「ファーストバイト」や「バージンロード」、違和感を持つ若者が増える中、業界側から変化の風「時代に合わせた結婚式を」

時代と共にアップデートされていない、ジェンダーバイアスを感じる結婚式の演出の数々。違和感を持つ人も増えている中で、ウエディング業界から変化を起こそうという動きが出ています。

「ファーストバイト」などの演出や、「バージンロード」という呼称ーー。

結婚式での古い慣習について、令和のジェンダー感と合わないと違和感を抱いたことがある人も少なくないかもしれません。

「男尊女卑」や「家父長制」の考え方に基づく結婚式の慣習について、ウエディング業界側から変えていこうという動きが出ています。

LINEでの式場探しサービスを展開する「トキハナ」では、ジェンダーフリーなウエディングフェアを企画したり、性別に捉われない演出選びなどをサポートしたりしています。

ウエディング業界や社会に疑問を投げかけ、アクションを起こしているトキハナCEOの安藤正樹さんは「その時代の価値観に合わせてアップデートした結婚式をつくっていく必要がある」と話します。

(イメージ写真)
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Getty Images

20代の約半数「結婚式でジェンダーバイアス感じた」

Xでは頻繁に、結婚式準備中のカップルや、式に参列して違和感を感じた人たちから、今も続く古い慣習や演出に苦言を呈す投稿が見られます。

安藤さんもそのような投稿を見ていて、一度調査をするべきだと考えたと話します。

トキハナは今年、インターネットリサーチなどでアンケートを実施。特に若い世代が、結婚式の演出や慣習に違和感を抱いていることが分かりました。

5月に20〜40代の男女を対象に実施したオンラインアンケートでは、「結婚式で性別に関する偏見(ジェンダーバイアス)を感じたことがありますか」という質問に、20代の約半数である48%が「感じたことがある」と回答していました。

30代は39%、40代は37%が「ある」と回答し、年代が低いほどジェンダーバイアスを感じている割合が高い結果となりました。

「結婚式で性別に関する偏見(ジェンダーバイアス)を感じたことがあるか」の設問への回答
「結婚式で性別に関する偏見(ジェンダーバイアス)を感じたことがあるか」の設問への回答
トキハナ

また、「家父長制、男尊女卑が染みついた結婚式のプログラムはどのように対応するべきか」という質問に対しては、20代の58%が「それらのプロブラムは無くすべき」と答えました。

「家父長制や男尊女卑が染み付いた結婚式のプログラムはどのように対応するべきか」という設問への回答
「家父長制や男尊女卑が染み付いた結婚式のプログラムはどのように対応するべきか」という設問への回答
トキハナ

また、2〜4月にXで取ったアンケート(有効回答者数374人)では、「ジェンダーバイアスが強すぎる演出」として「ファーストバイト」や「バージンロード」などに、違和感を持つ声が多く寄せられました。

古くからの慣習の一つであるファーストバイトには、新郎から新婦へ「一生食べ物に困らせません」、新婦から新婦へ「一生おいしい料理を食べさせます」という意味があるとされています。

しかし、現代では共働きで家事を分担する夫婦が増えています。フリーコメントでは「家父長制の染みついた演出が多すぎる」「あなた色に染まるという純白のウエディングドレスの意味を知って驚愕だった」との声が寄せられました。

「2人が選べるように」選択肢をノートやLINEで紹介

アンケートの結果を受け、トキハナでは5月から、結婚式準備の際の参考にできればと、ジェンダーフリーウエディングの選択肢について紹介する取り組みを始めました。

LINEで自分たちに合った式のスタイルを知れる「コンセプト診断」や、式場が決定したトキハナ利用者にプレゼントしているノートで、性別に捉われない演出の選択肢などについて紹介しています。

ノートでは、慣習やしきたりに捉われない選択肢を2人が選びやすいように表記している
ノートでは、慣習やしきたりに捉われない選択肢を2人が選びやすいように表記している
Sumireko Tomita / HuffPost

実際にウエディングプランナーと話す際に相談しやすいよう、ノートでは様々な項目を掲載。

例えば、従来の式や披露宴では定番の演出である、入場のエスコートの有無や一緒に歩く人の例、「バージンロード」を「ウエディングロード」と呼ぶなどの呼称の代替案などを提案。慣習としては新郎の名前を先に書くべきとされていた招待状の差出人氏名の順番も、「自分のゲストは自分が先」などの選択肢を紹介しています。

安藤さんは「結婚する2人が慣習に邪魔されずに自分たちの考え方に合った式を作れるよう、まずは選択肢があることを知ってほしいと思ってノートや診断を作りました」と話します。

「もっと自由にしていいし、変更を提案していいということを、ウエディング業界側からきちんと選択肢として提案する必要があると感じました。今は、きちんとヒアリングをするプロセスもない状況だと思います」

アンケートの結果を受け、世の中の結婚式やジェンダーに対する意識や考え方が変わってきていると確信したからこそ、業界側からもアクションを起こしていきたいと考えているといいます。

「業界側から変えていかないといけないし、発信していきたい。時代や考え方は変わっているのに、結婚式の演出は変わっていなかった。ニーズにどう向き合っていけるかが大切になってくると思います」

トキハナCEOの安藤正樹さん
トキハナCEOの安藤正樹さん
Sumireko Tomita/ HuffPost Japan

式場と連携し、ウエディングフェアも。広がる輪

「式場と連携してできることもあるはず」とトキハナは式場に声を掛け、賛同してくれた3社と首都圏の9会場で7月、ジェンダーフリーな考え方を前提としたウエディングフェアを初めて開催しました。

フェアでは、通常の式では「普通」となってしまっている、男尊女卑・家父長制的な考え方に基づいた演出などは提案に組み込まず、結婚する2人のジェンダーに対する考え方を尊重し、式を作っていくスタイルを取っています。

時代に合わせ、ブーケトスやファーストバイトなどの演出をやめた式場も少しずつ出てきていて、デフォルトの提案には慣習的にそのような演出が入っていても、変更をお願いしたら変えられる式場も。式場単位でも、司会者単位でも、気をつけている人が増えているといいます。

一方で、全国的に見ると、変更をお願いすると「特別対応」とみなしたり、変更を渋る・断ったりする式場も。

業界から変化を起こし、輪を広げていくためにも、トキハナは今後も定期的にフェアを開催していく予定です。

業界内からも反響。「変わっていく必要」

トキハナが、プレスリリースなどを通じて調査結果や取り組みなどについて発信していると、業界の関係者からはポジティブな反応も多く、「よく言ってくれた」との声も寄せられています。

式場で働く若手プランナーなどは、勤務先の挙式の習慣やルールとして慣習的にやっている演出に疑問を感じる人もいて、モヤモヤしていても、なかなか言い出しにくい状況があります。

安藤さんは「いつか変化は起きる。それなら早い方がいい」とし、こう話します。

「少子化で結婚式を挙げる人の数が減っている中で、結婚式業界としても、よりユーザーニーズに対応していかないといけないという認識は、今後さらに高まってくると思います。ジェンダーや結婚に対する考え方や価値観も変わっていっている中で、業界側もそれに対応して変わっていく必要があります」

(取材・文=冨田すみれ子)

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