健康志向の高まりやライフスタイルの多様化により、近年若者を中心に日本でもアルコール離れが進んでいる。
そんな中、日本酒メーカーの月桂冠が低アルコールの日本酒を販売することを発表した。
一般的な日本酒のアルコール度数が15%程度である一方、新たな「低アル」商品は約5%と約3分の1。名前はアルコール5%を略して「アルゴ」だ。
同社は2014年からノンアルコールの日本酒を販売開始。それ以降ラインアップを増やしているが、「低アル」商品の全国発売は今回が初めてとなる。
気になるお味は?
実際の味はどうなのだろうか...。
普段はどちらかというとワイン派で日本酒はあまり飲まない筆者が、一足先に商品発表会で試飲してみた。
アルコール度数5%というと、一般的なビールほど。試飲には冷酒とロックの2通りで提供された。
まず香りから。ふんわり甘く深みのある日本酒の香りがするが、従来のお酒から漂う「酒です!」というストレートなメッセージはない。
以前ノンアル日本酒を飲んだ際には、従来の日本酒に劣らない甘い芳醇な香りに驚いた記憶があるが、今回の商品はもっと柔らかく自然な香りだ。原料を見ると、月桂冠のノンアル商品には香料が含まれている一方、低アル「アルゴ」は米と米こうじのみだ。
さっそく冷酒から頂く。最初にフルーティな甘さと酸味、そして口の中で旨みが続き美味。飲み込むとお腹が熱くなり、5%といえどアルコールを感じる。「強いお酒」のイメージからこれまで日本酒を敬遠してきた人たちにも広まりそうだ。
ロックも美味しいが、すでに低アルの日本酒に氷を入れるとさらに味が薄まる感じが否めない。そしてグビグビいけそうで逆に危険かも...。個人的には氷無しがおすすめだ。
いくら低アルで飲みやすいとはいえ、何杯も飲めば普通の日本酒と同じだけの純アルコール量を摂取している可能性がある。何事も適度が大切だ。でやめておくことが重要だ。
なぜ低アル日本酒?
これまでビールやチューハイの「低アル」は多く販売されてきたが、日本酒では珍しい。開発の背景には何があったのだろうか?
月桂冠の調査では、日本酒は他のアルコールに比べ「翌日まで残る/二日酔いになりやすい」という印象が持たれており、飲酒の機会が限られていることが明らかに。
一方、「低アルの日本酒を購入したい」と答えた割合は50%を超え、需要があることが分かった。
月桂冠営業推進部の柴垣昭彦さんは商品発売発表会で「美味しい日本酒であること」を大切にしたといい、低アルのため弱まりがちな「飲みごたえ」をオリジナルの酵母で補うなど、原料や製法にもこだわったという。
進む「酒離れ」。今、消費者が求めるものとは
日常的に飲酒をする日本人は減少傾向にあるようだ。
厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、週に3回以上、1日あたり1合以上を飲酒すると回答した「飲酒習慣のある者」は、2019年の調査では7.8%にとどまり、今から20年前、2004年の統計の11.4%から減少しているのが分かる。
成人1人辺りの酒類消費量も、1992年の101.8Lをピークに減少し続け、2021年は過去最低の74.3Lまで減った。
アルコール度数8%以上を超える「ストロング系」缶チューハイの販売を撤退する意向を発表した企業もある。
一方、ノンアル市場は成長を続け、サントリーのノンアルコール飲料レポートによると、2023年のノンアル市場は10年前の1.4倍となり、過去最大規模になったと推定されている。
商品の選択肢もビールからチューハイ、ワイン、日本酒に蒸留酒と広がり、ノンアルだけでなく微アル、低アルと増えている。キリンもつい先日、2015年以来9年ぶりに新たな「低アル」チューハイブランド「華よい」を発表したばかりだ。
広がる健康リスクの認識
飲酒による健康リスクへの意識も広まっている。
厚労省は2024年2月、飲酒に伴うリスクに関する知識の普及を目的とした「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を初めて公表。年齢や性別、体質によって異なると説明した上で、生活習慣病リスクを高める純アルコール量の参考値として、男性は1日40グラム以上、女性は20グラム(ビールのロング缶1本程度)以上とするなどのガイドラインを発表した。
それは人々の認識にも徐々に広がりを見せており、2023年にアメリカで行われたGallop社の調査では、アメリカの成人の39%が「適度な飲酒」も健康に悪いと考えていることが明らかになった。特に18歳から34歳の若者の間ではその数字は52%となり、2018年の結果から18%も増加している。
人々の意識が変わるにつれ、ノンアル・低アルはブームにとどまらず、今後確固たる地位を確立していきそうだ。
「アルゴ」は300ミリリットル(税抜き380円)と720ミリリットル(同880円)の2つのサイズで、9月23日から全国で販売される。