今、日本企業の多くが人手不足や優秀な人材の確保に悩んでおり、特に若手社員の獲得と定着が急務となっています。
新卒採用においては、学生優位の「売り手市場化」が進み、学生の多くが複数の内定先の中から、業務や福利厚生などを吟味して就職先を決定しています。
ビジネスの大変革期とも言える今、学生たちは何を求めて、あるいは何を危険信号とみなして、企業を見極めているのでしょうか。
ハフポスト日本版では、2025年卒業予定で、内定が決まっている関東の有名大学・大学院の学生6人の座談会を開催。就職前から転職を見据える学生も多く、短期間での成長を重視する声、また、定時で帰れるなどの労働環境の整備はもちろん、副業などにも寛容な姿勢を企業に求める声が聞かれました。
▽座談会参加者とその内定先
Dさん:男性、総合コンサル
Hさん:女性、通信
Mさん:男性、リユース・リサイクル業
Nさん:女性、総合コンサル
Tさん:女性、広告代理店
Yさん:女性、広告代理店
内定11社、転職視野も当たり前に
──現在の就活は、若い働き手不足を受けて「売り手市場」とも言われています。皆さんも内定先を複数持っていたそうですが、その中から1社を選ぶ上で決め手になったものはなんですか?
Nさん:私はコンサルで2つの会社から内定をもらい、成長機会が多いと感じた方を選びました。コンサルを志望したのは、社会人としての地盤を固めつつスピード感を持って成長でき、かつ転職する人も多いのが理由でした。ハードワークでもメリハリがついた働き方ができると聞き、給料も良いので、福利厚生はそこまで重視しませんでした。
Yさん:私は広告業界ですが、Nさんと一緒で、転職も見据えて経験値を積みたいというのが決め手でした。今後のライフステージを考えると、今が一番「安定」を考えずに働ける時期かなと。あとは「自分らしい見た目で働けるか」も軸にしていて、髪の毛やメイクなど、見た目の制限がほとんどないことも理由です。
──すでに転職を見据えていて、成長重視で1社目を選んだということですね。
Hさん:私も将来的には転職や起業も考えています。広告と通信で1社ずつ内定をもらい、関われる事業が幅広く、取引先も多い通信を選びました。通信は基本的には定時で帰れてリモートも推進しているので、勉強や副業など自分の今後のキャリアのために関心を広げていく時間もとれるかなと、懇親会で社員さんと話す中で感じられたのが大きかったです。
Mさん:僕は特定の社会課題に関心があって、社会貢献できるかというやりがいを重視していました。福利厚生はあまり考えていませんでしたが、内定をもらった2社から1社に絞る際には働く環境が良い方を選びました。基本的には定時で帰れるけど、個人にモチベーションがあれば残業ができるなど、フレキシブルに働けることにも魅力を感じましたね。
Dさん:僕はコンサルに業界を絞っていましたが、仕事内容に加えて会社に帰属意識を持てることも重要だったので、会社と働き手の繋がりが希薄にならないような少人数の会社を選びました。
Tさん:私は50社くらい受けたので11社から内定をもらっていました。その中から1社を選ぶために候補の会社を表にまとめていましたね。福利厚生、初任給、手当、昇給の基準、賞与、勤務時間、休暇、勤務地、教育制度、平均年齢、有価証券報告書、口コミのサイトなどを比較して選んだんです。元々働き方に関して自由度が高い会社ばかり受けていたので、差別化するために利点を洗い出した形です。
ガクチカ質問は実際どう?
──11社はすごい! 有価証券報告書まで見ていたんですね。就活の自己PRではガクチカ(学生時代に力を入れたこと)が定番ですが、最近はあえて聞かない企業もあるようです。みなさんはどうでしたか?
Nさん:私は大学院まで行き、スポーツ系の部活で大会に出場していたので、むしろ聞いてもらった方がありがたかったのですが、「大学3年生のときにここまで話せることがあったかな」と考えると、そうではなかったと思います。私たちの世代はコロナで行動が制限されていましたし、部活やサークルでリーダーに就くのは4年生がほとんど。まだ2年しか大学生活を経験していない状態で聞かれても困りますよね。
Mさん:僕も学生団体で活動をしていたので、話すことは困らなかったですが、このエピソードをどう就活で評価される人材らしい形に加工するかという点では苦労しました。特に社会課題への関心については丁寧に伝えないと、少し「面倒な人」と思われたりもするのかなと。そもそも、そういう会社で働きたいかというモヤモヤもありました。
Hさん:私もガクチカで話せるエピソードはいくつかありましたが、どうしても環境によって学生時代の体験の格差は出てしまう気がします。自分で学費を負担している友人はバイトが中心で話せることが限られていると話していましたし、ガクチカのためというわけではないですが、課外活動する余裕がないからゼミで率先してリーダーをやっている子もいましたね。
AI面接には手応えが感じられず「困惑」
──最近はAI面接や動画選考なども増えていますが、実際にやってみてどうでしたか?
Hさん:AI面接を受けましたが、正直ちょっと困惑しました。1〜2時間で20〜30問ほど質問がありましたが、同じような内容も多くて…。私はグループ面接のあとの二次面接がAI面接で、それで落ちてしまったんです。AI面接だとその理由も不透明で、面接中にも手応えを感じようがなくて。動画選考でAIが判断して「スマイル度」などを測っている企業があるとも聞きました。
Nさん:私は動画選考を何社か受けました。撮影前に準備ができるのはメリットですが、身だしなみや撮影場所の確保など手間なことも多くて。いくらでも時間をかけられる分、「ちょっと首まがってるな」とか細かくこだわり始めたらキリがないんですよね。サクッとできそうで、実は受ける立場から見れば対面の方が早いんじゃないかなと思いました。
Tさん:動画でどんなことを話すかも重要で、その後の対面面接で聞いてほしい部分に触れるなど、テクニックも問われますよね。就活自体が高度化というか、戦略的になっているなというイメージはあります。
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近年、企業が新卒採用に導入するAI面接や動画選考などについては、学生からは戸惑いの声もありました。選考が複雑化する中で就活にかける時間が多く、学業やアルバイトとの両立が難しくなり、心身ともに負担が大きいと感じている人もいるようです。
後日公開の後編記事では、就活中や就職先を決める時どんな情報を参考にしたか、また、親の反対で内定を辞退する「親ブロック」の実情などについて聞きました。