんが多いです。

洋服は滅多に買わなくなった「ものを増やさなくても満足」

ーーリメイクやリペアは、エコの観点からも最近注目が高まっていますが、コカドさんは自分で作るようになって、買い物の価値観に変化はありましたか?

洋服は滅多に買わなくなりました。買うより、服の縫製を勉強するために服屋に行ってますね。布の処理の仕方とか、自分で作るまでは気にしていなかったことが気になるようになってきて、いつもメジャーを持ち歩いていますね。店員さんからすると嫌な客かもしれないですけど…。

リメイクは、シャツやスラックス、キャップなど色々やりました。デザインが気に入っても、自分にしっくりくるサイズってなかなか出会えないじゃないですか。だから、気に入って買ったけどあまり使ってなかったやつを、切ったり縫ったりしてちょうどいいサイズにできる。新しく買ったような感覚になるし、ものを増やさなくても、今手元にあるものをさらに活用できるようになるから、満足感が高いんですよね

コーチジャケットも刺繍を入れるだけで、本当に愛着が湧いて、よく着るようになりました。何の知識もなく暇つぶし感覚で、移動時間や収録の控室でチクチク縫ってましたね。

僕はミシンも完全に独学なので、試行錯誤しながらでミスはあるんですけど、大量生産でキレイに作られたものより、その不完全さが味になって自分らしくいられるというか、よりフィットしているなと感じますね

レオパードのフェイクファーのサコッシュ。近くに買い物に行く時にも便利だという
レオパードのフェイクファーのサコッシュ。近くに買い物に行く時にも便利だという
Yuko Kawashima

ーー最近は、編み物で心の平穏を得たり、集中力が高まったりすると話しているアスリートなどが増えていますが、コカドさんもメンタル面での良い影響は感じますか?

ミシンをやってる時、他のことは一切考えないので、脳が休めているのか、スッキリしたり落ち着いたりするのは感じますね。一番効果のあるストレス解消法かもしれないです。マインドフルネスや瞑想にハマる人もこういう気持ちなのかな?と。ゴルフやサーフィンも自然の中で身体を動かすから爽快ですけど、ミシンはもうちょっと内面的なスカッと感がありますね

コカドさんにとって、ミシンは人の目を気にせず「100%の純度で夢中になれる趣味」だ。

最初は、「趣味は自分から探すものではない」と考えていたというが、40歳になる時に「もっと人生を豊かに楽しみたい」と趣味を探し始めた。ミシンに出会うまでにギターやゴルフにも挑戦したが、ある「邪念」を抱いたこともあったという。

インタビュー後編では、「何をしてる時が幸せか真剣に考えた」という趣味探しの旅や、仕事との距離感について聞いた。 

(取材・文=若田悠希、撮影=川しまゆうこ)

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