2024年のノーベル文学賞に、韓国の作家ハン・ガンさんが選ばれた。韓国人の文学賞の受賞は初めてで、アジアの女性としても初となる。
スウェーデン・アカデミーが「歴史的トラウマに立ち向かい、人間の命の脆さを浮き彫りにした」などと評したハン・ガンさんとはどんな人物なのか。
光州事件や4・3事件を題材に
ハン・ガンさんは1970年に韓国の光州市で生まれ、9歳の時に家族とともに首都ソウルに移住した。延世大学で文学を学び、1993年に詩人としてキャリアを始め、その翌年に、短編小説「赤い碇」が新聞に掲載され、作家としてデビューした。
2002~05年に発表した「菜食主義者」では、肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく女性を描いた。同作で、韓国で最も権威ある文学賞とされるイ・サン文学賞を受賞したほか、16年には英語版がイギリスのブッカー賞に選ばれ、国際的にも注目を集めた。
韓国現代史に残る虐殺事件など、歴史的な事件をモチーフとする作風でも知られている。
「少年が来る」(2014年)では、故郷である光州市で1980年5月に起きた民主化抗争「光州事件」を題材にした。民主化を求める市民や学生らを軍部が武力で制圧し、160人以上が死亡したとされる事件で、ハン・ガンさんは、事件が起きる数カ月前にソウルに引っ越していたという。「少年が来る」で、犠牲者や生存者、その家族たちを描いた。
また、「別れを告げない」(2021年)では、1948年4月に南北分断に反対し蜂起した済州島民らが軍や警察に虐殺された「4・3事件」をもとにした。
歴史の風化に抗うハン・ガンさんの作品は韓国国内でも高く評価されている。著名人にも愛読者が多く、ノーベル文学賞の受賞が発表されると、BTSのメンバーのRMさんやVさんもSNSで反応した。
一方で、保守系のパク・クネ元政権時には、政権に批判的な芸術家として「ブラックリスト」に名前が記載されていたことでも知られている。
日本でも多くの作品が翻訳されており、日本での韓国文学の人気を牽引してきた作家でもある。
スウェーデン・アカデミーは、選考理由について、「作品において、歴史のトラウマや、目には見えない一連の縛りと向き合い、人間の命のもろさを浮き彫りにしている」と説明。「彼女は肉体と精神、生きる者と死者のつながりに対し、独自の意識を持ち、詩的で実験的な文体で、現代の散文における革新者となった」と評した。
ノーベル賞の公式SNSに投稿された電話インタビューで、ハン・ガンさんは「私は韓国で本とともに育ちました。韓国文学や読者、私の友人や作家仲間にとってこれが良いニュースであることを願っています」と話した。