法律上同性カップルの結婚を認めない法律は違憲だとして、性的マイノリティの当事者が国を訴えている裁判で、東京高裁(谷口園恵裁判長)は10月30日、「法の下の平等」を定めた憲法14条1項と、「婚姻や家族の法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定すべき」と定めた憲法24条2項に違反するという判断を示した。
この裁判は「結婚の自由をすべての人に」訴訟と呼ばれ、30人を超えるLGBTQ当事者が国を相手取り、全国5カ所で計6件の訴訟を起こしている。
30日に高裁で判決が言い渡された東京1次訴訟は8つ目の判決で、二審は3月の札幌高裁判決に続いて2例目。これで8件中7件で違憲・違憲状態の判決が言い渡されたことになった。
東京高裁はなぜ違憲と判断したのか。判決要旨全文を掲載する。
【東京高裁・判決要旨全文】
判決要旨
令和6年10月30日午前10時 判決言渡(101号法廷)
令和5年(ネ)第292号 国家賠償請求控訴事件
【担当部】東京高等裁判所第2民事部
【裁判官】谷口園恵(裁判長)、柴田義明、山口和宏
【当事者】控訴人:7名 被控訴人:国
【主文】控訴棄却
【判断の骨子】
1 現行の法令が、民法及び戸籍法において男女間の婚姻について規律するにとどまり、同性間の人的結合関係については、配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定(=婚姻の届出に関する民法739条に相当する規定)を設けていないことは、個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益について、合理的な根拠に基づかずに、性的指向により法的な差別的取扱いをするものであって、憲法14条1項、24条2項に違反する。
2 そのことが、現時点(当審口頭弁論終結日=令和6年4月26日時点)までに国会にとって明白になっていたとはいえないから、国会が、現時点までに同性間の人的結合関係について配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定を設けるに至っていないという立法不作為をもって、国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
【理由の要旨】
1 控訴人らの請求
本件は、同性の者との婚姻を希望する控訴人らが、被控訴人に対し、現行の法令が同性婚を認めていないことは憲法14条1項、24条1項、2項に違反すると主張して、国会が同性婚を可能とする立法措置をとらないという立法不作為の違法を理由に、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償(慰謝料各100万円)を請求する事案である。
2 現行の法令が同性婚を認めていないことの憲法適合性(争点(1))
(1) 婚姻の目的・意義
婚姻は、当事者間の親密な人的結合関係を一定の要件の下に社会的に正当なものと認め、これに一定の効果を与える制度であり、時代、社会によってその制度内容は一様ではない。
民法は、男女が婚姻をして共に生活すると、夫婦間に子が生まれ、夫婦と親子から成る家族が形成されることを一般的に想定して、婚姻と親子を密接に結び付けた規律をしているが、この一般的な想定の全体に当てはまるものだけを社会的に正当な家族の在り方と認めて規律の適用対象としているわけではない。我が国では、法律婚としての婚姻制度が整備された当初から、婚姻当事者の自由意思による合意が要件とされる一方、子の生殖の能力や意思があることは要件とされず、婚姻の目的について、子の生殖よりも、婚姻当事者間の永続的な人的結合を重視する見解が大勢を占めてきたことに鑑みると、我が国の婚姻制度は、婚姻当事者間の人的結合関係自体に社会共同体の基礎を成す構成単位としての意義を認め、これを法的な身分関係として制度化し、法的保護を与えてきたものであるといえる。
国民の意識としても、一般に、性愛の対象とする相手を人生の伴侶と定めてその関係に社会的公認を受け、安定的に生活を共にすることに婚姻の意義の多くを見出しているのが実情であり、国民の中にはなお法律婚を尊重する意識が幅広く浸透しているとみられるから、婚姻には、互いに配偶者としての法的身分関係を形成して、それにより民法その他諸法令に定められた法的効果を享受することができることのみならず、居住、就労、療養その他の社会生活上の様々な場面において、配偶者として公認された者と扱われること自体により、共同生活の安定と人生の充実を得ることができるという意義があると考えられる。
そうすると、婚姻をすることで、自らの自由意思により人生の伴侶と定めた相手との永続的な人的結合関係について配偶者としての法的身分関係の形成ができることは、安定的で充実した社会生活を送る基盤を成すものであり、個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益として十分に尊重されるべきものである。
(2) 憲法24条の意義
憲法24条は、婚姻及び家族に関する従前の規律が、個人の尊重に欠け、男女間の不平等が顕著なものであったことから、婚姻に関する戸主の同意権のような封建的な規律を撤廃して、個人の尊重(憲法13条)と法の下の平等(憲法14条)という基本原則に立脚した制度が制定されなければならないことを明らかにする趣旨で設けられたものである。
憲法24条の制定時には、当時の社会通念に従い、婚姻とは男女間の人的結合関係をいうものであることを当然の前提として議論がされたにとどまり、同性婚の可否等については議論に上ることがなかったことからすると、「両性」、「夫婦」という文言を用いる憲法24条の規定をもって、性愛の対象とする相手を人生の伴侶と定めて共同生活を営むという永続的な人的結合関係が性的指向によっては同性間でも成立し得ることを想定した上で、男女間の人的結合関係のみを法的な保護の対象とし、同性間の人的結合関係には同様の法的保護を与えないことを憲法自体が予定し許容する趣旨であると解することはできず、憲法24条の規定があることを根拠として、男女間の婚姻のみを認め、同性婚は認めないことにつき、憲法14条1項違反の問題が生じ得ないということはできない。
(3) 性的指向による区別取扱いの存在
我が国では、かつては、異性愛が自然で、同性愛は病理であるとの認識が広く社会に浸透していたが、現在では、同性愛は疾病障害ではなく、性的指向は本人の意思で選択や変更をすることができないものであることが明らかになっている。そして、性的指向による差別が許されないものであることは、国際的に広く共有される認識となり、我が国でも国の施策に係る基本理念として明確にされている。
自らの性的指向に基づき、同性間でお互いを人生の伴侶と定めて共同生活を営むという永続的な人的結合関係を形成し、その関係に社会的公認を受けることを望む者は、社会全体でみれば少数に属するものの、現に存在する。このような同性間の関係においても、配偶者としての法的身分関係の形成ができることは、安定的で充実した社会生活を送る基盤を成すものであり、個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益であることに変わりがなく、男女間の関係におけるのと同様に十分に尊重されるべきものである。
しかし、民法及び戸籍法において、婚姻は男女間のものとして規定されており、同性間の人的結合関係については、婚姻の届出に関する民法739条に相当する配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定は設けられていないため、性的指向が異性に向く者は、自らの自由意思により人生の伴侶と定めた相手との永続的な人的結合関係について、婚姻により配偶者としての法的身分関係の形成ができるのに対し、性的指向が同性に向く者は、これができないという区別が生じており、これによって性的指向が同性に向く者に生ずる不利益は重大なものである。
(4) 上記区別の憲法適合性の判断枠組み
憲法24条2項は、婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な裁量に委ねつつ、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことにより、その裁量の限界を画しており、その裁量権を考慮しても、上記区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には、上記区別は憲法14条1項に違反し、その場合には、憲法24条2項にも違反する。
(5) 上記区別の合理的根拠の有無
ア 婚姻制度は、歴史的にみれば、男女が共に生活し、子をもうけて育てるという人の自然な営みの存在を基礎として設けられたものであり、婚姻と親子を密接に結び付けた規律をする現行法体系の下で、婚姻した夫婦による子の生殖と養育が社会の次世代の構成員の確保につながる重要な社会的機能を果たしてきた。
これに対し、同性間では、共に生活しても、その間に自然生殖により子が生まれることはない。しかし、我が国の婚姻制度においては、子の生殖は婚姻の不可欠の目的ではないと位置付けられてきたし、同性間の人的結合関係にも婚姻と同様の保護を与えても、男女間の婚姻に与えられてきた法的保護は何ら減ずるものではなく、婚姻制度が上記の社会的機能を引き続き果たしていくことに支障を来たすことはない。また、同性同士の共同生活においても、一方のみと血縁関係のある子、養子又は里親として養育の委託を受けた児童を共に養育している例が実際に存在しており、上記の社会的機能を果たすことが同性間の人的結合関係では実現不能というわけではない。
そうすると、婚姻制度の目的や社会的機能との関係において、上記区別をすることに合理的根拠があるとはいえない。
イ 我が国において、これまで婚姻は男女間でのみ認められてきたものであり、国民の中には、同性婚を認めることに否定的な考えを持つ者が、近年相当減少しつつも一定数存在する。
しかし、性的指向に関する社会における認識の変遷、我が国も批准する自由権規約の内容とこれに関する自由権規約委員会による履行の勧告、諸外国における同性婚を認める立法等の状況、我が国の地方公共団体におけるパートナーシップ制度の導入の広がりなどの国内外の動きが近年急速に進んでいる。同制度は、婚姻制度のような法的効果を伴うものではなく、当事者間の関係に社会的公認を与えるものとして一定の効果があるにとどまるが、その導入の急速な広がりは、同性間の人的結合関係に社会的公認を受けたいという要請の存在と、地方公共団体等においてそれを受け止めるべきであるという認識が広がっていることを示すものである。
このような国内外の動きに伴い、国民の意識の変化も進み、近年の同性婚に関する意識調査の結果をみると、年を追うごとに同性婚を認めることに賛成する者が増え、反対する者が減る傾向が顕著であり、現在では、我が国において、同性間の人的結合関係に男女間の婚姻と同様の保護を与えることについて、否定的な考え方が国民一般に広く共有されている状況にあるとはいえず、むしろ社会的受容度は相当程度高まっているといえる。
そうすると、婚姻及び家族に関する事項は国の伝統や国民感情を含めた社会状況における種々の要因を踏まえて定めるべきであることを考慮しても、性的指向という本人の意思で選択や変更をすることができない属性により、個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益の享受の可否につき区別が生じている状態を現在も維持することに合理的根拠があるとはいえない。
ウ 同性間の人的結合関係について、配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定を設ける方法としては、婚姻を男女間のものとしている民法及び戸籍法の規定を改正して、婚姻を同性間でも認める立法をする方法だけではなく、婚姻とは別の制度として、同性間の人的結合関係について婚姻の届出に関する民法739条に相当する規定を新設する立法をする方法もある。また、いずれの方法をとる場合でも、民法における婚姻の規律及びこれと関連付けられた親子、親権、相続の規律、その他諸法令において婚姻に関連付けて定められている種々の法的効果に関する規律のそれぞれについて、同性間の人的結合関係についても同様の規律とするのかどうかを定める必要がある。これらの事項についてどのような選択をするかは、現代における夫婦や親子関係についての全体の規律を見据えた総合的な判断を行うことによって定められるべき事柄であり、それによる具体的な制度の構築は国会の合理的な立法裁量に委ねられている。
もっとも、その立法裁量は、個人の尊重(憲法13条)と法の下の平等(憲法14条)という基本原則に立脚した制度とすべきであるという憲法上の要請が、その裁量の限界を画するものである。たとえば、配偶者の相続権(民法890条)のように、婚姻当事者の性別や子の生殖可能性の有無にかかわらず、配偶者の地位にあることにより当然に生ずるものとされている財産的権利について、男女間の婚姻とは異なる規律とすることは、直ちにその合理的根拠を見出し難く、憲法14条1項違反の問題が生じ得ると解される。
もとより、上記区別を解消するためにとるべき立法措置として複数の選択肢が存在することや、その立法措置に伴い構築されるべき具体的な制度の在り方は国会の合理的な立法裁量に委ねられることは、上記区別を解消する立法措置をとらないことの合理的根拠とならない。
(6) 憲法適合性についての結論
以上によれば、現行の法令が、民法及び戸籍法において男女間の婚姻について規律するにとどまり、同性間の人的結合関係については、婚姻の届出に関する民法739条に相当する配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定を設けていないことは、個人の人格的存在と結び付いた重要な法的利益について、合理的な根拠に基づかずに、性的指向により法的な差別的取扱いをするものであって、憲法14条1項、24条2項に違反する。
3 上記立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法と評価されるか(争点(2))
同性間の人的結合関係についても配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定を設けるべきとの要請は、憲法の規定自体から一義的に明白であったとはいえず、憲法上の要請としてこのような帰結が導かれることが認識されるようになったのは比較的最近のことであり、概ね同旨の司法判断が積み重ねられつつあるものの、最高裁による統一的判断は未了であることに照らすと、そのことが現時点までに国会にとって明白になっていたとはいえない。
したがって、国会が、現時点(当審口頭弁論終結日=令和6年4月26日時点)までに同性間の人的結合関係について配偶者としての法的身分関係の形成に係る規定を設けるに至っていないという立法不作為をもって、国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。
以上