「母や祖母と同じになりたくない」という友達の言葉。100年先の生きやすさのために今、地道に声を集める

就活と親族の死から見えた「地方のジェンダーギャップ」。地方出身・在住の若い女性たちの本音を映し出す「地方女子プロジェクト」ディレクターの山本蓮さんは、未来のために声を集める。
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Maki Nakamura via Getty Images

地方出身・在住の若い女性たちの本音を動画インタビューで映し出す。 

2024年1月に本格始動したばかりの「地方女子プロジェクト」は、WEBディレクターを本業とする山本蓮さんのアイデアから生まれたプロジェクトだ。

6月には「クローズアップ現代」でも放送され、番組公式サイトのコメント欄には視聴者からの感想が460件超と過去最多レベルで寄せられ、注目を集めた。

山梨県で生まれ育った「地方女子」の当事者である山本さんは、どのような動機から「地方女子プロジェクト」を立ち上げようと思ったのか。

「価値観はそう簡単に変わらないとわかっている」と語りながらも、アクションを起こした理由とは何か、話を聞いた。 

 >>前編はこちら

地方の就活で直面した女性差別

ーー山本さんの本業はフリーのWEBディレクターだそうですが、いつ頃から「地方の男女格差、ジェンダーギャップを解消したい」と考えるようになったのでしょう。

きっかけは2つあります。

ひとつは就職活動。私は山梨で生まれ育ち、県内の大学に進学しましたが、東京で経験を積みたい気持ちもあったので、山梨と東京の両方で就活をしました。

その際、山梨の企業と東京の企業では、あまりにも女性差別のレベルが違いすぎて衝撃を受けたんです。

表向きは男女平等を掲げていても、OBOG訪問では「女性は入社できてもどうせ報道には配属されないよ」と平気で言ってくる地元新聞社。留学経験があって英語堪能な先輩は営業職で採用されたにもかかわらず、「男は営業、女は事務」と入社後に性別で勝手に振り分けられていました。

地方の企業は、働き手としての女性にそもそも期待していない。女性であるというだけで、内面や能力すら見てもらえない。

地方女子の声をたくさん聞いた今ならわかりますが、これは山梨に限らず多くの地方企業に共通する風潮でした。東京の企業が完全な男女平等だとはもちろん思いませんが、少なくとも地方ほど差別があからさまではなかった。

最終的にはアルバイトで入った県内のIT企業に採用されましたが、就活がきっかけで「地元のこういう部分をちょっとでもマシにしたい」とも思うようになったのが1つです。

親戚の死から考えさせられた性別への圧

ーーもう1つのきっかけは?

親戚の死です。8年前、私が高校2年生のときに親戚が自死しました。私にとっては今も人生で一番悲しい出来事です。

彼は長く独身だったので、私が子どもの頃から「お前はいつになったら結婚するんだ」と周囲からしょっちゅう言われていたんですね。その後、遅い結婚をして義理の一家と同居することになったのですが、今度は妻や義理の両親から「男のくせに稼ぎが低い」「情けない」といった嫌味を日常的に投げつけられていたそうです。

さらに、彼の父親は「お前は一家の大黒柱なんだからしっかりしろ」と叱咤するばかりで逃げ道を塞いでしまった。そんな状況が何年も続いた結果、彼は自ら死を選びました。

それだけが理由ではないかもしれませんが、「男だから」という圧力に苦しんでいたことと彼の死は絶対に無関係ではないと思っています。

ーー伝統的な価値観が根強く残る地方では、性別による役割への期待も強い傾向にありますね。

大学の授業でジェンダーについて学んだとき、初めて彼の死の背景が見えてきました。「男は立派な大黒柱であるべきだ」という家父長的な価値観が理想とされる今の社会では、苦しみを背負わされている男性も大勢います。

就活と彼の死、この2つの大きな出来事が、「地方女子プロジェクト」の立ち上げにつながりました。

最初のうちは起業を考えていたんです。地方女性のための求人サイトを立ち上げて、ビジネスからジェンダーギャップ解消したかった。

そこで起業のリサーチのために中高時代の女友達10数人に話を聞いてみたところ、地方の女性が直面するさまざまな問題が見えてきました。「仕事がないから」も大きな理由だけれども、それだけじゃないことがはっきりとわかったんです。  

「母や祖母と同じになりたくない」

ーー同世代の女性たちの声を集めることで、何が見えてきたのでしょうか。

例えば、ある女友達は「母や祖母と同じように、自分もいつか無尽(むじん)で男のお世話をしなければいけないのは嫌だ」と話してくれました。

「無尽」は私の地元の山梨にある独特の風習で、月に1回くらい仲間同士が会費を持ち寄って、集めたお金で順番に飲み会や食事をするんですね。でも、実際に無尽で集まって飲んで楽しむのはおじいちゃんたちだけ。飲み会の場が自分の家になったとき、お世話をするのはおばあちゃんやお母さんです。

夏祭りや新年会、お盆で皆が集まる実家も同じ。お酒を飲んで騒ぐのは男性で、接待や後片付けは女性の仕事。地域全体にそういう価値観が根付いている。

ただ、多くの男性はそのしんどさが見えていないんですよね。だから、まずは知ってもらいたい。地方の日常生活の中で、女性がどんなことに苦痛を感じているのかを「地方女子プロジェクト」から共有してもらえたらと思っています。

ーーとはいえ、会社の制度設計などは変えようと思えば変えられますが、社会に長く根付いてきた価値観や慣習を変えるのはそう簡単ではありません。

そうですよね。社会や現実をどこまで変えていけるかに関しては、正直、悲観的になることもあります。正解があったら誰かがとっくにやっているはずなので。

それでも悩んで不安を抱えながら、地道に行動を積み重ねていくしかない。

「地方女子プロジェクト」のインタビュー対象者の条件に、「女性(トランスジェンダー女性含む)、ノンバイナリー、Xジェンダーなど」「本人のジェンダーアイデンティティ関係なく、社会的に女性として扱われた経験のある方」とつけ加えたのも、そうした思いからです。転出・転入のデータは戸籍が元になっており、女性に括られた人の中にマイノリティ性を持った人もいることは統計では見過ごされてしまいます。  

「性的マイノリティの問題を解決するなら、まず女性問題の解決が先でしょ」ではなくて、取りこぼさずに一緒に考えていきたい。

私、(連続テレビ小説)『虎に翼』みたいな女性が道を切り開いていく物語が大好きなんですよ。でも第一人者が活躍する史実って、どれを見ても皆さんすごく地道に行動を積み重ねている。だから歴史ってそういうものなんだ、と思えば頑張れる気がします。 

「地方女子プロジェクト」を立ち上げた山本蓮さん
「地方女子プロジェクト」を立ち上げた山本蓮さん

山本 蓮(やまもと・れん)

1999年、山梨県生まれ。都留文科大学文学部卒業後、県内のベンチャー企業に就職後、現在はフリーランスのWEBディレクター。若年女性の本音を動画コンテンツで伝える「地方女子プロジェクト」を2024年1月に立ち上げる。若年女性が首都圏に流出し、地方衰退の一因になっている現状を特集した「クローズアップ現代」で紹介され大きな反響を呼ぶ。   

(取材・文:阿部花恵/編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版) 

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