女性への嫌がらせを一瞬でやめさせた男性のスマートな行動に称賛の声。「卓越した方法」「みんなに真似してほしい」

アクティブバイスタンダー(行動する傍観者)とは?アメリカではトランプ再選で性暴力の増加が懸念されている。第三者はどんな行動ができるのか。
イメージ画像
Jesus Sierra via Getty Images
イメージ画像

大統領選でトランプ氏が勝利したアメリカでは、女性やマイノリティへの嫌がらせの増加を懸念する声が増えている。

極右インフルエンサーのニック・フエンテス氏はトランプ氏当選直後、「your body, my choice(君の身体、僕の選択)」とXに投稿し、そのフレーズは拡散された。

そして今、女性の身体への蔑視がオフラインにも広がることを懸念する声もある。

TikTokでは、フエンテス氏の造語を使う男子たちに罵られた子どもの親や、大学のキャンパスで直接その言葉を大声で投げつけられたという女性などが傷ついた経験について投稿している。

不安が渦巻くなか、1人の男性が地下鉄の車内で取ったある行動が話題になっている。男性の妻でファッションライターのコラ・ハリントンさんがXに投稿し、これまでに250万回以上閲覧されている。

「今夜、帰宅途中の電車で若い女性が男にハラスメントを受けていました。夫は静かに自分の席を離れ、2人の間に立ちました。何をするでもなく、話しかけることもなく、ただ2人の間に立ちました」

「淡々と、とても自然に、それでありながらハラスメントをやめさせることができたのです。最悪の事態を防ぐことができました」

コメント欄では、「卓越した方法」「みんなに真似してほしい」「『君の身体、僕の選択』と叫ぶような男子の話でなく、もっとこういう話を聞きたい」などの声が寄せられ、多くの人が、ハリントンさんの夫の冷静で落ち着いたアクティブバイスタンダー(行動する傍観者)としての行動を称賛した。

ハラスメント防止トレーニングの専門家も、ハリントンさんの夫の行動を評価する。

アクティブバイスタンダー(行動する傍観者)のトレーニングを通じてハラスメント撲滅に取り組むNPO「Right To Be」の代表であるエミリー・メイさんは「ハリウッド映画のおかげで、アクティブバイスタンダーはスーパーヒーローのように空から舞い降りて相手と闘う必要があると思われがちですが、それは違います」と語る。

研究によると「気づいている」という目配せのような些細なことでも、ハラスメントによるトラウマを軽減することができるという。

「2人の間に立つことで、その男性はハラスメントを受けている女性に『ひとりじゃない、私がいるよ』ということを示すことができたんです」とメイさんは話す。

イメージ画像
Atlantide Phototravel via Getty Images
イメージ画像

アメリカ在住の2000人の回答者を対象に行われた2018年のオンライン調査では、女性の77%が望まない接触や性的なひやかしなどの「ストリートハラスメント」を経験したことがあると報告したのに対し、男性は34%だった。(トランスジェンダーやノンバイナリー障害のある女性の経験率はさらに高い)

「その女性がこれまで何度もハラスメントを受け誰も間に入らなかったであろう事を考えると、介入した男性の行動は癒やしであり、力強い意味を持ったでしょう」とメイさんは付け加えた。

アクティブバイスタンダートレーニングや自己防衛法を教育する「Defend Yourself」のディレクターで本も出しているローレン・テイラーさんによると、リスクが少ない介入方法はいくらでもあるという。

「大勢のグループで話している時、男性の1人が女性軽蔑的な発言をしたり、白人の友だちの1人が黒人軽蔑的や抑圧的な発言をしたりしたら、静かに『そういう言い方は好きじゃない』『そうは思わない』『そういうことは言わないで』と言うことでも助けになります」とテイラーさんは話す。

また、ハラスメントの標的にされている人に対して「一緒に隣の車両に移りませんか?」「助けが必要ですか?」と声をかけて介入することもできるという。

アクティブバイスタンダーの5Dとは

アメリカではコロナ禍を受けて反アジア人的な攻撃が相次いだ。その際に広まったものに積極的傍観者トレーニングがあり、「アクティブバイスタンダートレーニングの5D」というものに基づいていることが多い。

5Dとは5つの介入方法の頭文字をとったもので、以下から成り立っている。

・Distract:加害者の注意をそらす(被害者にお店の場所を聞くetc)

・Delegate: 第三者に助けを求める(警察や駅員なども含む)

・Document: 記録する(動画や音声で記録する)

・Direct: 加害者に直接指摘する(状況や場合による)

・Delay: アフターケア(嫌がらせの後、被害者に声をかけ確認する)

懸念されるトランプ氏再選の影響

テイラーさんとメイさんは、悪質な一部の人が、性と生殖に関する権利や女性の権利を非難するためにトランプ氏の大統領選勝利を悪用するのではないかと懸念していると述べた。

テイラーさんは、トランプ氏が2016年に大統領選に勝利したのをきっかけに、アクティブバイスタンダースキルの需要が急増したといい、今回も同様のことが起こるかもしれないと言う。

「ハラスメント、さらには性的暴行への恐怖が今とても高まっています。歴史が示すように、人々はトランプの暴言や行動を『許可』と受け取ってしまうのです」

南部貧困法律センターによると、2016年の選挙直後の10日間に全米で867件のヘイトクライムが発生し、その多くが移民、アフリカ系アメリカ人、イスラム教徒、女性を標的にしたものだったという。

このようなハラスメントの増加を心配する人にとって、アクティブバイスタンダーであることは、偉業を成し遂げる必要も、抱えきれないほどの脅威を抱く必要もないと知っておくことで、主体的に行動ができるようになり、力にもなるとテイラーさんは話す。

「『私には関係ない』とか、『誰も何もしてないから自分もしない方がいい』といった社会的メッセージにみんな囚われてしまうんだと思います。多くの人は正しい事をしたいと思っているけど、何をどうすれば安全にできるのかわからず、躊躇してしまうんです」

アクティブバイスタンダートレーニングは、たとえネットで情報を読むだけでもそうした障壁を乗り越えて行動を起こすことを促すのに役立つという。

テイラー氏は最後にこう述べた。

「自分自身に力を与えることで、他人にも力を与えることができ、またその逆もしかりです」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。