トランプ氏の「移民が猫や犬を食べている」という根拠ない情報。ガチョウの卵を公園から盗んだことがある移民の私が伝えたいこと【米大統領選2024】

自分の恥なので言いたくないが、思い切って書いてみることにする。実は、フェイクニュースの部分に共感するところがある。

アメリカ・オハイオ州のスプリングフィールドで、ハイチ出身の移民たちが猫や犬やアヒルなど自分のものではない動物を食べているというニュースへの反応が、さまざまに割れている。見解の分かれっぷりは、まるでアメリカという国そのものを表しているかのようだ。

私自身の家庭について話すと、私は民主党、夫は共和党と支持する政党が異なる。スプリングフィールドのニュースをどう見ているかは、ほぼそれぞれの党の路線と一致する。

夫は今回の話のいくつかは事実に基づいていると思っている。一方で私は、中西部の町で起きている移民と動物にまつわることにアメリカ中が取りつかれている様を見て、昔からあるゼノフォビア(外国人嫌悪)を反映していると思っている。

スプリングフィールドのニュースに対する反応として、耳にしていないことが1つある。自分の恥なので言いたくないが、思い切って書いてみることにする。実は、フェイクニュースの部分に共感するところがあるのだ。
スプリングフィールドは出身地でもなければ、訪れたこともない。現地で何が起きているかについて知っていることといえば、アップルニュースから得られる情報と同じような内容だ。
これらの情報源によると、ドナルド・トランプ氏やJ.D.ヴァンス氏、その他の共和党員たちが言っているような動物が不当に食べられているということは起きていない。
しかし、中国からの移民1世であり、真剣に考えることに楽しさを感じる社会学者タイプでもある私は、こう考えてみてしまう。もし仮に、十分な知識を持ち合わせてない、あるいは空腹のあまり見境がなくなった人が、例えば池にいたアヒルを食べたとする。その行為は、その人自身の性格というよりも、どちらかというと置かれた環境を物語っているのではないか。
もうずっと昔、まだアメリカに来たばかりのころ、この広大な国のとある小さな町に住んでいた。当時、公園の鳥の巣から卵を盗んだことがある。子ども時代にいたずらで盗んだことがある人もいるかもしれないが、私の場合はいたずらではなかった。目的は一つ。食べるためだった。アジアの人や食通が言うように、名前に「鶏」と付かない鳥の卵は飛び抜けておいしく、そして高価なのだ。黄身は濃い黄色をしていて、コクがある。一度この味を覚えてしまうと、安価な鶏卵がチョークボールのように感じられるほどだ。
両親と私は塩漬けにしたガチョウの卵を贅沢品として味わい、生きながらえた。当時、ポスドク1人の給料で家族3人が暮らしていた。
数十年が経ち、どんな手順で盗んでいたか記憶がおぼろげになってしまっているところがあるが、同じくアメリカに来たばかりだった両親も一緒に公園から卵を盗んでいた。小柄ですばしっこかった私が茂みの中の巣から卵を取る役割だったのか、あるいは父が大人で男性だということから激怒する野生動物の危険に立ち向かう勇気があったのか、はっきりと思い出せない。ある日、茂みから現れた2羽のガチョウにものすごい勢いで追いかけられ、止めてあった車まで家族みんなで走って逃げたことははっきり覚えている。
この30年余、ガチョウの卵を盗んだことなど思い出すことはなかった。トランプ氏とヴァンス氏の発言が、一連の爆破予告や反移民ヘイトの急増を引き起こしたことで、自分の過去がよみがえったのだった。
今回の件において問題なのは、大統領や副大統領の候補者が偽のうわさを言い続け、1つの町を、そして移民の人たちを痛烈な非難の対象におとしめたことだけではない。誰かが実際に公園から野生動物を盗んだとして、ごく一部の人たちの行為がその他大勢の罪のない人々への批判に使われたことも問題なのだ。
私たち心理学者は長らく「根本的な帰属の誤り」に警鐘を鳴らしてきた。人の行動を説明するときに、その人の置かれた環境が影響しているというよりも、その人の生まれ持った性格のせいだと考えることだ。 
例えば、誰かが公園にいる動物や卵を持ち帰るところを目撃したとする。悪いやつらだと決めつけることもできるし、その人たちの置かれた状況を見ればどうしてそんな行動を取ったか説明できると考えることもできる。公園から勝手に物を持ち帰るのが違法だと知らなかったのかもしれない。空腹の家族を食べさせるために、許されないことだとわかっていても盗みを働くほど切羽詰まっていたのかもしれない。
似たものに「究極的な帰属の誤り」というものがある。自分とはちがうグループに属する人が起こす行動について、環境要因というよりは生まれ持った気質や遺伝によるものと考えることだ。そして、その人物が属するグループ全体をその個人と同じだとみなす。結果として、自分が属していないグループに対する他者化や偏見が強まることになる。
人間性というものをどれほど悲観しているかにもよるが、良い知らせとしては(あるいは逆かもしれないが)、上で述べたような判断バイアスは政治団体の枠を超えるという点だ。前回の大統領選挙後の余波を見てもわかるように、誰にでも起こりうることなのだ。
私たちには知恵も知識もあるわけなので、(願わくば)自分たちの間違いに気づけるといいなと思う。上記の心理的な誤りがどんなふうに作用するかを認識しさえすれば、誤解を避けることができ、ここ数週間に見られているような頑固な偏見をもとに判断することをやめられるだろう。
トランプ氏らがスプリングフィールドに住む移民たちに対する根拠のない非難を始めてから、その考えがどんなに危ういことか私たちは直接垣間見ることができた。
スプリングフィールドの動物が危険に脅かされているとは私は思わないが、実際にそのような(動物を食べる)事案が起きてSNSや政治を飲み込んだとしても、それによって私たちが移民にどういう感情を持つかが影響されるべきではないし、ようやくアメリカを「自分の国」と呼べるようになった人たちへの接し方だって影響されるべきではない。
少数派の人たちを傷つけるのではなく、その人たちを手助けすべきなのだ。そして、個人の行いによって、そのグループ全体もそうなんだと見なしてはいけない。今日のアメリカは、人種差別的なうそに苦しめられている移民たちよりも野生動物の方が生きやすそうだとさえ思えてしまう。
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筆者のChristine Ma-Kellams氏は文化心理学の専門家であり、大学の教授でもある。ライターとしても活躍しており、The Wall Street JournaやChicago Tribune、Business Insiderなどに記事が掲載されている。
ハフポストUS版の記事を翻訳しました。
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