女性票を狙うトランプ氏が頻繁にささやくある一言。根底にある考えを知ればひしひしと危険を感じる【米大統領選2024】

投票することで自分を守ろうと思う。

アメリカ大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏が、女性票を集めるために選挙活動である単語を多用している。私は福音主義者であり、福音教会のメンバーだったこともあるのだが、ひしひしと危険を感じ取っている。

 「もう安心してください。我々の国であるアメリカが抱える問題に悩まされることはもうありません。あなたは守られています。私はあなたの守護者です」

民主党と共和党が激戦を繰り広げているペンシルベニア州で先月、選挙集会を開いたトランプ氏の発言だ。

先日、トランプ氏がSNSに目立つように大文字で書いて訴えたことがこだまするようだ。

「過去に類を見ないほどしっかり女性を守ります。女性たちは健康でいることができ、希望を持つことができ、そして安全を守られます」

私は、聖書の教えを重んじるキリスト教の保守派が多く暮らすテキサス州の「バイブルベルト」で育った。そこでは、小売店よりも教会の数が多く、自己紹介ではキリスト教のどの宗派かが重要になる。バプテストもいれば、メソジストもいた。私の家族は保守的なチャーチ・オブ・クライストだった。そこでの暮らしの中でよく耳にしたのが、「守護者」という言葉だ。

白人の福音主義者の中には男女平等を信じる者もいるが、私の教会を含めた大半は相補主義と呼ばれる概念を推し進めていた。相補主義とは、男女にはそれぞれ異なる役割があり、補い合う関係だという考えだ。男性は供給者であり、守護者である。一方、女性は養育者であり、支援者であるとされる。相補主義者たちは聖書がこれらの男女の違いを裏付けていると信じている。

皮肉なことだが、育つ過程で属していた教会の男性に守られていると感じたことはほとんどない。小さいころから、私たち女の子には男性を「罪に陥らせる」力があると言われてきた。意味するところは、若い女性の体は男性を欲情させるということだ。性行為について考えるにはまだ幼い私たちは、それでも責任を持つべきは自分たちなのだと言われた。 

子ども時代に通っていた教会で、友だちの母親が年長者に忠告されたことがあった。友だちの着ている服が「挑発的」で、成長期に変化する体にはふさわしくないということだった。友だちは11歳だった。

その母娘は恥ずかしい思いをし、その子のクローゼットの中は年上の男性の罪と思春期前の友だちの体を分け隔てるかのようなだぼだぼなデニムの服ばかりになった。

性的な目で子どもを見る男性が危険なわけであって、子どもたちに非はない。しかし、先ほどの年長者の言葉は、福音主義者が共有する根底にある考えを裏付けている。

男は何者をもコントロールする力を持っている。自分自身を除いては。 

これはトランプ氏にも当てはまる。アメリカの最高権力者になりたいと競っているトランプ氏もまた、長きにわたって抑制の利かない性行動を繰り返してきた。

芸能情報番組「アクセス・ハリウッド」で司会を務めていたビリー・ブッシュ氏に、嫌がる女性に対して無理やり触ってキスをしたと自慢したことも知られている。「ミス・ティーンUSA」の楽屋に入り、未成年の出場者の半裸姿を見たとも自慢していた。

コラムニストのE.ジーン・キャロル氏に対するトランプ氏の性的暴行は裁判で認められている。別の裁判では、トランプ氏が浮気を隠蔽するために13万ドル(約1950万円)の口止め料を払ったと元ポルノ俳優のストーミー・ダニエルズ氏が証言している。

これを聞いて思い浮かぶ言葉は守護者ではない。捕食者だ。

トランプ氏の着想は聖書から得たものではないが、白人の福音主義者たちはトランプ氏が女性を従属的な存在とする自分たちと同じ考えであるため、喜んでリーダーとして受け入れる。

福音派では、アダムに善悪の知識の木の果実を食べるよう誘惑したとして、神がイブに呪いをかけ、すべての女性を永遠に男性に従属する存在にしたと教えられる。女性の主たる目的は「多くの実を結び、増やすこと」で、地球を子どもでいっぱいにすることになった。男性に与えられた役割はそんな女性たちを支配することだ。

SNSのハイライト映像では、トラッド・ワイフ(伝統的な妻)たちが時代遅れの考えを今風で素晴らしいものに見せている。キリスト教のインフルエンサーたちは女性たちに服従には強さがあると説く。私も娘ができるまでこのメッセージを繰り返し聞かされてきたが、娘にはもっといいものを望む自分に気付いた。

娘が2歳だった2017年、トランプ氏が大統領に就任した。現在10歳だが、トランプ氏がテレビやラジオなどの放送を毒していない世界を知らない。白人の福音主義者たちが両手をあげてトランプ氏を支持し、世論調査で「誠実」で「道徳的に立派」な人だと呼ぶ何年も前から、私たちは白人の福音主義文化について疑問に思うところがあった。

多くのキリスト教仲間とはちがい、私たちはLGBTQ+の権利と尊厳を支持していた。気候変動のことを、私たちが神の創造物であると信じている自然を守る機会と見るのではなく、デマと呼ぶ人たちとも交流した。これらの意見の相違はまだ理解できるものだった。しかし、トランプ氏は違う。

世界では、トランプ氏自身の捕食的な行為は犯罪だと見なされるかもしれない。福音派の友人や家族の間では「ロッカールームでの話」として片付けられていた。

世界では、トランプ氏の目にあまるほど無節操な不貞は批判された。私たちの教会では、聖書に出てくる欠点が多い英雄として知られ、ある女性を自分のものにするためにその夫を死に追いやったダビデ王に例えた。教会の仲間がトランプ氏についてする言い訳はどれも同じだった。守られる対象は男性だけ。男性が侵害する女性はその対象ではない。

私たち夫婦は教会を大事に思っていたが距離を取ることにした。2人ともこの教会でたくさんの時間を礼拝に費やしてきた。しかし、「守る」ということを女性を支配し、危害を加えることを覆い隠すものとして利用するような場所で娘(息子も)を育てたくないと感じた。

アメリカ最大で最も影響力のある福音派の組織である南部バプテスト連盟(SBC)は、政治的に大きな力を持っている。同連盟はルイジアナ州下院議長のマイク・ジョンソン氏など多くの共和党指導者の出身団体なのだ。

SBCの信条を記した「バプテスト信仰と説教」にはこうつづられている。

(夫には)家族を導き、守るために神から与えられた責任がある。

2022年、SBCが700件超の性的虐待の事案を犯罪として通報せずに、隠蔽したことが暴かれた。その際、SBCが「守った」のは権力を握っていた男性だけだったようだ。

ある意味、トランプ氏には感謝している。教会のコミュニティーにどっぷり浸かっていた時には見えなかったものに気づかせてくれたから。トランプ氏はシロアリのように、もうずっと昔から続く福音派の腐敗をむき出しにしてくれた。くん蒸するかは彼ら次第なのだ。

私自身や家族について言うと、女性を守る最善の方法は私たちが自分の体に関して主体性を持ち、自分自身で決定を下すことができるようにすることだと考えている。

トランプ氏のような「保護」はいらないし、欲しくもない。投票することで自分を守ろうと思う。

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筆者のティファニー・トーレス・ウィリアムズ氏は、自身のニュースレター「Project 2025 Takedown」で、キリスト教ナショナリズムと政治の危険な交わりについて書いている。モンタナ州西部に夫、娘、息子と暮らしている。

ハフポストUS版の記事を翻訳しました。

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