孫を世話する祖父母に「子守り代」を払うべき?孫のために「有給育児休暇」がとれる国も

保育サービス費用が高いアメリカでは、多くの人がこの問題に直面している一方、スウェーデンでは先進的に取り組みが導入されている
祖父母に孫の子守りを頼むとき、お金を支払うべきなのか
祖父母に孫の子守りを頼むとき、お金を支払うべきなのか
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祖父母に孫の子守りを頼むとき、お金は支払うべきかーー。

共働き家庭が増え、子どもの世話を祖父母に手伝ってもらっている家庭も多い。世話による「孫疲れ」「孫ブルー」などの言葉が生まれ、ネット上では、祖父母に「子守り代」を払うべきかどうかの議論がたびたび繰り広げられている。

それは日本に限ったことではない。特に保育サービス費用が高いアメリカでは、多くの人々がこの問題に直面しているようだ。

アメリカ・オハイオ州に住むパム・バーンズさんには3歳の孫がいる。娘夫婦に代わり、週4日面倒を見ている。子守りは1日10時間に及ぶ。バーンズさんは孫の人生に関われることを嬉しく思っているが、フルタイムで子守りをするには代償が伴う。

バーンズさんは孫の世話のために、「給料のいい」オフィスマネージャーの仕事を辞めざるをえなかった。娘夫婦はバーンズさんが無料で子守りを引き受けられないと分かっており、1日50ドル支払うことに合意したという。

家族に報酬について話すのは「少し気まずかった」というが、バーンズさんはこのお金を「私がキャリアを犠牲にしたことへの感謝の印」だと捉えているという。

「他の給料の代わりにしたいわけではありませんが、何かあったときの備えが必要でした」とバーンズさんは言う。

「ときどき孫をどこかに連れて行ったり、昼食を一緒に外で食べることもあるので、その際にそのお金を使っています」と続けた。

「娘夫婦を騙したり、多めにお金をもらったりはしたくありませんでした。でも、子どもを持ち、育てるということは出費が伴うのだと理解して欲しかったんです」

「自分の両親であれ、友人であれ、手助けをしてくれると言われても、タダでやってもらおうと思ってはいけません」

しかしアメリカでは多くの人が、祖父母はいつでも、いかなる状況でも、ボランティアで孫の面倒を見るべきだという期待を抱いている。

オレゴン州に住む、元人事専門家のジャニス・ボウルビーさんは、「義理の娘が彼女の友人に、子守り代を祖母である私に払っていると話したんです。するとその友人は、祖母がお金を受け取るなんて信じられないと言ったんです。とても傷つきました」と話した。

ボウルビーさんは、孫2人が学校に通い始め、フルタイムでの世話が不要になるまで、週75ドルで子守りを引き受けていた。昼食は用意されており、近所に住んでいたためガソリン代もかからなかったが、夫に先立たれたボウルビーさんにとって報酬があるかないかでは全然ちがった。

祖父母に孫の子守りを頼むとき、お金は支払うべきかーー。

長年論争の的になっているこの質問は、アメリカの多くの家族にとって、文化的にも金銭的にも痛いところを突いている。

ハフポストUS版が読者に「祖父母が孫の子守りをすることに対して報酬を支払うべきか」を調査したところ、ある祖父母は「私にとっての報酬は、孫たちからのハグやキスです」と答えた。別の読者は、「祖父母にとって孫は宝で喜びであり、仕事ではないはず」と述べ、祖父母に報酬を支払うという考え方は「失礼でおかしなこと」だと答えた。

この不満の正体はいったい何なのかーー。それは「もし祖父母が、本当に孫や子どもたちのことを思うなら、孫を預かるのにお金は取らないはず」という固定観念だ。

もし祖父母が子守りしたくなかったら?

祖父母に孫を見る余裕がなかったり、無料で子守りをしたくなかったりしたらどうだろう。

ボウルビーさんは、孫を愛しているから報酬を受け取らないという祖父母を称賛する人々に腹が立つという。

「子守りへの対価を払うお金がないと言われても、もちろん子守りを引き受けたでしょう。子どもと孫を愛しているから。でも、息子夫婦には支払う余裕があり、当時は子守り代にとても助けられました」と加えた。

 自らも孫がおり、親と成人した子どもの繊細な関係についての著書を出版しているジェーン・アイセイ氏は、「大人になっても、親が断るとすぐ、『私のことを愛してないんだ』と思う子どもたちはたくさんいます」と話す。

保育施設の高額費用

アメリカの多くの親が、自分の親に子守りを頼む大きな理由の1つは、保育施設の費用が高額で、多くの人にとっては手の届かないものだからだ。

アメリカの47州2360郡を調査した労働省の2023年の報告書によると、1人の子どもの2022年の年間保育料の相場は、小さな街では5357ドル(約78万円)、大都市では1万7000ドル(約248万円)以上になるという。

この相場は、アメリカの家庭収入の中央値の最大19.3%を占めることとなり、「保育の種類、年齢層、郡の人口規模を問わず、保育費が家庭にとって維持できない理由となっている」報告書は指摘している。

共和党副大統領候補のヴァンス氏は9月、保育費を下げる解決策の一つは「祖父母にある」と示唆。「保育費に高額を支払っている人たちのプレッシャーを少しでも和らげる方法の1つは、おばあちゃんやおじいちゃんがもう少し手助けすることかもしれない」述べた

しかしアリゾナ州ツーソンに住むオードリー・ヴァンシオックさんは、「祖父母も含め、今はみんな家計が苦しいのです。祖父母は孫の子守り代を貰いたくないかもしれませんが、受け取るべきです」と話した。

スウェーデンでは

もしこうしたアメリカの家族がスウェーデンに住んでいたら、このような議論をする必要はないだろう。祖父母に報酬を支払うかを決めるのは、家族ではなく、政府の方針だからだ。

スウェーデンの先駆的な法律では、祖父母は孫の世話をすることで報酬を得ることができる。

スウェーデンでは7月から、孫が生まれてから1年間の間、祖父母が最大3カ月の有給の育児休暇を取得できるようになった。

新法の下では、子どもの両親は手厚い国の有給育休制度から、最大45日間(片親の場合は90日間)を祖父母に譲渡することができる。

スウェーデンの高齢者・社会保険担当大臣であるアンナ・テンイェ氏はハフポストUS版に対し、この新たな法律は、シングルマザーや複数の大人が育児に関わる家庭に恩恵をもたらすと語った。

祖父母に有給育児休暇を移行できるようになったことで、「幼い子どもを持つ親が、より柔軟性を必要とする時期に、仕事と家庭を両立できる可能性が高まる」と述べた。

世界でも数少ない、国から与えられる法定有給休暇が設定されていないアメリカで、このようなことが実現可能だろうか?

ボール州立大学の社会学教授で育児休暇の専門家であるリチャード・ペッツ氏は、「しばらくは無理だろう」と話す。

アメリカでは「保育のインフラはかなり貧弱で、補助金もほぼありません。家族は公共の政策ではなく自分たちでそれに対応するよう強いられています」と述べる。

スウェーデンの有給モデルを採用するには、アメリカが育児や介護にもっと価値を置く必要があると言う。

スウェーデンの祖父母の有給は、アメリカにとってはまだ遠い夢物語ではある。しかしこうした法律は、祖父母に子守り費用を支払うことへの批判を退ける助けになる。

「介護労働の価値を認める政策は、こうした労働に対するさまざまな報酬形態への偏見をなくすのに役立つはずです」とペッツ氏は述べる。

アメリカの祖父母は、このアイデアを歓迎するだろう。

ボウルビーさんは「スウェーデンはよく理解しているのでしょう」と話す。

「ちょっとした臨時収入を得ながら子どもからの要望を満たす機会を与えてくれる、素晴らしい方法だと思います」

気まずくならずに祖父母に報酬の話を切り出すには?

アメリカ全体で変化が起こるまで、祖父母に子守り費用を支払うかどうかという会話は、家族にとって繊細な話題であり続けるだろう。しかし、お互いが思い込みをひとまず保留すれば、激しい議論になる必要はない。

アイセイ氏は「これは怒りに任せて決めることではありません。双方がエゴを手放すことが必要なのです」と話す。祖父母が報酬を要求するのは「孫や子への愛情が足りない」という有害で一方的な考えを捨てることだ。

「私の感覚では、孫の世話をするのは無償でも有償でも、いずれも愛情からくるものです」とボウルビーさんは話す。

代わりに報酬が何の助けになるのかを祖父母が明確に提示することにより、子どもはその奉仕に感謝する方法を積極的に提案することができる。

「報酬を求めるのは『愛していない証拠』ではありません。どうすればお互いが孫と愛、そして犠牲をより容易な方法で分かち合えるのか、ということが重要なのです」とアイセイ氏は語る。

祖父母にいくら支払うかは、地域の保育料が参考になる。ボウルビーさんは、「子どもに、地域の保育施設の料金を調べるよう伝え、その金額の3分の1を請求する、と伝えました」という。

報酬は定期的な金銭の支払いでなくても意味がある。今でも1番下の孫を車で送迎しているというボウルビーさんは、家族からお礼として、クルーズ旅行で使える500ドルをサプライズプレゼントしてもらったという。

「彼らは今でも常に、どれだけ私を必要とし、感謝しているかを伝えてくれます」と話した。

もし祖父母に報酬を支払いたいなら、それが彼らのエゴを傷つけないか慎重に判断すべきだ。お金を受け取ってもらいたいなら、敬意を払う必要がある。

「祖父母は歳をとるにつれ、ポタッ、ポタッと穴から水が滴り落ちるように権威が少しずつ減っていきます。孫の面倒を見るために子どもからお金を受け取ることは、その権威を傷つけることになりかねません」とアイセイ氏は話す。

両親も祖父母も、子守りに対する報酬について、他人の意見に耳を貸さない方が賢明だ。祖父母が子守りをすることを「当たり前」と捉えている人も多く、それが報酬を払うことへの偏見の一因となっている。

孫の子守りを頼む側の親は、双方の明確な合意がない限り、祖父母を無料の子守り役としていつでも利用できると考えることは現実的ではないと覚えておくべきだ。

「歳をとり仕事をしていなくても、自分たちの生活があります。だから『やってもらえる?』『お願いできる?』という確認があって当然なのです」とアイセイ氏は話す。

最も重要なのは、会話をすること

バーンズさんは退職前、約1年かけて娘と「子守り」の役割について話し合った。それが現実となった今、バーンズさんはときどき、自分が孫の「しつけ役」ではなくただの「おばあちゃん」でいたいと思うこともある。それでも、楽しい日が嫌な日を上回るという。

「孫が、『おばあちゃんと一緒にいるの、とっても楽しい」と言ってくれると、『おばあちゃん、今言われたことやりたくない』と言われたことを、忘れさせてくれます」とバーンズさんは話す。

バーンズさんの話でも分かるように、いつ報酬を受け取るかという判断はとても微妙なものだ。バーンズさんは、たまの週末に孫たちの面倒を見るときは、夫と共にただ「おばあちゃん」「おじいちゃん」になって楽しめるため、報酬を求めないと決めたという。

しかし、「子守り」の役割をうまく機能させるため、バーンズさんには「代役」もいるようだ。

「私たちは今年、2週間旅行に行きましたが、娘はその間、私の代わりに孫の面倒を見る人を探さなければなりませんでした。結構大変だったようですが、私にだって人生がありますからね」

ハフポストUS版の記事を翻訳・編集・加筆しました。

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