羨ましすぎて泣きそうに〜物価高騰にも対応する海外のセーフティネット事情

「生活保護を利用したことで、こんなふうに支えられた」という事実こそが知られるべきなのだ。大変な時は国が支えてくれるという安心感がもっと広まれば、今の殺伐とした状況は変わるだろう。
生活保護費減額訴訟の判決を受け「勝訴」などと書かれた垂れ幕を掲げる原告側弁護団(2023年2月、宮崎県)
生活保護費減額訴訟の判決を受け「勝訴」などと書かれた垂れ幕を掲げる原告側弁護団(2023年2月、宮崎県)
時事通信社

衆院選翌日の10月28日、嬉しいニュースが飛び込んできた。

国による生活保護引き下げを違憲として全国で保護利用者が原告となって戦っているわけだが、この日、岡山地裁で勝訴となったのだ。通称「いのちのとりで裁判」は全国29都道府県で起こされているのだが、現在、18勝11敗。怒涛の快進撃である。

そんな嬉しいことがあった翌日には、衝撃的なニュースが報じられた。

昨年の自殺者のうち、「経済・生活問題」を原因・動機とした自殺が前年比484人増の5181人で、この2年で1.5倍に増加したというのだ。

7月に発表された国民生活基礎調査を見ても、6割が、生活が「苦しい」と回答。3年近くにわたる物価高騰が続いているのだから当然だ。

私が属する「反貧困ネットワーク」にも日々「所持金が尽きた」などのSOSが届いている。ちなみに最近、反貧困ネットワークが支援した人は拘留を解かれたばかりだったという。失業し、1年以上にわたって飼い犬と車上生活をするものの、その果てに畑の野菜を盗んだ罪で拘留されたのだという。昨今「闇バイト」がメディアを騒がせているが、そのようなものが「流行」する背景には、厳しい現実がある。もちろん、だからといって強盗は決して正当化などできないが。

さて、そんな現在から遡ること約1カ月の10月3日、この国の貧困問題を考える上で非常に重要なシンポジウムに参加した。

名古屋国際会議場で開催された日弁連・人権擁護大会の「今すぐ生活保障法の制定を!」と題されたシンポジウムだ。

最後のセーフティネットを「生活保障法」として権利性をより明らかにしたものに、という内容で、私も第三部に登壇したのだが、印象に残っているのは二部。

諸外国の生活保護に該当する制度が「海外調査報告」として紹介されたのだが、それを聞いて、羨ましくて悔しすぎて、思わず涙が出そうになった。

日本で生活保護を利用するとなると、多くのものを手放さなければいけない。貯金が何十万とかあったら当然ダメだし、お金に換えられる資産があればまずはそれを売ってお金にするようアドバイスされる。

貯金がどれくらい減れば利用できるかと言えば、国が定める最低生活費の半月分以下。よく「一人暮らしの人は残金6万円くらいになったら窓口に行くといい」と言うが、都内で一人暮らしの場合、保護費は家賃混みで13万円ほど。その半分以下ということで、「6万円」なのである。

しかし、世界に目を向けると、状況はまったく違う。

例えばドイツでは1年の猶予期間中、4万ユーロ(643万円)の貯金があってもOK 。

イギリスでは1万6000ポンド(304万円)、お隣の韓国では最大7740万〜1億1340万ウォン(851〜1247万円)の貯金を持つことが許されているというのだから、「雲泥の差」という言葉では足りないほどのギャップである。

日本でも、これくらいの貯金の所持が認められれば、どれほど「入りやすく、出やすい」制度になることか。

もうひとつ、驚愕したのは世界的な物価高騰への対応について。

日本では2013年から生活保護基準が引き下げられ、そこに3年近くにわたる物価高騰が直撃。利用者たちは食事の回数を減らすなど、本当に命を削るような節約を強いられているわけだが、スウェーデンでは物価高もあり、直近2年連続で生活保護に該当する制度の額を前年比9%弱の大幅引き上げ。また、ドイツでも2年連続で前年比12%の引き上げが行われているという。

翻って、日本ではこれほどの物価高なのに保護費は引き下げられたまま。

コロナ禍から現在に至るまで、私は2カ月に一度ほど、主に困窮者を対象とした電話相談の相談員をつとめているのだが、この2年、生活保護利用者の方から以下のような悲鳴を聞いてきた。

「生活が苦しく水だけで過ごす日もある。物価高もきつい。生きていくのがつらい」
「光熱費が上がり携帯も解約。保護費だけではとても暮らせない」
「残金25円。電気・ガスも止まり食べるものもない」

ちなみに過去の日本では、物価高による生活保護基準引き上げが行われている。

オイルショックの起きた1973年、年度途中の10月に生活保護基準額を5%引き上げ、翌年4月には20%引き上げ。その間に2回、特別一時金も出しているのだ。

しかし、この物価高騰では全くの放置。その結果、2023年には118人の生活保護利用者が「生活苦」で自殺している

この日のシンポジウムには4人の当事者も登壇。それぞれのお話も素晴らしかったので紹介したい。

登壇したのは、自動車保有を理由に保護停止された三重県鈴鹿市の女性。

外国人という理由で生活保護を利用できない透析治療中のガーナ人男性。

生活保護世帯から大学に進学した女性。

そして夫のDVから逃れて生活保護利用の上、就労自立したシングルマザー。

どの方のお話も本当に心に残ったのだが、大学生の「人生は親ガチャなのか」「大学は贅沢なんですか?」という言葉が今も胸に残っている。

シングルマザーのハマダさん(仮名)のお話にも心を動かされた。

25年にわたる元夫からのDV・支配から逃れて緊急一時保護されたのが7年前。働かない夫のために10代からずっと働きづめだったという彼女は、夫が原因の借金もあり、自己破産も2回経験。子どもは4人。

転機となったのは、7年前に骨折するほどのDVを受けたこと。これによって夫は逮捕されるものの、彼女が身を寄せたDVシェルターには2週間しかいられないことが判明。住まいも仕事もお金もなく、生活保護利用を考えるものの偏見やバッシングが怖くてなかなか踏ん切りがつかなかったという。

しかし、働きづめの日々を送る中、高校生の子どもに「疲れてるおかん見るのがつらい」「生活保護受けて」と言われ、やっと申請。

そのことで、彼女の人生は大きく変わった。

まずは医療を受けられるようになった。生活保護を利用すると医療費は無料になる。そのことによって、初めて最後まで歯医者に通えたという。

また、DVなどでメンタルに深い傷を負っていたものの、生活保護を利用することで「生きる気力」が得られたという。

彼女が受け取っていた保護費は月に数千円。多い時で2、3万円。働いて得られる収入が最低生活費以下だと、このように差額が給付されるのだ。わずかな額かもしれないが、「手取りが変わらない安心感」は何者にも代え難かったという。

例えば、生活保護利用前、子どもの体調が悪くなると「また病院行かなきゃいけないの」「また仕事休まなきゃいけないの」と不機嫌になってしまったものの、利用後は「休んだ分、生活が苦しくなる」心配や「医療費にいくらかかるか」という心配がない。そういう一つひとつの安心が心の安定につながり、結果、子どものメンタルも安定したという。

そうして生きる気力を取り戻したハマダさんは正社員となり、現在は生活保護を「卒業」。

生活保護って、こんなふうに、生きる上で絶対的に必要な「安心」を与えてくれるものなのだ。改めて思い、こういう話こそもっともっと知られてほしいと心から思った。

バッシングや偏見の前に、「利用したことでこんなふうに支えられた」という事実こそが知られるべきなのだ。そして大変な時は、国が支えてくれるという安心感がもっと広まれば、どれほど今の殺伐とした状況は変わるだろう。

シンポジウムに参加して、改めて、多くのことを気付かされた。

今回の衆院選で当選した議員たちには、このような現実や、諸外国のスピーディな物価高騰への対応などを、ぜひ知ってほしいものである。

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