あなたも知らない間に食べている? 今、マイクロプラスチックをめぐり日本の海で起きていること。アニエスベーが警鐘を鳴らす理由

フランス発のファッションブランドが、マイクロプラスチックについての展覧会を開いています。アパレル業界とプラごみ、マイクロプラスチック問題の深い関わり、そして主催者のメッセージとは。

「誰がマイクロプラスチックを食べているの?」

答えを想像して、少し怖くなってしまうような名前の展覧会が東京都港区で開かれている。

主催は、ファッションブランドを展開する「アニエスベージャパン」。

会場では、日本の海岸や沿岸海域で採取されたマイクロプラスチックや調査結果が分かりやすく展示されている。

なぜファッションブランドがマイクロプラスチックについての展覧会を開き、危機に警鐘を鳴らしているのか。

そこには、アパレル産業としての「責任感」があった。

採取されたプラスチック片
採取されたプラスチック片
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

日本の沿岸海域は「マイクロプラスチックのホットスポット」

東京・表参道駅近くのアニエスベー店舗の2階にあるギャラリーブティックに足を踏み入れると、まず目に入ってくるのが、大きな日本地図だ。

地図の周りには、青色とオレンジ色の「円」が表示されている。

これは、2020〜2023年の期間に北海道から沖縄までの計14カ所で海洋調査をした際に採取された、マイクロプラスチックの量を表している。

日本各地の海岸や沿岸海域で採取されたマイクロプラスチックの量を表す地図
日本各地の海岸や沿岸海域で採取されたマイクロプラスチックの量を表す地図
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

青色は海底の泥や砂などの堆積物、オレンジ色は沿岸海域の表層の海水で採取されたものだ。

特に、沖縄、千葉、新潟各県では表層で、青森県では海底でも多くのマイクロプラスチックが確認された。

日本の沿岸海域は「マイクロプラスチックのホットスポット」になっているという。

ファイバーやマイクロビーズなど様々な形状のマイクロプラスチック
ファイバーやマイクロビーズなど様々な形状のマイクロプラスチック
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

マイクロプラスチックとは、5ミリメートル以下の小さなプラスチックごみを指す。

ポイ捨てや放置されたプラスチックごみが河川などを通じて海に流出し、漂流して小さくなったものや、洗顔料や歯磨き粉に含まれているビーズなどの小さなプラごみが、海洋生態系に悪影響を及ぼしている。

アニエスベーの創設者であるアニエス・トゥルブレさんは2003年、フランス初の海洋に特化した公益財団法人「タラ オセアン財団」を創設。海洋汚染や気候変動について積極的に活動してきた。

日本支部として一般社団法人「タラ オセアン ジャパン」があり、上記のマイクロプラスチックの調査は、タラ オセアン ジャパンとマリンバイオ共同推進機構 JAMBIOが行った。

アニエスベーでは、「マイクロプラスチック問題には、アパレル産業も大きな責任を負っている」として、プラごみやマイクロプラスチックに関する活動を継続している。

海にある一次マイクロプラスチック(製造段階から5ミリメートル以下のサイズのプラスチック)のうち、約35%がマイクロファイバーと言われており、合成繊維から作られた衣類の生産などで、マイクロプラスチックの一種であるマイクロファイバーが多く放出されるからだ。

タラ オセアン ジャパンは、調査、情報発信などに取り組んでおり、香川県三豊市と協定を結び、子どもたちに向けた海洋環境教育なども行っている。

香川県三豊市の粟島に流れ着いたプラスチックごみ
香川県三豊市の粟島に流れ着いたプラスチックごみ
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

会場では、三豊市の瀬戸内海に浮かぶ粟島に漂着したプラスチックごみも展示された。

アニエスベーの社員らが定期的にボランティアで行う粟島でのごみ拾いでは、ペットボトルやライター、発泡スチロールのほか、魚型のプラスチック製醤油容器やマイクロプラスチックが回収された。

採取された、魚型のプラスチック製醤油容器(中央)と、マイクロプラスチック
採取された、魚型のプラスチック製醤油容器(中央)と、マイクロプラスチック
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

「あなたもマイクロプラスチックを食べている」

会場の隅には、鳥の死骸の写真、その前にはプラスチック製のカードでつくられたアートが展示されている。

骨と羽になってしまった鳥の死骸の中心部には、鳥が生きている間に食べてしまったプラごみがそのままの状態で残っている。

プラごみを食べた鳥の死骸の写真(上)と、プラスチック製カードを用いたアート
プラごみを食べた鳥の死骸の写真(上)と、プラスチック製カードを用いたアート
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

プラ製のカードで作られたアートは、人間が知らぬうちに食べてしまっているマイクロプラスチックの量を表している。

プラごみ問題について「自分ごと化」できない人々に対し、アートを通じて、危機を訴えかける強いメッセージを発している。

オーストラリアのニューカッスル大学などの研究結果によると、世界中の人々が毎週クレジットカード1枚分に相当する5グラムのマイクロプラスチック粒子を摂取しているという。

食べ物や水の中に含まれるマイクロプラスチックについての研究は各国でなされていて、塩や魚介類、砂糖、酒などに目に見えないほどの小さなマイクロプラスチックが入っていたことが分かっている。

製造過程や包装、古着のリサイクルで目指す改善

布製や紙製に変更したアニエスベーの包装(左)と、2019年からの改善箇所を表す表(右)
布製や紙製に変更したアニエスベーの包装(左)と、2019年からの改善箇所を表す表(右)
Sumireko Tomita / HuffPost Japan

アニエスベーでは、プラごみ問題について発信すると同時に、自社のビジネスの中でも、洋服などの製造過程、包装の変更、自社製品の回収・リサイクルなど、対策を徹底している。

同社の衣類の80%以上が天然繊維で作られており、最も多く使用されているコットンも、より環境負荷の低いものを使用しているという。

特にファストファッションやスポーツブランドでは、衣類などにはポリエステルなどの合成繊維が多く使われているが、合成繊維の衣類を生産、洗濯する際にはマイクロプラスチックの一種であるマイクロファイバーが多く放出されてしまう。

細かい粒子が海に流れると、海洋生物に悪影響を及ぼしてしまうため、アパレル業界としても、消費者としても、マイクロファイバーの存在を認識し、行動に移すことが重要だ。

また、アニエスベーではここ数年で、袋だけでなく、商品タグ紐からパッケージ用リボンなどまで、あらゆる包装での脱プラを大幅に進めている。

展示では、そのような企業努力も詳細に説明されている。

オフィス内でも、スタッフはペットボトルを使わずにマイカップ・マイボトルの使用を徹底し、ペーパーレスなどもチーム横断で積極的に取り組んでいるという。

タラ オセアン ジャパン・広報の小澤友紀さんは取材に対し「皆さんに危機感を持ってもらいたいし、その上で自分にできることを行動してほしい」と話す。

展覧会「誰がマイクロプラスチックを食べているの?」
展覧会「誰がマイクロプラスチックを食べているの?」
アニエスベー ジャパン

 【展覧会情報】

会場:アニエスベー ギャラリー ブティック
東京都港区南青山5-7-25 ラ・フルール南青山2F

会期:2024年7月27日〜9月29日
月曜日休廊(9月16日、9月23日は開廊)
時間:12:00−19:00

主催:アニエスベージャパン
企画協力:Tara Océan Japan/筑波大学下田臨海実験センター/三豊市/高砂淳二/布下翔碁

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