公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される自主的な組織「記者クラブ」は現在、全国的に機能し、地方にも取材や報道は行き届いているのかーー。
回答のあった780自治体のうち、「記者クラブ」があると回答したのは約3割。都市部や人口の多い地域が中心だった。またそのうち約4割の自治体が、「5年前と比べて記者が減った」と答えた。
Shireru代表の山田みかんさんは「東京一極集中はヒトやモノ、カネだけでなく『情報』という分野においても起きていると思います。人口減少に伴い、過疎化していく地域があるのは仕方のないことですが、情報格差まで生んではいけないと感じています」と話す。
◆自治体内に「記者クラブ」があると回答したのは約 3 割
調査は5月14日から9月30日に、全国の都道府県と市区町村計1788自治体を対象に、Googleフォームなどで実施し、780自治体から回答を得た(回答率は43.6%)。
調査の背景には、以前は中京テレビで報道などに従事してきた代表の山田さんの経験がある。個人情報に関する「2000個問題」の報道などに携わり、実際に制度が変わった経験を通し、社会課題を世の中に発信し、当事者の実情に合った行政が運営されることに、報道の意義と役割を感じてきた。
一方でウェブが台頭し、現在はメディアでも、PV至上主義をはじめ、人々の関心や注目の度合いなどが経済的価値を持つ「アテンション・エコノミー」の側面が加速しているように感じた。
仮に注目度が高くなかったとしても必要な報道があると感じ、「大手メディアが縮小化している地方などは今、取材が行き届いているのか」という問題意識を抱き、調査を実施した。
調査では、「自治体に記者クラブはあるか」の問いに対し、27.8%にあたる217自治体が「ある」と回答した。
Shireruによると、記者クラブがあると答えた自治体は、比較的都市部にあったり人口が多かったりする傾向があり、「過疎地域や人口が少ない地域には記者クラブがほとんどないことが分かった」と説明する。
「記者クラブに『*常に記者が1人以上』滞在しているか」の問いに「滞在している」と答えたのは、記者クラブがある217自治体のうち55自治体(25.3%)。
その中の多くが、「都道府県庁」や「都道府県庁所在地」で、それ以外にも「鈴鹿サーキット」がある三重県鈴鹿市や、「倉敷美観地区」で有名な岡山県倉敷市、工業都市として全国でも名高い福岡県北九州市などには常に記者が滞在していることが分かった。
Shireruは「『自治体名の公表が不可』であるとの回答が多いため、公表できる自治体が一部に限られますが、政令指定都市に限らず著名な観光都市ならびに経済活動が活発な市区町村の記者クラブには記者が常時滞在していることも分かりました」と分析する。
(*平日 9〜17時に記者が席にいるなど、担当者の印象で回答)
記者の滞在頻度については、記者クラブがある217自治体のうち29自治体(12.4%)が「記者を見かけたことはほとんどない」と回答した。
「月に1日は記者がいる」と答えた26自治体と合わせると55自治体(25.3%)で、4分の1にあたる記者クラブで、記者がほぼいない状態であることが分かった。 一方で、「記者クラブは有事の際など記者がスクラムを組んで取材交渉する場合に効力を発揮する場でもあり、常時記者が滞在する必要はないとも考えられます」と捕捉する。
記者の出入りについて、「5年前と比べて滞在する記者が減った」と答えたのは、217自治体のうちと93自治体(42.8%)。
Shireruは「肌感覚での回答とはいえ、5 年で半数近くの自治体において記者の出入りが減っている現状は、マスコミの情報収集速度が遅くなること、地方の情報が吸い上げられなくなること、すなわち地方の情報発信力の低下を意味しているのではないでしょうか」と問いかける。
受付などの業務のために会計年度職員を配置しているのは、217のうち68自治体(31.3%)。このうち1自治体では「記者を見かけたことがほとんどない」と回答。6自治体は「月に1日」程度しか記者が来ないと答えた。
また、780自治体のうち、9%にあたる71自治体が「プレスリリースを作成していない」と回答。61自治体は、民間のリリース配信サービスを利用しているといい、今回の調査で初めて記者クラブを知ったという回答も1件あった。
◆行政側からも「ジャーナリズムの衰退」に危機感
現状の記者クラブについて、383自治体(49.1%)が何かしらの課題を感じているといった趣旨の回答をした。
特に多かったのが「マスコミの弱体化」を指摘する意見(63自治体)。その理由として「複数エリアの取材を掛け持ちする記者が増え、取材頻度が減った」とする自治体が多く、「マスコミの人手不足」や弱体化による「若手記者のレベルの低下」を指摘する声も寄せられた。
また、「一記者の滞在可能時間は減っており、『行政監視』という意味が薄れているように感じる」「報道機関の人員が不足している。広報担当者と記者が顔を合わせる機会が減り、お互い満足のいく報道にならないことが多いと感じる」など、ジャーナリズムの質の低下を憂う意見もあった。
山田さんは調査結果について、「肌感覚の回答ではあるものの、実際に約4割の自治体の職員さんが、取材が減っているように感じているというのは衝撃を受けました」と受け止める。
また、「マスコミに対して、自治体のPRだけでなく、行政の監視や地域経済を盛り上げることを期待している声もあり、メディアの弱体化に危機感を抱いているのは記者側だけでないことがわかったのが大きな収穫でした」とし、「行政の情報がもっと世の中に流通するような仕組みを作っていきたい」と話している。