アメリカフロリダ州で、共和党のロン・デサンティス知事と、中絶の権利を取り戻そうとする住民との争いが激化している。
フロリダ州では2024年に、妊娠6週目以降の中絶を禁止する法律が施行された。
しかしこの法律は住民の反発を招いており、大統領選挙と同じ11月5日に、中絶の権利を州憲法で保障するための住民投票が行われる。
住民投票では、州憲法第4条を修正して、胎児が体外で生存できるようになるとされる妊娠24週目頃までの中絶の権利を保障するかどうかを問う。
州政府はこの住民投票をさまざまな形で妨害しようとしており、10月初めには、住民投票への賛同を求めるCMの放送停止を求める要請書を複数のテレビ局に送付した。
放送停止を求めたのは、妊娠中の2020年に脳腫瘍と診断された同州タンパ在住のキャロラインさんが、自身の中絶の経験を語る30秒のテレビCMだ。
キャロラインさんは「私は中絶手術のおかげで生存できたが、現在の状況であれば受けられず助からなかっただろう」として、州憲法修正案への賛同を訴えている。
州保健省がこの放送の停止を求める法的根拠としたのが、通常は浄化槽があふれた際などに適用される「衛生上の迷惑法」だ。
州保健省は「6週目以降の中絶を禁止する法律は、母親の生命と健康に危険が及ぶ場合の例外を認めている。CMには虚偽の情報が含まれていて危険だ」と主張して、この法律を盾にテレビ局に放送禁止を通達し、刑事告訴の可能性も示唆した。
これに対し、第4条修正案の住民投票を呼びかけた「フロリダ住民の自由を守る会」は10月16日、「放送停止命令は政治的な検閲」だとして、州保健省を相手取り訴訟を起こした。
CMに出演したキャロラインさんは「私を黙らせようとする州の試みは、単に残念なだけでなく、人を傷つけるもので、権力の乱用です」と、フロリダ住民の自由を守る会のプレスリリースで述べた。
「私は末期の脳腫瘍と診断されましたが、中絶という選択肢があったおかげで生きながらえ、幼い娘や夫ともっと時間を過ごすことができたのです」
「しかし現在、州の中絶禁止令のせいで、私と同じ状況の女性は家族や医師と相談して自ら医療上の決定をすることができません。残酷で、受け入れ難いことです」
憲法修正案への賛同を求めるキャンペーン「4条にイエスを」のディレクターであるローレン・ブレンゼル氏は、放送禁止の通達について「違憲な政府介入だ」とプレスリリースで批判している。
州の中絶禁止の例外規定は、どの程度危機的な状況であれば中絶を受けられるかは具体的に示されておらず、キャロラインさんのようながん患者に例外が適用されるかも不明確だ。
そのため、医師たちが刑事罰を恐れてすぐに中絶ができない状態になっており、出血するなどして、命が危ぶまれる状況に陥る女性が複数出ている。
「フロリダ住民の自由を守る会」が訴訟を起こした直後、連邦地裁は州当局に対し、テレビCM放送中止要請への一時的な差し止め命令を出した。
裁判所は、「フロリダ州に簡潔に伝えるのであれば、これは(表現や報道の自由を定めた)合衆国憲法修正第1条で保障されている。愚か者」と差し止め命令で書いている。
このCM中止要請書の差出人になっていた州保健省の法務顧問は、中止要請の草案などに関わっていないとして辞任を表明した。
ハフポストUS版の記事を翻訳・編集・加筆しました。