「プリキュア」シリーズ(毎週日曜朝8時30分、ABCテレビ・テレビ朝日系列にて放送中)の21作目である『わんだふるぷりきゅあ!』(わんぷり)のテーマは、「動物との絆」だ。
全国で上映中の映画『わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー!ドキドキ♡ゲームの世界で大冒険!』ではその「絆」について、負の面も含めて丁寧に描かれている。
映画のテーマは何なのだろうか。キュアワンダフル/犬飼こむぎ役の長縄まりあさんと、キュアニャミー/猫屋敷ユキ役の松田颯水さんに聞いた。
見えてきたのは、動物を飼ったことがある人の多くが一度は抱えるであろう「大切なペットに、思いは届いているのか」という思いへのアンサーだった。
長縄さんと松田さんは「犬と猫と人間の絆を描いてきたわんぷりだからこそのメッセージが込められています」と強調する。
※記事では、物語の内容や結末に関わる重要な部分に触れています。注意して御覧ください。
◆「言葉はなくても…」犬と猫だから言えるメッセージ
テレビシリーズでは、犬飼家(こむぎ、いろは)、猫屋敷家(ユキ、まゆ)、兎山家(悟、大福)の3組のパートナーの絆が描かれてきたわんぷり。映画では、ナツキと狸のタヌちゃんというもう1組の関係性にスポットが当てられた。
学校に心を開ける友人がいなかったナツキ。支えになったのは、放課後に公園で話を聞いてくれたタヌちゃんだった。だが公園の工事により、会えなくなってしまう。
テレビシリーズで描かれてきた仲睦まじい3組とナツキたちが違うのは、関係が1度失われてしまったものだということだ。そしてナツキは、自身のプログラムが暴走した結果、ムジナという敵として再会することになる。
映画のテーマについて、松田さんは「『あなたの思いは言葉がなくても伝わるんだよ』というメッセージだと感じました」と話す。
わんぷりでは犬のこむぎと猫のユキが人間になり、飼い主のいろはやまゆと一緒に、プリキュアとしてアニマルたちを救っていく。
こむぎといろは、ユキとまゆはそれぞれ、人間の言葉で話せるようになったから、分かり合えたのではない。こむぎとユキが話せない時も、一緒に遊んだり、時につらいことを聞いたりしたことで、絆が深まってきたという積み重ねがある。
それはナツキとタヌちゃんも同じだ。映画の見どころの1つが、ナツキがタヌちゃんについて、「なんでも聞いてくれたね。…って言っても私が言ってることは分からなかったと思うけど…」とこぼしたシーンだ。
こむぎは食い気味に「そんなことないワン!」と訴えた。ユキも「タヌちゃんには伝わってる、あなたの気持ちのすべてが」と断言した。
松田さんは「人間には予想でしか言えないことを、こむぎとユキが動物の目線で、はっきりと伝えるんですよ。わんぷりらしいメッセージで、胸を打たれました」と話す。
「映画を見てくれた親御さんには、小さい頃に飼っていた動物がいるかもしれない。お子さんにも、もしかしたらもう別れてしまった家族がいるかもしれない。あるいは、まだ言葉を発せない妹や弟がいるかもしれない。その時に話していた思いというのは、伝わっているんだよということが、届いたら嬉しいです。すごく大好きなシーンなんです」
◆善悪だけでは語れない「敵」の背景
映画の特徴の1つが、完全な悪役はいなかったということだ。敵として対峙するムジナは、ナツキが過去に大切にしていたタヌちゃんをイメージし、プログラムが暴走した存在だ。
こむぎとユキはプログラムの世界で、ゲームの世界に閉じ込められたいろはとまゆを助けるために、いろんなゲームに挑戦することになる。ゲームの番人となるのが、ムジナに仕えるタヌキの、ポンタとポコタだ。
長縄さんは「助けるために、いろいろなゲームに挑戦するのですが、ポンタさんとポコタさんのおかげで、すごく楽しいゲームがたくさんあったんですよね。こむぎは真剣ではあるのですが、楽しくて踊っちゃうというシーンもあって(笑)」と振り返る。
「声を担当されたジャルジャルさんの、 ちょっと隙がある感じがとても楽しくて素敵でもあって。ポンタさんとポコタさんは、悪い人じゃないんだろうな、善悪だけでは語れないんだろうなというのがありました」と話す。
またユキが得意なゲームを率先してやってくれたり、攻略方法を提案してくれたりするなど、テレビシリーズではあまり見られなかった2匹の絆も描かれた。
「大変なことがあっても、時にはちょっと楽しんだり、一緒にいる人に頼ってみたりといった大切なことも、こむぎとユキのかわいい姿を通して感じてもらえたら嬉しいです」
また映画の見どころの1つが、ウサギの大福が初めて話すことだ。声を担当するのは、『呪術廻戦』の五条悟役などで知られる声優の中村悠一さんだ。
わんぷりのキャスト陣が、中村さんが担当することを聞いたときには、人間になった大福がどんな姿か、知らなかったという。
もともと、キャスト陣で「大福がもし喋るとしたら、 めちゃくちゃダンディなんじゃない?」と盛り上がっていたといい、大福としての声を初めて聞いたときは「爽やか!」とびっくりしたという。
「年齢観がもしかして若いのかも。でも、マインドは本編通り、ハードボイルドで格好良かったです(笑)」(松田さん)
◆どうしようもない現実も。だからこそ「こむぎの声を聞かせて」
映画の最大の見せ場の1つが、課せられたゲームを必死にクリアしようとするこむぎに、ムジナが「なぜそんなに(元の世界に)帰りたい!(中略)この世界なら、歳も取らずに一緒にいられるというのに!」という言葉に対する、こむぎの一言だ。
「(こむぎは)いろはと一緒におばあちゃんになるんだワン!」
この台詞は、こむぎのいろはへの思いの強さがひしひしと伝わるとともに、切なくもある。それは、犬と人間は寿命が違うからだ。
そして寿命という問題は、子どもであるナツキとタヌちゃんの関係を隔てた公園の工事のように、「どうにもならない現実」でもあり、シンクロする部分もあった。
長縄さんはこのシーンについて、「もう二度といろはと会えないかもしれないと感じたこむぎからとっさに出たのが、『いろはとずっと一緒にいたい』という思いがにじみ出た言葉でした」と話す。
「こむぎは多分、わたしの方が先に寿命が来て、 とか、わたしがおばあちゃんになった時、今いろはは中学生だから…とか、そんな想像は一切していないんだと思うんです」
「わたしがおばあちゃんになった時も、いろはも一緒にみかんを食べて…とか、そういうふうに考えていると思うんです。周りから見たらピュアかも知れないのですが、こむぎにとっては当たり前のことなんですよね」
一方で映画を見た人に対して、「こむぎが思っていることと現実のズレや、ちょっと切なくなる部分を感じてほしい」という思いがあったと話す長縄さん。
だからこそ、「こむぎは当たり前のように、いろはと一緒におばあちゃんになれるものだと思っている」という感情を全面に出したいと感じ、声が枯れたって良いと思いながら演じたという。
「たしかに、どうにもならない現実もあります。だからこそ、明日ではなく今、『大好き』とか『一緒にいたい』という思いを大切な人に伝え続けるこむぎの姿勢って、きっと大切なことだと思うんです。こむぎは犬で、私たちと違うからこそ、大切なことを学ばせてくれる。そんな存在だと思っています」
〈取材・執筆=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版〉