「異性愛と同性愛って、何か違いはありますか?」
ゲイ専用結婚相談所『ブリッジラウンジ』店長の田岡智美さん(@taoka_tomomi)は、これまで何度も、こう聞かれてきた。
自身は異性愛者で、30代は男女の結婚相談所で働き、2016年からはゲイ同士のお見合いに向き合ってきた。その中で、「異性愛も同性愛も、望む人が好きな人と支え合って生きていくことは尊く、好きになる性以外は何も変わらない」と感じてきた。
一方で、「社会が両者に様々な違いを生んでいる」とも痛感してきたという。田岡さんは当初、取材でその内容を話すことに、強い葛藤があった。それは「当事者の方に『こんなに違うんだ』と認識させてしまうきっかけになるかもしれないと思ったから」だ。
だが今もなお、「パートナーシップ制度があるから、同性同士も結婚できる」と間違った認識を持ち、「LGBTQは権利を主張し過ぎだ」などと言う人も少なくないと痛感してきた。
田岡さんは「異性愛者の方には、自戒の念を込めて、自分たちが当たり前だと思っていることが、そうではない人がいることを知ってほしい。考えてほしい。それが、社会が変わる第一歩だと信じています」とし、自身が感じてきた等身大の実情を語ってくれた。
見えてきたのは、あまりにも「異性愛が前提」であることで、当事者にさまざまな生きづらさや困難を強いているという、社会の現在地点だった。
◆カフェやプレゼント選びすら難しい。日常に根付く「異性愛前提」の生きづらさ
ーー男女と同性同士の恋愛について、田岡さんが感じる違いを教えてください。
根本的には、両者が違うというよりも、社会が違いを生んでいると感じます。その1つが、「お店選びや買い物のハードル」です。例えば会員様に、お見合いの成立後に行く飲食店について、「良いお店ありますか?」とよく聞かれるんですね。
最初は少し、不思議に思っていました。以前の職場は新宿、現在は渋谷にあり、情報も多いので、お店選びには困らないと思っていたからです。
ですが「席同士の距離が近すぎない」など、会話の内容を聞かれにくい環境を望む方が多いと気づきました。ゲイであることを、できるだけ知られたくないという思いからです。
男女だったら事前に調べていなくても、ふらっと入れると思うんです。お店選びを1つとっても、同性同士の場合はハードルがある。人目を考慮し、話す場所として公園やカラオケのほか、早い段階でお相手を家に招く方も少なくないと感じています。
ーーお店でも、異性愛者のカップルしか想定していないことが多いように感じます。
そうなんです。飲食店以外でも難しさを感じる場面は多くあって。例えば「デートの準備」をするような、美容室や服屋です。
どんな髪型や服が良いか助言が欲しくて、店員さんに「デートなんです」と相談する。すると、異性から人気だとされるものを紹介されることがほとんど。社会で「異性愛」の前提があまりに根付きすぎていて、プロからアドバイスをもらうのも難しいのだと痛感します。
ーー売っているものも、異性愛が前提のものが多いですよね。
特に店頭に並ぶペアのものって、ほぼ全てが男女用なんですよね。ありがたいことに、成婚したカップルさんにお家に招いていただくことがあり、記念日や引っ越しのお祝いに、心ばかりのプレゼントを買うこともあります。
特に、カップルさんが2人で使う「夫婦箸」をあげたいと思った時。男性用と女性用の箸ならば、好きな柄を自由に選べるんです。ですが両方を男性用のものにするとなると、箱のサイズが合わなくて一つの箱に収められなかったんですよ。
でも、男性同士だから別々の箱で良いよねと妥協したくなくて。なんとか詰めてもらいプレゼントしたことがあります。
贈り物を見に行くたびに目にする「男女ペアの商品しかない光景」は、生きにくい社会の一部を見ているような感覚です。買う時は必ず「男性同士のカップルさん用」と伝えるようにしています。こうした声が届き、贈り物も多様化すると良いなと思っています。
◆「ゲイってよく別れる」って本当?もし理由があるならば…
――婚活をサポートする中で男女と同性愛者の間に感じる違いはありますか。
ゲイの方向けのお見合いの仕事で感じるのは「まわりに頼らず、1人でなんとかしてきた人が多い」ということです。自分のことを話せないという前提があり、人に頼ったり甘えたりすることに慣れていないという方が少なくないと感じています。
例えばですが、私たちは結婚相談の仲介業なので、会員様が「お見合いした人が気になる」と教えてくれたら、男性同士でも男女の相談所でも当然、間に入ってお相手の気持ちを探ってみたり、時にうまくいくように助け舟を出したりするんですよね。
ですがゲイの方からは、「そういうのって、卑怯な感じがして」と相談を受けることもあるんです。異性愛の相談所では一度も言われたことがなかったので、最初は驚く部分もあって。そういった時は必ず、「ずるいことじゃないですよ」と伝えています。
例えば異性愛だったら、小中学校の時から、「あの子のこと好きだから、探ってきてほしい」と友人に頼む、ということってあると思うんです。最近はご友人や家族にカミングアウトしている会員さんも少しずつ増えてきていて。間接的かもしれないけれど、この仕事を通して「当たり前に話せる社会作り」の一員になれたらなと思っています。
ーー2人の関係を築いていく段階でも、異性愛と同性愛に感じる違いはありますか。
「パートナーの話を周囲にするハードルの高さ」が違うこと。それが、関係を続ける上での壁になる時もあると感じます。この仕事を始めてからずっと、多くの当事者から聞き、疑問に思ってきた言葉がありました。それは「ゲイはすぐ別れる」というものです。
本当にそうなのか。例えば「見た目がタイプ」で始まった恋愛は、セクシュアリティを問わず、うまくいきにくい傾向に感じていて。異性愛と異なり、職場や学校での「自然恋愛」が起きにくく、出会い方がアプリなどに限られるなど、続きにくい要素はあるかもしれません。
ですが、内面に惹かれ合い、長く関係を築く方がたくさんいるのも事実で。背景として子どもの有無を指摘する人もいますが、厚生労働省の調査を見ると、離別の大きな要因になるとは思えないんです。
ただもし「ゲイカップルはよく別れる」傾向が実際にあるならば、理由として、カミングアウトが前提となるため、周囲に「惚気話や相談をできる人」がなかなかいない、という面はあるかもしれません。
例えば男女のカップルだと、少し良いことがあって友達に惚気たり、うまくいかない時があっても悩みを相談したりすることで、自分の幸せを実感したり、他の人も似たような悩みを持っているんだと感じたりして、気持ちを立て直せることがあると感じてきました。
でもパートナーが同性の場合、旅行などの楽しい話や、お相手が靴下を脱ぎっぱなしにするみたいな愚痴など、何気ない話をするにもハードルがある。同性のパートナーを異性に置き換えて話そうとしても、本当に語りたい実情と少しずれてしまうこともありますよね。
関係が続くには、自分たちの幸せに共感してくれる身近な人や、日々感じるストレスを聞いたり、時にアドバイスしたりしてくれる人との関わりも必要だと思っていて。それが難しいから、関係を継続できなかったカップルさんも、少なからずいるように感じます。だから私たちも、成婚して卒業したカップルさんに、「いつでも連絡してください」と伝えています。
ーー誰にも話せないことで、緊急時の不安が大きくなる側面もあると思います。
病院での面会や手術同意はもちろん、その前段階の問題もあると思います。
以前、セクシュアリティを誰にも言っていないカップルさんに、「もし片方が、仕事中とかに倒れたらどうすれば良いんでしょうか」と聞かれて、ハッとしたんです。急に連絡がつかなくなっても、カミングアウトが前提となるので、会社、家族、友人…どこにも問い合わせることができない。
ブリッジラウンジに入る前に、ストーカーやネット上の金銭トラブル、デートDVの被害に遭ったけれども、パートナーが同性だから警察にも話せなかったという方もいらっしゃいます。そういった経験をした人は、新しい出会いにも、臆病になってしまうかもしれません。
同性愛の人たちにとって、お見合いや恋愛だけでなく、一人でいてもカップルになっても、たくさんの生きづらさや不安がある社会なのだと痛感しています。
◆「結婚できるようになったら、式に呼ぶからね」と言わせる社会
ーー田岡さんのお話を伺い、同性愛者だから異性愛者といろんなものが違うのではなく、「社会が違いを生んでいること」を改めて痛感します。
私なりにゲイの方と向き合う中で、人との違いで悩んだり、好きな人と一緒にいて幸せを感じたりなど、好きになるのが同性であること以外は、何も変わらないと感じています。
それはお見合いだけでなく、成婚後にたまに報告にきてくださるカップルさんの惚気話も幸せいっぱいで、私いっつもニヤニヤしちゃうんです(笑)羨ましいなあって。ただ、たくさんの最高の笑顔を見てきたからこそ、どうしても、何度も頭をかすめる言葉があるんです。
それは、「結婚できるようになったら、田岡さんを結婚式に呼ぶからね」という声です。
頭をよぎるたびに、どうしてこんなにも真面目に生きて、幸せをつかんだ方々が結婚できないんだろうって、苦しくなるんです。
だからこそ、「早くこの社会を変えないといけない」という原動力が芽生えます。結婚の平等の法制化に賛成する企業を可視化する「Business for Marriage Equality」に賛同したり、結婚の平等訴訟を傍聴してPodcastで発信したりなど、やれることをやっていこうと。
ーー否定される経験をたくさんしたからこそ、他のLGBTQ当事者を嫌悪して攻撃してしまったり、自分のセクシュアリティを長く認められなかったと吐露したりする人もいます。
ブリッジラウンジの会員様は、セクシュアリティをオープンにしていない方が多いです。それ故に、一人で生きていく道、または親や会社の体裁のために女性と結婚する道を、選択肢に含めた上で入会相談に来てくださる方がいらっしゃいます。
この表現が正しいかはわからないのですが、ここで婚活を始めるのであれば、ご本人の中で「同性パートナーと幸せになろう」と腹を括らないといけない瞬間があるかもしれないと感じています。
実際「親を安心させたい」との思いから、男女のいわゆる「友情結婚」の相談所に移る方もいらっしゃいました。ただ、そういった形でうちをやめた方は、今のところ100%に近い確率で、戻ってこられるんですよね。
一度やめようと決意せざるを得ない方がいることが苦しくもあって。自分の性的指向を、無理に見ないようにすることって、異性愛者だとまずないことだと思うんです。
現状では結婚を始め、セクシュアリティにより、難しいことはあるかもしれません。ですが世間の認識が変わったら、こうした葛藤をする人は減ると思うんです。だから企業としても「変えていこう」と発信し続けます。
ーーLGBTQの人権について、結婚の平等に賛成する人の割合が報道各社の世論調査で過半数になるなど、「社会は少しずつ変わってきた」と言われています。でもまだまだ、日常に根付いた、異性愛を前提とした「当たり前」に、影響を受けている当事者が多いのだと痛感します。
私はこの仕事に誇りを持っていて、かつ、こうしたサービスがあると言うことを世の中に知ってほしいので、自分がゲイ専用の結婚相談所で働いていることを、歯医者や美容院など、いろんなところで言うんですね。
そうすると、日本では同性同士の結婚が現時点ではできないにも関わらず「(ブリッジラウンジがある)渋谷では同性婚できるもんね」とか、「最近、LGBTの人多いもんね」など、間違った認識で返されることもあって。
「昔から私たちの身近にもいて、最近やっと、声を上げられるようになったのだと感じています」と伝えると、今度は「最近流行っているもんね」と。
正直、心が折れそうになると同時に、会員様に聞かせたくないと感じる言葉を聞くことも多くあります。ですがきっと、「目の前の人がLGBTQ当事者ではない」という前提のもと発されるこうした言葉は、多くの会員様がすでに耳にしてきたのだと思います。
変わってほしい。だから今後も誤った情報には違うよと、伝えていこうって思っています。
ーー「婚活に限らず、ゲイの人に幸せになってほしい」。そんな思いが一貫していると感じました。ブリッジラウンジやコンサルタントの公式Xには、成婚された方や会員さんから、日々差し入れやお土産がある様子が見えます。その理由が分かったような気がします。
本当にありがたくて。好きな食べ物をわざわざ買ってきてくださったり、体が弱っている時には漢方を差し入れてくださったりする方もいて。写真を撮って、元気をもらいたい時に見返しています(笑)
ただ同時に、男性同士のサービスがもっと「当たり前」になってほしいとも思っているんです。30代は男女の結婚相談所で働いていましたが、お菓子をいただいたのは2回でした。回数を覚えているくらい、特別なことだったんです。
男女の結婚相談所の利用者様にとっては、こういうサービスは存在していることも、会費を支払っているからサポートされることも「当たり前」なんですよ。でもブリッジラウンジの会員様は、これまでの経験から、そうは感じていないんだなと痛感します。
それはきっと、目の前に「異性愛が前提」の社会や会話が広がっているから。
今回私が葛藤しつつも、結婚相談所の仕事を通して感じてきた異性愛と同性愛の違いを真正面からお話ししようと思ったのは、一秒でも早く変わってほしいからです。
そのためにはきっと当事者だけでなく多くの異性愛者が、「自分の中の当たり前」がそうではないと思いをはせたり、当事者が直面する生きづらさなどの実情を正しく知ったりする必要があると思うんです。
今回お話ししたことが、そういったきっかけになったら、とても嬉しいです。
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*ハフポスト日本版は「いいふうふの日」に合わせて、ゲイの恋愛・お見合いを計3回、特集しました。この企画は、佐藤雄が担当しました。
〈取材・執筆=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版〉