「Fukushima water」問題、共同通信が3度目の発信。福島県は国に情報提供、県議から指摘も

共同通信が福島第一原発の処理水を再びFukushima waterと英訳していたことがわかりました。福島県が資源エネルギー庁に情報提供したことも判明しました。【Fukushima water】【メディアと差別】

東京電力福島第一原発の処理水を一部メディアが「Fukushima water」(福島水)と英訳していた問題で、共同通信が8月、再び同表記を使って報道していたことがハフポスト日本版の取材でわかった。

福島県庁も状況を把握しており、処理水の海洋放出を管轄する資源エネルギー庁に情報提供したことも判明した。

同社は2023年9月、英字媒体でFukushima waterと発信。24年4月にもXで同様に発信しており、今回で3度目となる。

現在は表現を「Fukushima treated water」に修正しており、ハフポストの取材に「部内のチェックが不十分だった」と回答した。

共同通信が経緯を説明

Fukushima waterを巡っては、23年10月からハフポストが「福島への差別や偏見につながる」繰り返し指摘。福島県の内堀雅雄知事も同年12月、「風評や差別を助長する恐れのある表現がなされたことは誠に遺憾」と公に非難している。

福島第一原発の処理水を英訳する場合、国などは「Treated water(処理された水)」としているが、日本のメディアでは少なくとも、共同通信、毎日新聞、朝日新聞、時事通信の4社が過去にFukushima waterと英訳し報じていたことが取材で判明している

3度目の今回、共同通信は「Japan PM urges China to lift ban 1 year after Fukushima water release」という見出しの記事を8月24日に英字媒体で配信した

岸田文雄首相が福島県の魚市場を視察し、中国政府に対して日本産水産物の輸入全面停止を解除するよう求めたことなどを伝えたが、見出しにFukushima waterと記載していたことからX上で批判が沸き起こった。

同社は3日後の同27日、見出しを「Japan PM urges China to lift ban year after Fukushima treated water release」に修正。ハフポスト日本版が9月4日、同社に経緯を尋ねたところ、9月10日に総務局から以下のような回答があった。

「“Fukushima water”の表現に関しては、貴社のご指摘などを踏まえ、使用を避けるよう担当部署内で周知しておりましたが、部内のチェックが不十分であったため、見出しに当該の表現を使用したまま配信してしまいました」

「外部から指摘があり、見出しを修正しております。今回のケースを受けて、あらためて部署内で当該表現の使用を避けるよう注意喚起しました」

一方、Fukushima waterと英訳したことについて、地元紙など加盟社から問い合わせがあったかどうかについては、「回答を控えさせていただきます」とした。

県が国に情報提供。担当者は取材に

共同通信による度重なる発信を受け、ハフポストは福島県や国の担当者にも受け止めを聞いた。

福島県風評・風化戦略室の担当者は取材に「共同通信の記事に関し、県議からも指摘があった」と明かした上で、「国に情報提供した」と話した。

今後の対応については「処理水については国と東京電力が対応している」と詳しく言及しなかった。

また、資源エネルギー庁も福島県から情報提供があったことを認め、原子力発電所事故収束対応室の担当者は「今回は表現が修正されたが、メディアが適切な表現で報道しているかについては関心を持っている」と語った。

例えば、処理水を「汚染水」などと報道したメディアがあった場合、風評被害を生む懸念があることから表現について問い合わせることもあるという。

担当者はFukushima waterという言葉について、「明確に回答はできない」としながらも、「福島に住む人々がどう受け止めるかが重要」と言及し、「風評につながる恐れがあるのであれば対応を考えなければならない」と述べた。

福島県南相馬市の北泉海水浴場。サーフィンの聖地とされ、海水浴客も徐々に戻ってきた
福島県南相馬市の北泉海水浴場。サーフィンの聖地とされ、海水浴客も徐々に戻ってきた
Keita Aimoto

「Fukushima water」が問題である理由

なぜFukushima waterという言葉が問題なのか。

福島の被災地を研究する社会学者で、東京大学大学院情報学環の開沼博准教授は以前、ハフポストの取材に「福島への『スティグマ』を生み出す」指摘した

「水俣病」という言葉が地元の人々への差別や偏見を生み出したように、直訳すれば「福島水」となるFukushima waterも差別や偏見を生み出す恐れがある。

新型コロナウイルスの名前を巡り、世界保健機関(WHO)が特定の地域に対する差別や悪影響の可能性について懸念を示したことも記憶に新しい。

二つ目は、Fukushima waterという言葉自体が既にインターネットミームとして”ネタ化”されている点だ。

近年、巨大魚や不可解な現象がSNS上で拡散すると、必ずと言っていいほどFukushima waterと投稿される。北海道函館市の海岸で2023年12月、大量のイワシが打ち上げられた際は特に相次いだ。

このほか、Fukushima waterをGoogleなどの無料ツールで翻訳すると「放射能汚染水」と英訳されることがある。

福島の人々も反対の声をあげており、ハフポストが8月に取材した福島県南相馬市のプロサーファーは、「海外では福島の水全てが原発事故に関連するものだと思われるからやめてほしい」話していた

このプロサーファーは過去、海外の大会で福島出身だと伝えると「Crazy」と侮辱された経験があり、福島の海でサーフィンをしていることについても「Are You OK?」「汚染水は大丈夫」などと言われたことがあったという。

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