日本が「貧しい」ことがバレバレになった岸田政権の3年間と外国人にも働く先として選ばれなくなりつつある「元経済大国」がどう軟着陸するかという難題について

日本が貧しくなったことがバレバレになったあと、どんな自民党総裁が生まれるのか。少なくとも、現実が見えている人に舵取りをしてほしいが、ここまでの衰退を招いた自民党に期待してもな…という諦めの方が大きい。
岸田文雄首相の自民党総裁選不出馬を報じる新聞の号外=8月14日、東京都中央区
岸田文雄首相の自民党総裁選不出馬を報じる新聞の号外=8月14日、東京都中央区
時事通信社

8月14日、岸田首相が次の自民党総裁選に出ないことを表明した。これによって現在、秋の総裁選に誰が出るのか、時期総裁は誰かに注目が集まっている。

そんな中、若手のホープ的に注目を集めている小林鷹之氏の演説をテレビで見かけた。

小林氏と私は同い年の49歳。サラリーマン家庭で生まれ育ったこと、二世ではないことを強調する彼の語りに少し引き込まれたものの、彼が「世界をリードする日本」と言った瞬間に、関心はしぼんだ。

そして「昭和と令和のハイブリッド」を演じながらもまだまだ昭和の感覚が染み付いている自分たちの世代と、これからのこの国の行く末に思いを馳せた。

8月17日に出演したデモクラシータイムスでも話したのだが、私は岸田政権の3年間は、日本が貧しいことがバレバレになった3年間だと思っている。

平均賃金が韓国に抜かれたことが広く知られ、また最低賃金はオーストラリアの半分であることが知れ渡ってしまった3年間。「失われた30年」の中、先進国の中で唯一賃金が上がらなかった国であることが白日のもとにさらされた年月。

それを裏付けるような経験をしたのは昨年のことだ。

アジア中から様々な活動をしているアーティストやアクティビストが集う催しが東京で開催され(NO LIMIT2023 高円寺番外地)、7年ぶりくらいに韓国や台湾、中国や香港の人々が100人近く日本に押し寄せて10日ほどを共に過ごしたのだが、その時に痛感したのは、「7年前と比べて日本人の私たち、確実に貧乏になってる!」ということだ。

長引く物価高騰でこっちはヒーヒー言ってるのに、アジアから来た人たちは円安もあり、「日本はなんでも安い!」と大喜び。しかも話をすると彼ら彼女らが自国で住んでる部屋や運営してるスペースの家賃は日本よりはるかに高く、着てるものもブランド物だったりと「豊かさ」が垣間見える。

ちなみにアジアから来た人々はみんな就職とかせずに音楽をやったり自分たちでスペースを運営したり、足りない分はバイトしたり、と決して豊かではなく、いわゆる「貧乏」系の活動をしている人たちである。それなのに、日本の「貧乏」系活動をしてる人の方がよっぽど貧乏という現実に打ちのめされたのだった。そりゃみんな、上海とか香港とかソウルから来てるんだもんな……。

このように、この数年でアジア各国と経済的な地位が逆転しつつあるジャパン。というか少なくとも7年前の同じ催しの際、私はアジア人を数人引き連れて居酒屋に行き、全員分奢るとかしていた。7年前は、日本の方が「金持ち」というのは全員が共有している前提だったのだ。

だけど、昨年はもうそんなことはできなかった。よって何が起きたかと言えば、日本人とアジア人で、ひたすら高円寺の駅前で路上飲みをしていたのである。コンビニで酒やおつまみを買えば安くあがるからだ。もしかしたら日本人がいない時、彼らは「ちょっといい店」とか行ってたかもしれない。

さて、これは去年の私の経験だが、コロナ禍が「収束」となり、国境が開いた瞬間、多くの人も似たような経験をしたのではないだろうか。

思えばコロナ前から「日本は安い」という外国人旅行者の言葉を聞いていた。

が、コロナ明けで国境が開いてからは円安もあり、「安い日本」を求める機運はさらに露骨なものとなっている。観光地で、日本人にはとても手が出ない価格のものを「信じられないほど安い」と喜ぶ外国人。そうして「二重価格」の話などを耳にするたびに、かつての経済大国は遠くなりにけり……という気分が込み上げるのは私だけではないはずだ。

さて、そんな衰退の一途を辿るこの国において、もはや「世界をリード」などの言葉は非常に時代錯誤なものではないだろうか。というか、昭和生まれの人間はどうしても日本がアジアで一番という幻想が消えないものの、「経済大国」は遠い過去。

そんなこの国にできることは、少子高齢化と人口減の中、どうやって犠牲を最小限に抑えて軟着陸するかではないのかと最近、つくづく思う。そのモデルを描ければ、他の国々の参考にもなるだろう。

そんな中、避けて通れないのは人手不足だ。

最近も、そんな記事を目にした。それは朝日新聞(2024年8月25日)の「働くなら日本より韓国?」という記事。

同記事によると、韓国でも人手不足から外国人労働者の「争奪戦」が始まっているという。そこで紹介されていたのは造船業界の話。広島県内の造船や溶接など4社に外国人を派遣する会社の幹部によると、インドネシア人10人を派遣する予定だったのが、5人が採用を辞退したというのだ。その理由は韓国の造船会社の引き抜き。

「こちらが提示した時給は1200円。韓国側は1700円。持って行かれてもしょうがない。昔はこんなことなかった」

幹部はそう嘆いたという。

記事を読んで、やはりこういう事態が起き始めたか……としみじみ思った。

前回の原稿で、8月27日に出た私の新刊『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』について触れたが、この本の取材をしている最中もつくづく思った。

それは、いつまでも外国人が「憧れの日本」で働いてくれると思ったら大間違いだぞ、とうことだ。とくに日本は実習生・研修生という形で多くの外国人をあまりに安く使い、世界から「現代の奴隷制度」と非難を浴びてきた。

新刊では、移民問題に詳しい東大准教授の高谷幸さんにもインタビューしているのだが、彼女は「他国との競争の中で、日本の労働条件が悪いということは多くの人が気づくようになっています」と指摘している。

ちなみに現在、技能実習生でもっとも多いのはベトナム人だが、10年後にはもう来ないだろうと言われている。

日本の入管・難民問題に独自の視点で迫ったノンフィクション『ボーダー 移民と難民』(佐々涼子著/集英社、2022年)には、ベトナムの日本語教師と話したこととして以下のような記述がある。

「10年前は、実習生として地方の中国人や韓国人が来ていたが、今はほとんど来なくなった。ホーチミンやハノイなど都会に住むベトナム人も日本には来ない。ネパールの都市部も同様だ。これからはカンボジアだと言っている。

カンボジアにも見限られたら次はアフリカだろうか? 日本語教師の知り合いたちは、『その頃にはきっと日本人の若者が出稼ぎに行くようになるんじゃない? 』とまじめな顔をして言っていた」

この未来予想図は、決して突飛なものではないと私は思う。

日本の平均賃金が韓国に抜かれたのは15年。2009年までアメリカに次いで世界2位だったGDPも10年には中国に抜かれ第3位に。24年にはドイツにも抜かれ4位となった。いつまでも外国人労働者が「豊かな日本」「憧れの日本」に来てくれると思っていたら大間違いなのだ。

そんな状況だからこそ、どう犠牲を少なくして軟着陸するかに政策をシフトし、仕切り直す時期が来ていると思うのだ。

このようなこともあって、私はこのタイミングで難民・移民の取材をし、この国の難民・移民政策も振り返りつつ一冊にまとめた。「外国人ヘイトなんかしてる場合じゃない」という焦りに似た思いもあった。また、2月に出した『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』 は、衰退の日本でどうやって一人一人が自衛していくかを書いたものだ。

これまで18年間、声を上げ、政治を動かすことを試みてきた。しかし、あまりにも状況は変わらない。もちろん、少しは変わったこともあるけれど、それよりも崩壊のスピードの方がずっと早いというのが実感だ。

だからこそ、これからは声を上げて政治を変えることと二本立てでやっていかなければと意識を新たにしている。その実践が、今年出した『死なないノウハウ』と『難民・移民のわたしたち』である。

ということで、日本が貧しくなったことがバレバレになったあと、どんな自民党総裁が生まれるのか。 

少なくとも、現実が見えている人に舵取りをしてほしいが、ここまでの衰退を招いた自民党に期待してもな……という諦めの方が大きい。  

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