肌の色や「外国人風」の見た目などを理由に人種差別的で違法な職務質問を繰り返し受けたとして、外国出身の3人が国、東京都、愛知県の三者を相手取り損害賠償などを求めている裁判の第3回口頭弁論が9月19日、東京地裁(岡田幸人裁判長)であった。
原告側は「警察が、人種などによる特徴的な見た目に基づく職務質問を教示・推奨」している証拠として、愛知県警が2009年に作成したとされる内部文書「執務資料 若手警察官のための現場対応必携」を提出している。
この文書では、外国人に対する職務質問に関して、次のように記載していた。
「心構え ☆旅券を見せないだけで逮捕できる! ◎外国人は入管法、薬物事犯、銃刀法等 何でもあり!! ◎応援求め、追及、所持品検査を徹底しよう!!!」
「一見して外国人と判明し、日本語を話さない者は、旅券不携帯、不法在留・不法残留、薬物所持・使用、けん銃・刀剣・ナイフ携帯等 必ず何らかの不法行為があるとの固い信念を持ち、徹底的した(※)追及、所持品検査を行う」(※原文ママ。「徹底した」の誤り)
被告の愛知県はこの文書を「現在は保有していない」と主張。加えて、「人種、肌の色、国籍または民族的出自のみに基づいて職務質問を行うことを記載しているものではなく、職務質問の要件を満たすものとして職務質問を行った場合の対応の心構え等を記載したものと思われる」などと反論した。
また被告側は、原告たちが人種差別だと訴えている個々の職務質問に関して、原告3人のうち2人に対する職務質問の記録はないと主張。
原告の1人で、南太平洋諸島の国で生まれたマシューさんについてのみ、警視庁が取り扱い状況をまとめた報告書を作成していたとして、裁判所に提出した。
警視庁の報告書には、マシューさんに職務質問した理由について警察官が「この付近で外国人が車を運転するのを見かけないため」と本人に伝え、身分証の提示を求めたことが記されていた。
マシューさん以外の原告2人への職務質問に関して、被告の東京都と愛知県は「報告書を作成していない」「特段の記録はない」と説明している。
これを受け、原告代理人の谷口太規弁護士は「警察が職務質問の記録を作っていないというのは、後に検証できないということ。(職務質問が)完全にブラックボックスの中で行われていて、その正当性を後からチェックできないという問題は今後、私たちの主張の中で訴えていきたい」と述べた。
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人種差別的な職務質問、被告の東京都など「不審な動きしていた」と反論【レイシャルプロファイリング訴訟】
警察などの法執行機関が、「人種」や肌の色、民族、国籍、言語、宗教といった特定の属性であることを根拠に、個人を捜査の対象としたり、犯罪に関わったかどうかを判断したりすることは「レイシャルプロファイリング(Racial Profiling)」と呼ばれる。
原告側は、「人種」や「外国人風」の見た目を理由とした職務質問は、法の下の平等(14条1項)や幸福追求権(13条)を保障する憲法に加え、人種差別撤廃条約や自由権規約に違反すると主張。
国などに対して原告一人当たり330万円の損害賠償(弁護士費用30万円を含む)の支払いのほか、レイシャル・プロファイリングによる差別的な職務質問の運用を違法だと認めること、国には差別的な職務質問をしないよう指揮監督する義務があることの確認を求めている。
一方、被告の東京都と愛知県は、原告たちに不審な動きがあったため職務質問したなどとして、違法性はなかったと反論。
国は指揮監督の義務について、「個々の警察官はもとより、都道府県警察に対して、個々の職務質問の職権行使の適否について指揮監督する権限を持たない」などとして、請求の棄却や却下を求めている。
次回期日は11月26日の予定。
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原告側が提出した愛知県警の内部文書「若手警察官のための現場対応必携」と同様の文書が、2010年にも作成され、当時警察学校を卒業した新人警察官たちに配布されていたことが、ハフポスト日本版の取材で明らかになっている。
一方、県警側はこの資料の存在を明確には認めていない。
6月6日の参議院内閣委員会で、警察庁の檜垣重臣・生活安全局長は、文書について「愛知県警に確認したところ、法律の改正があった場合や社会情勢の変化等、見直しが必要な都度更新している資料であり、更新日は確認できないという報告を受けています」と説明。この資料を愛知県警が作成していたことを、事実上認めた。
だが同13日の参議院法務委員会で、警察庁は当該資料について「確認することができない」と、説明を修正した。
「削除で済む話ではない」
人種差別の問題に詳しい大阪公立大学准教授の明戸隆浩さん(社会学、多文化社会論)は、「外国人は必ず何らかの不法行為」などと記した愛知県警の文書について、「外国人という属性そのものが犯罪者予備軍だと読める書き方で、偏見を直接的に表明している」と指摘。
加えて、「合理的な範囲を明らかに超えた職務質問をすることを推奨している点でも問題だ」と話す。
これまでに、2009年と2010年に作成されたとみられる愛知県警の資料が見つかっている。関係者によると、「執務資料」の内容は2010年の作成当時からその後更新され、最新版からは「外国人」と犯罪を結びつけるような文言は削除されているという。
愛知県警で職務質問のプロとしてキャリアを重ねた男性は、新人警察官の頃に「現場対応必携」の冊子を配布され、仕事に慣れるまで度々読み返していたと、ハフポスト日本版の取材に証言した。
男性は、「警察学校時代から『外国人は悪いやつ』という教育を受けてきたので、執務資料を読んでも『そういうものだ』と思い、おかしいとは感じませんでした」と明かす。
明戸さんは「警察官の教育現場で、この文書がいつまで使われていたのか、またその後変更したのならば、それ以前までこの文書を基に教育を受けた警察官に対して指導内容をどのようにアップデートしたのかを明らかにするべきです」と強調する。
「この資料を受け取った元若手の警察官たちは、差別的な内容を『正しいもの』として教わっています。単に該当するページを削除して済む話ではなく、県警が警察官たちに教え込んだことを、もう一度修正する作業が必要です。
文書が作成された14、15年前は決して遠い過去のことではありません。この資料を使って学んだ警察官たちは今なお現役世代であり、これから幹部になっていきます。仮に、該当部分を消しただけで指導内容を修正していないのであれば、県警はその理由もきちんと説明しなければなりません」(明戸さん)
「確認できません」がまかり通っている
「外国人であることだけで職務質問するという運用が、警察内部で教示・推奨されてきたんじゃないか」。
愛知県警の文書が明るみになったことを受け、共産党の井上哲士議員は6月、参議院内閣委員会でそう疑問を呈した。
同様の文書の有無を調べるよう井上議員が求めたところ、松村祥史・国家公安委員長は「都道府県警察の執務資料の一つひとつについて、確認する必要はないものと考えております」と述べ、調査はしない考えを示した。
警察庁や愛知県警が文書の存在をうやむやにする中、明戸さんは司法の果たす役割は大きいと話す。
「明らかに公的なものとして作成された文書について、国会の委員会という重みのある場で議員が追及しても、警察機関が『確認できません』と言い逃れることがまかり通ってしまっている。そうなると、残るのは司法だけです。
裁判所は、行政のこうした責任逃れの姿勢を追認するべきではありません。そうでなければ、公的文書とはそもそも何なのか、その信頼が損なわれてしまう」
【取材・執筆=國﨑万智(@machiruda0702)】
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