「皆殺し」「豚の餌」クルド人への見るに耐えないヘイトの数々と101年前の関東大震災時のデマとの類似性

クルド人を貶めるデマがネット上に溢れていることについて、ジャーナリストの安田浩一さんは「関東大震災における朝鮮人虐殺のデマと似ていませんか?」と問いかけた。
国会前で入管法の改正に反対する人たち
国会前で入管法の改正に反対する人たち
時事通信社

「帰れ クソゴミクルド人 犯罪者、トルコへ帰れ」 

「お前らクルド人全員殺してやるからな 覚悟しとけ」

「はよしねよクルド人 気持ち悪い人種は生きんな はよじさつしろ」

「皆殺しにして、豚の餌にしてやる」

これらの言葉は、埼玉県でクルド人との交流・支援活動を続けている団体「在日クルド人と共に」に寄せられたメールである。

埼玉県川口市・蕨市にクルド人が暮らしていることは多くの人が知る通りだ。1990年代から増え始め、今や2000〜3000人ほどいると言われている。

「国を持たない世界最大の民族」と言われ、トルコやイラン、シリア、イラクなどにまたがって居住し、世界に約3000〜4000万人いるとされており、少数民族として迫害を受けてきた歴史があるクルド人。

ちなみに川口市・蕨市にいるクルド人の多くはトルコ出身だが、徴兵から逃れるために他国に渡った人も少なくない。トルコに住んでいたら、クルド人でもトルコの軍隊に行かなければならない。が、トルコ政府はトルコからの分離独立を求めるクルド人の武装組織・PKK(クルディスタン労働者党)を軍事弾圧。よって徴兵に応じたら、同じクルド人に銃を向けなくてはならなくなる。また、PKKとトルコの対立により、クルド人というだけでPKKと同一視され迫害を受けるという理由で逃れてきた人もいる。

そんなクルド人は長年、日本の若者がなかなか定着しない「3K」と呼ばれる解体現場などの仕事を担ってきた。その子どもたちは日本の学校に通い、日本で教育を受け、多くの人が川口市・蕨市に定着して暮らしてきた。ちなみにクルド人が増え始めてから30年ほど経っているわけだが、例えば3年くらいより前にその存在についてあなたは耳にしたことがあっただろうか? おそらくはないと思う。それほどに、日本社会はクルド人に無関心だった。

しかし、この1年ほど、SNSには見るに耐えないようなクルド人へのヘイトが溢れている。冒頭に紹介したような言葉がSNS上にも書き込まれ、多くのデマと共に拡散し、クルド人への憎悪を煽っている。

私の周りにも、そんなヘイトにこの1年で染まった人がいる。コロナ禍、クルド人が仕事を失い困窮していることを伝えてもまったく無関心だったその人は、今やクルド人に対して「犯罪者、出て行け」「日本が乗っ取られる」などと口にする。

なぜ、こんなことになったのか。

昨年の入管法改定問題が報じられたこともひとつだが、さらに大きなきっかけは昨年7月に起きた「病院事件」だ。埼玉県内の病院前に約100人のクルド人が集まったことによって救急の受け入れが5時間半ストップしてしまったのだ。

そもそもの発端は、男女関係のもつれだったという。その結果、男性が女性の親族に切りつけられてしまい、病院に搬送。それを聞きつけた親族や友人たちが集まってきて騒ぎになったのが真相らしい。

しかし、このことが「暴動」などと報じられ、また動画も拡散したことでクルド人へのバッシングがあっという間に広まった。その流れなのだろう。これまで20年近く問題なく開催されてきたクルド人の祭り「ネウロズ」に対して、公園側に「クルド人に公園を貸すな」と抗議の電話が寄せられるように。結果的には無事に開催されたのだが、今年春には川口駅や蕨駅前で「クルド人は出ていけ」と叫ぶヘイトデモが開催されている。

そんなクルド人へのヘイトをなんとかしようと8月26日、弁護士会館にて「クルド人に対するヘイトスピーチ問題を考える緊急集会」が開催され、参加した。

冒頭で紹介した言葉は、そこで「在日クルド人と共に」の代表理事・温井立央さんが示したものだ。「在日クルド人と共に」には「クルド人は出ていけ」などの電話もかかってくるという。

が、その相手に「クルド人に何かされたのか」と聞くと「されていない」。「川口市に住んでいるのか」と聞くと「住んでいない」。では、なぜこんなことをするのかと問うと「YouTubeで見た」と答えるのだというから嫌な意味で「令和……」って感じだ。

この日はジャーナリストの安田浩一さんも登壇したのだが、「差別者側は同じ」という指摘が非常に印象深かった。

例えば2009年、やはり蕨市であるデモが起きている。それは「在日特権を許さない会」による、「フィリピン人一家追放」デモ。入管から強制送還を迫られた非正規滞在のフィリピン人一家の長女がメディアに登場し、「友達と離れたくない」と訴えていたのだが、それに対して「出て行け」と迫るデモが開催されたのだ。しかもデモ隊は長女が通う中学校にまで押しかけていたというから13歳の彼女の恐怖はどれほどのものだっだろう。

その後に標的にされたのは川口市内の団地。中国系住民が急増して団地の半数以上を占めていることを問題視した「排外主義」を掲げる人々が押しかけたのだという(『世界』24年9月号 ルポ 埼玉クルド人コミュニティ 安田浩一)。一方、東京の大久保や神奈川県の川崎で在日コリアンへのヘイトデモが行われていたことは多くの人が知るところだ。

そして昨年、差別の矛先が突然クルド人に向いたのである。一部メディアもそれを後押しするような報道をしている。

クルド人を多く取材している安田さんはこの日、彼らに「何が怖い?」と聞いた時の答えを教えてくれた。

それは「スマホ」。

彼らが働く現場や資材置き場にやってきて、無遠慮にスマホを向ける者がいるという。それをデマとともにSNSにアップするのだろう。

だからこそ、常に撮影され、録音され、それが拡散される恐怖に怯えているというのだ。普通に暮らしていても、常に誰かにつけられ、撮られていないか後ろを振り返って確認しなければならない日々。それだけではない。コンビニ前でコーヒーを飲んでいるだけのところを盗撮され、「この人たちがレイプしている」などとデマの情報とともに拡散されることもあるというのだから恐ろしい。

平和だと思ってやって来た日本だが、その「平和」はこの一年で吹き飛んだというのだ。

クルド人を貶めるデマがネット上に溢れていることについて、安田さんは「101年前の、関東大震災における朝鮮人虐殺のデマと似ていませんか?」と問いかけた。いったいいつまで、同じことが繰り返されるのだろう?

ちなみにヘイトを煽る方は「日本がクルド人に乗っ取られる」というが、川口市の人口約60万人に対して外国人は約4万3000人で7%ほど。その半数は中国人で、クルド人は約1200人。蕨など近隣の市を入れても2000人ほどで川口市の人口の1%にも満たない。そんな人々がどうやって「日本を乗っ取る」というのか。

一方、クルド人には「偽難民」という言葉もつきまとう。

が、国連によると、11年からの10年間で世界各国で約5万人のクルド人が難民認定されている。また、トルコ国籍を持つクルド人の難民認定率は18年には世界で約46%(全国難民弁護団連絡会議の統計より)。一方、この約15年で、日本で難民申請をしたトルコ国籍の人は9700人。その多くがクルド人とみられているが、認定されたのはたった一人だ。

19年のトルコ出身者の難民認定率は、ドイツ33.8%。アメリカ41.3%。フランス36.7%。カナダ73.7%、イギリス51.6%。対して日本は0%。そもそも日本の難民認定率は1〜2%と極端に低いわけだが、クルド人がこれほど難民認定されない背景には、外交上の問題もあると指摘されている。

9月2日に訃報が報じられた佐々涼子さんの著書『ボーダー 移民と難民』(2022年、集英社刊)には、クルド人の難民認定率が低すぎることについて、以下のような記述がある。

「トルコ政府は、クルド人に対する迫害行為をテロ対策として正当化している。そしてNATO加盟国であるトルコのテロ対策担当機関と、日本でテロ対策を担う法務省・警察庁とは、継続的な協力関係にある。つまり仲良しなのだ。友人であるなら、時にたしなめることも必要だと思うが、トルコの一連の行為を迫害と認めてしまうのは外交上不都合だと考えているのだ」

そんなクルド人の状況や子どもたちの実態については8月末に出た新刊『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』でも詳しく触れたのでぜひ読んでほしいが、一方で心あたたまる話もある。

それは24年元日の能登半島地震の際のこと。日本に住むクルド人たちが被災地に入り、炊き出しをしたのだ。被災からわずか10日ほどの頃、埼玉県や東京都内のケバブ料理店で働くクルド人たちがキッチンカーで被災地入り。まだまだ避難所ではあたたかい食事ができなかった頃、出来立てのケバブやスープは大歓迎されたという。彼らは23年2月のトルコ・シリア大地震の際、日本からの支援が寄せられたことに触れ、「故郷を助けてもらった恩返しがしたい」と支援を申し出たそうだ。

さて、最後に書いておきたいのは、海外で「デマ」が原因で起きた暴動のことだ。

7月末から8月にかけて、イギリスで起きた暴動である。

発端は、子ども3人が少年に刺されて殺害される事件が起きたこと。事件直後から「犯人はイスラム系移民だ」という情報がSNSで拡散され、それによって難民申請者が滞在するホテルが襲撃されるなどの暴動に発展したのだが、「イスラム系移民」との情報はデマだった。これまでに逮捕されたのは1000人以上。

今、日本のSNS上で起きていることと非常に酷似していないだろうか。

そして実際、日本でもクルド人へのヘイトが原因で書類送検されている人がいる。

先に紹介した「在日クルド人と共に」にひどいメールを送りつけた人物だ。「在日クルド人と共に」が被害届を出した結果、人物が特定され、脅迫容疑で書類送検されたのは東京都足立区に住む34歳の男だったという。川口市や蕨市に住む住民ではなく、まったく外部の存在だったのだ。

この男がどれほど確信を持ってメールを送りつけたのかはわからない。しかし、真偽不明の情報に触れ、軽い気持ちでしたSNSへの書き込みや団体へのメールで書類送検されたり、場合によっては実名を公表されて人生が終了することは十分にありえることは強調しておきたい。どんなに「煽られた、騙されただけ」「ネットに書いてあったことを真に受けた自分は被害者」と言ったところで、書いてしまった事実は覆らない。結果、仕事や家族や友人など、多くのものを失うだろう。

人生を破滅させたくない人は、このことをよく覚えておくといい。ヘイトデモをするような人たちがネットで煽る言説に今、多くの人が巻き込まれ、信じているからこそ、周りにそういう人がいたらリスクを教えてあげてほしいのだ。

ここまで書いても「クルド人は怖い」という人もいるだろう。テレビなどでも病院事件以来、不安を口にする近隣住民の声が紹介されたりする。

そのような不安の声は、決して軽視されてはならないと思う。私だって、言葉が通じない人がたくさんいたら不安を感じると思う。だからこそ、その不安を一つひとつ解決していくことも大切だと思うのだ。

そうして実際、川口市では長年日本に住むクルド人がパトロールをし、新しく来たクルド人に日本の文化やルールだけでなく、ゴミの分別を教えるなどの活動もしている。また「在日クルド人と共に」は、クルド人をはじめとする地域の外国人たちに無料の日本語教室を開催。言葉がわかれば、多くのトラブルは回避できるからだ。

こんなふうに、不安解消のための「実践」がなされている。

もしかしたらその光景は、人口減で人手不足のこの国の「未来の光景」なのかもしれないとも思う。

※このような状況について危機感を持って書いた1冊が8月末に出版した『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』です。「在日クルド人と共に」の日本語教室や、クルド人にも多く取材しました。ぜひ、彼ら彼女らの声に耳を傾けてほしいです。

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