「子どもが生まれない」は「社会に不具合がある印」。少子化打破のカギは長時間労働の解消、首相補佐官も意見

「フランスに学ぶ!少子化を打破するための労働政策」が開かれました。長時間労働を減らすにはどうしたらいいのでしょうか。【ネットスラング「子持ち様」】
国会議事堂と参議院議員会館
国会議事堂と参議院議員会館
時事通信社

「フランスに学ぶ!少子化を打破するための労働政策」と銘打ったイベントが10月9日、東京都千代田区の参議院議員会館で開かれた。

少子化の原因として、「長時間労働」が大きな影響を及ぼしているというデータや意見が交わされたほか、ハフポスト日本版のキャンペーン報道「ネットスラング『子持ち様』」問題の解決策も示された。

少子化対策「男性の労働時間を2時間減らす」

会場には、「フランスは少子化をどう克服したか」の著者でフランス在住のライター・高崎順子さん、コンサルティング会社「ワーク・ライフバランス」社長の小室淑恵さん、時事YouTuberで「笑下村塾」代表のたかまつななさん、「みらい子育て全国ネットワーク」代表の天野妙さんらが出席。

冒頭、オンラインで参加した京都大学大学院の柴田悠教授(社会学)が「今後10年間の少子化対策で非常に重要なのは、DXや働き方改革でとりわけ正規雇用男性の労働時間を減らしていくこと」と説明した。

主要先進国の中で日本の男性の労働時間は最も長く、フルタイム勤務男性の平日1日あたりの平均労働時間は「9.7時間」。一方、フランスは「7.9時間」で、「先進的な取り組みをしている国とは2時間の差がある。この2時間を埋めることが重要」と提言した。

柴田教授は、日本の「労働生産性(雇用者1人あたりGDP)」が主要先進国の中で最低レベルという現状も紹介。1970年代、先進国諸国は生産性が低く労働時間が長かったが、DX化で生産性を上げてきたという。

その上で、「日本も男性の労働時間を2時間減らすと1人当たりのGDPが上がっていく。生産性を上げて労働時間を短くし、プライベートの時間を持てるようにして、結婚や子育てをしやすい社会にしていくべき」と語った。

また、2035年までの10年間で正規雇用の男性の平均労働時間を平日1日2時間短縮できれば、1人あたりGDPの最大化だけではなく、出生率が0.35ポイント上昇して「希望出生率1.6」が実現できるとも述べた。

日本とフランスの違いは?

男性の長時間労働は生産性の低迷や女性の家事負担の増大を招き、それが非婚化、少子化につながっていく。

続いて、一度落ちた合計特殊出生率が一時回復し、現在も先進国の中では高水準のフランスの事例を高崎さんが紹介した。

高崎さんはまず、「私もフランスの合計特殊出生率が2.0以上あったときに子どもを産んで育てており、日本と比べて子どもを産みたいと思いやすい、育てるときに不安が少ないなと思った」と実感を語った。

日本の少子化要因として指摘されている「男性稼ぎ主モデルの長時間労働」については、「フランスでは親たちに時間がある。午後6時半には家に帰って子どもを迎えに行き、午後7時にお風呂に入れてご飯を食べるということが、父親にも母親にも可能な働き方をしている」と違いを述べた。

フランスの男性の労働時間は、子どもの有無にかかわらず週40時間(1日8時間)ほどで、労働時間が長くならないよう「勤務間インターバル」が導入されているという。

それでも家に帰って勤務を継続する人がおり、バーンアウト(燃え尽き症候群)が社会問題になったため、業務時間外の「つながらない権利」が2017年に導入され、長時間労働の抑止力になっていることも紹介した。

また、日本の長時間労働は「残業しないと生活できない」という問題があるが、フランスでは正規雇用が原則であるほか、基本給が十分に設定されていたり、子育て世帯の可処分所得を減らさない税制度もあるという。

育児の家族負担を軽減する努力が行われており、「さまざまな給付の仕組みがあるため、生活費に困るから残業をしないといけないという考え方が強くない」と語った。

このほか、義務教育(3歳の保育学校〜18歳の高校・職業訓練)や公立大学・医学校の授業料など、フランスでは公教育の学費が原則無料になっていることも伝えた。

高崎さんは、フランスでは「子どものために親が家に帰れるようにする」「子どもが生まれないのは『社会に不具合がある印』」という意識があるとし、「親たちが早く帰る、休みを取れるということも、社会が保障すべきものだと皆が理解している」と述べた。

イベントには大勢の人が集まった
イベントには大勢の人が集まった
Keita Aimoto

延長保育で可決する形で長時間労働

小室さんは、「日本は長時間労働に女性を合わせた」という問題について解説した。

企業に忖度した結果、「延長保育で解決する形で長時間労働できる女性をつくった」とし、「男女ともに辛い社会になった」と語った。

特に女性は、どんなに意欲を持って時間内で仕事をしても「長時間労働ができない見劣りする存在」として評価されず、活躍できなくなったと述べた。

また、日本の時間外労働(平日)の割増賃金率は1.25倍だが、フランスやアメリカ、ドイツ、イギリスは1.5倍だと説明。「勤務間インターバル制度」も日本では努力義務にとどまることを紹介した。

その上で、「育児世代と子どもは『長時間労働社会のまま女性活躍は地獄』と思い、男性も『長時間労働社会のまま育児参画するのは『無理ゲー』では』と感じてしまう。だから少子化は加速する」と見解を語った。

今回の自民党総裁選では、いくつかの候補が時間外労働の上限緩和について触れた。

小室さんは「時間外労働の上限緩和が本当に人手不足の解消になるかということを考えなければならない」とし、「自分の意思だけで時間を使えて残業できる人は1%ほどしかいない。焼け石に水もいいところで、これでは経済成長は望めない」と述べた。

また、日本の時間外労働(平日)の割増賃金率が1.25倍であると、「経営者は雇用をぎりぎりの数に抑えて残業でまかなおうとする」といい、「その結果、業務のしわ寄せが生まれ、『あの人は休めていいよね』と職場がいがみ合うようになる」と、「ネットスラング『子持ち様』」問題についても言及した。

このほか、たかまつさんが「子どもを持つか仕事を選ぶかということを迫られているように感じている。これは私の周りの女性たちもそうで、両方とって当然だよね、という社会ではないことが非常に問題だと思う」と語った。

人手不足と言われているが、「本当は働きたい。子育てと両立したい。そういう声が『永田町』に届いていない」とも指摘。

長時間労働の弊害として、日本では保育園に預ける時間が長く、子どもの休む権利などが守られていないとして、「働き方改革に力を入れなければ、ますます少子化は進んでしまう」と話した。

矢田稚子・内閣総理大臣補佐官も登場 

イベントの最中には、予定になかった矢田稚子・内閣総理大臣補佐官がマイクを持つ場面もあった。

矢田補佐官は、「女性の賃金をまず上げなくてはならないと言ってきたが、一番の課題はやはり長時間労働。家事も育児も仕事もして、日本の女性の睡眠時間は最も短い。そんな中『活躍してください』と呼びかけても無理で、今より短時間で働くことができればもっと活躍できる」と語った。

また、日本の大卒女性の36%が年収200万円未満であることを紹介。400万円未満は60%を超えるとし、「学んできたことをいかしきれていない。男性と大きな差が出ている」と指摘した。

そして、「長時間労働については総理にしっかり伝えていきたい。勤務間インターバル制度も努力義務となって5年たつが、導入した企業はたったの6%。とにかく義務化しないとだめで、一生懸命総理に伝えていきたいと思う」と決意を述べた。

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