虐待する夫から逃れられたのは、離婚しやすかったから。共和党の保守派はそれを無くそうとしている

元夫は私に「俺がいなければ、お前はやっていけない」と言った。しかしどうだろう?私は今、自分の人生を生きている
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Kinga Krzeminska via Getty Images

離婚する日の朝、夫は全く動じていなかった。

いつもの高圧的な態度で――彼は自分の欲しいものを手に入れるためにいかなる手段も使おうとしたので私は「蒸気ローラー」と呼んでいた――家庭裁判所のドアに向かう私に向かっててこう言った。 

「こんなことをする必要はないよ、ハニー」

まるでロマンティック・コメディの愛を伝えるシーンのようだったけれど、私はもう騙されなかった。

「やらなきゃいけないし、やります」

私は冷たく返事をしてそのまま家庭裁判所の中に入り、離婚の手続きを終了させた。

なぜ彼に、やり直すチャンスをあげなかったのかと思う人もいるかもしれない。

しかし私は何度もやり直すチャンスをあげていた。関係を終わらせるまでに虐待の被害者が別れを試みる回数は平均7回と言われている。

しかし支配欲に固執する加害者は、逃げようとする被害者をありとあらゆる手段を使って引き戻そうとする。それは「虐待のサイクル」の一部で、経験した身から言えば、本当に説得力のある方法で引き留めようとする。

元夫は私を高級ホテルに誘い、自分がどう変わるかをつづった10ページの紙を手渡した。夫婦で新しいカウンセラー(4人目)のところに行こうと懇願されたこともある。

夫婦の共同口座から預金を全額引き出し、私から金銭的な自由を奪った時のことは一生忘れられない。

証拠となる明細を印刷してくれた銀行の窓口担当者に、「申し訳ありませんが、残高はゼロです」と言われた時、目の前がぐるぐる回り、倒れそうになった。

私はセラピストから早く別れるよう促され、カウンセラーは規則を破って「これ以上一緒にいてはいけない」と警告してくれた。私を地元の女性保護シェルターに向かわせた離婚弁護士もいる。

しかし加害者から逃れるためには、お金や住む場所、子どもの安全の保障、支援ネットワークなどの資金や援助が必要だ。

私は食料品を買うための現金を少しずつ貯めて、資金を蓄えるしかなかった。

それでも幸運なことに、私には結婚生活を終える選択肢があった。

アメリカでは1969年に、カリフォルニア州で初めて、双方の過ちや不正行為を問わずに離婚ができる「無過失離婚」を認める法律が導入された。それまでは、配偶者の「過失」を証明しない限り、離婚は認められなかった。

他の州もカリフォルニアに続き、2010年にはニューヨークが最後に導入した州になった。

無過失離婚を認める法律のおかげで、私は配偶者の浮気や薬物・アルコール乱用、結婚生活の放棄、耐え難い虐待、精神疾患、収監などを証明しなくても、離婚ができた。

この法律がなければ、さらに多くの女性が、私と同じように家庭内の地獄に閉じ込められていただろう。

近年、「家族重視」を自称する保守派の間で、無過失離婚を廃止しようという動きが広がっている。

共和党副大統領候補のJ.D.ヴァンス氏は、「人々はまるで下着を替えるように配偶者を取り替えることに慣れてしまい、子どもたちの不幸を生んでいる」と2022年に発言した(ただ、ヴァンス氏は無過失離婚を廃止する法案は提出していない)。

共和党のマイク・ジョンソン下院議長は、過去に無過失離婚を「陰謀」であり、アメリカ社会に「完全に道徳を失わせた」原因だと非難し、2016年には無過失離婚が宗教的基盤を揺るがしていると発言している。

2023年には、ルイジアナ州の保守派非営利団体「ルイジアナ・ファミリー・フォーラム」が、無過失離婚を撤廃する州の共和党議員の決議への支持を表明した。

牧師でオクラホマ州上院議員のダスティ・ディーヴァーズは2024年、無過失離婚を廃止する法案を提出した。ネブラスカ州やテキサス州でも、共和党が無過失離婚法を廃止するよう求めている。

この動きを支持する男性の権利団体である「ナショナル・センター・フォー・メン」は、「無過失離婚は主に男性にとっての災難だ。離婚の大半は女性から申し立てるからだ」とウェブサイトに記載している。

確かに離婚の69%は女性から求めており、離婚した人の24%が家庭内暴力(DV)を理由に挙げている。

私は今、離婚アドバイザーとして、虐待を受けた女性たちの避難を助けている。その立場から、無過失離婚の廃止は危険で無責任だと言える。

女性が離婚の権利を「証明」するためには、多くの障害を乗り越えなければならない。「虐待者が好き放題やれる場所」とも揶揄される家庭裁判所での離婚手続きをさらに悪化させるだろう。

誰かを支配しようとする人は戦略的だ。法制度さえも利用して配偶者に経済的、肉体的、精神的にダメージを与えようとする。

「過失」の証明は非常に困難であるだけでなく、時間がかかり、費用がかさみ、ストレスと対立にあふれている。

加害者の多くは非常に巧妙で、別の携帯電話や隠し口座を持っている場合もある。被害者に罪を着せようとする行為は珍しくない上、警察に連絡して「パートナーが自分を攻撃した」と主張することさえある。彼らはとにかく「否定する」のが得意なのだ。

「過失」の証明はすべての被害者にとって困難な闘いだ。加害者が経済的に優位な場合は特にそう言える。

DVを終わらせる活動をしている「サバイバー・ジャスティス・アクション」の会長で、元全米家庭内暴力反対連合CEOのルース・グレン氏は、「政府は、被害者やサバイバーが虐待されずに生活をするためのありとあらゆる支援をすべきです。さらなる壁を作って、被害者と家族をより大きなリスクにさらすべきではない」と述べている。

「無過失離婚を廃止することは、虐待者にさらなる力を与え、パートナーへの支配や虐待、嫌がらせを続けるための手段を提供するだけです」

私は仕事で、何百人もの女性がこのような状況に置かれてきたことを見聞きしてきた。

シンディ(仮名)は、「元夫は私を殺すと脅し、子どもたちの前で私をベッドに押し倒しました。通報しようとすると『警察に電話すればいい。お前の言うことを本当に信じると思うか?』と言いました」と私に話してくれた。

彼女は、離婚するのに3年以上かかった。金銭管理はすべて夫がやっていたが、これは珍しいことではない。経済面での虐待は、相手を支配するための重要な手段なのだ。

無過失離婚の廃止は、女性の被害者だけでなく、子どもたちにも壊滅的な結果をもたらす。

シンディは「夫は児童虐待で4回刑事告発され、接近禁止命令にも違反していましたが、裁判官や専門家たちは50/50の共同親権にすべきだと主張しました。無過失離婚がなければ、事態はさらに悪化していたでしょう」とも語った。

シンディは、離婚できないことは加害者はさらに力を与えることになると考えている。

無過失離婚が被害者を救うことは、研究からも明らかになっている。

ミシガン大学の公共政策と経済学の教授であるジャスティン・ウォルファーズは、「離婚を制限すると、さまざまな悪影響が生じるだろう」と述べている。

ウォルファーズとミシガン大学経済学教授でバラク・オバマ元大統領の主任経済顧問だったベッツィ・スティーブンソンが2003年に行った研究では、離婚しやすくなる法改正で、女性に対する家庭内暴力、女性の自殺、配偶者による殺人が減少していた。

ウォルファーズは「虐待する夫との完全な合意なしに離婚できなければ、妻は永遠に閉じ込められることになる」と述べている。

しかし、一部の保守派は、それを望んでいるようだ。

スティーブン・クラウダーやマット・ウォルシュのような右派の政治評論家は、無過失離婚に声高に反対してきた。

クラウダーは、自身が妻に向かって「規律を守れ」などと暴言を吐く動画が拡散した後、ポッドキャストで「私はどんどん悲惨になっていく離婚を経験してきた……私が決めたことではない。結婚を続けるのを望まなかったのは元妻だ。テキサス州がそれを完全に許しているのだ」と述べた。

しかし私の考えは違う。無過失離婚が奪われないことを願っている。離婚できることは人権だと信じている。

独身生活を楽しんでいる筆者。ニューヨークで撮影。
独身生活を楽しんでいる筆者。ニューヨークで撮影。
Photo Courtesy Of Amy Polacko

元夫は私に「俺がいなければ、お前はやっていけない」と言っていた。シングルマザーでは生きていくことができないだろうと告げた。

しかしどうだろう?私は今、自分の人生を生き、アメリカ各地に住む女性(時には男性も)たちに、自分と同じような状況から逃げ出す方法や、家庭裁判所での調停にどう対応すればいいかを教えている。

私が助けている人たちの人種や経済状態、住む場所はさまざまだ。それは家庭内暴力が誰にでも起こりうるからだ。

これを読んでいるあなたが、どうか私と同じ経験をしませんように。だけどもしそうなった時、あなたにも裁判所に行き、自由を手にする権利があることを知っていてほしい。

筆者:エイミー・ポラッコ。コネチカット州に住む離婚アドバイザーでジャーナリスト、シングルマザー。クリスティーン・M・コッキオラ博士との共著『FRAMED: Women in the Family Court Underworld』には、離婚や親権問題を抱えた22人のDV被害者のストーリーが紹介されている

ハフポストUS版の寄稿を翻訳しました。

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